教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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自主活動を通して憲法を学ぶ・世界を学ぶ
〜大町北高校アジアフ係の活動とその後〜
2011年5月9日
 
山元 芳枝さん(長野県池田工業高校教員)
 

1.はじめに
  憲法に関わる教育実践の1つとして、前任校の大町北高校で経験させていただいた「アジア・アフリカ難民支援運動」を紹介させていただくことになった。私の活動経験であり、現在大町北高校で行われている活動内容と違う点が多少あるかもしれないが、許していただきたい。

2.アジア・アフリカ難民支援運動
  大町北高校のアジア・アフリカ難民支援運動(略してアジアフ活動と呼ぶ)は、長い歴史を持ち,今年で23年目の活動となっている。1985年の3年5組が始めたふろしきを集めてアフリカへ送る活動が発端となり、2000年には全校で取り組む活動となった。全校生徒が地域の家庭を回り、支援物資を集め,NGO団体を介して、主に西アフリカのマリ共和国に送っている。送ることのできない品物は輸送費を生み出すために、文化祭のバザーで売る。
  この活動は全校生徒が取り組む活動と述べたが、生徒主体のボランティア活動だ。毎年、7〜8割以上の生徒が物資回収に参加している。活動の中心となるのがアジアフ係であり、物資の輸送のために使うミカン箱集め、物資回収の計画やバザーの企画・準備・運営を行う。係長や副係長ともなれば,アジアフ活動の核となるのだから約1年にもわたる苦しい仕事,作業に携わることになる。この活動を中心となって取り組もうとする生徒がいなければ途切れてしまう可能性もあるのだが、23年間途切れることなく続いてきた。
  この運動の継続を可能にしている原動力がどこから生じているのかを考えてみたい。

3.アジアフ学習
  大町北高校では生徒がアジアフ活動の意義を理解するために「学ぼう!大町北高アジア・アフリカ難民支援運動」という学習冊子が編集された。
  この冊子の内容は、アジアフ活動の歴史、難民問題の現状、調べ学習のための資料などである(大町北高校のホームページに掲載)。 総合的な学習の時間が始まった年から、1年生は冊子を使ってアジアフ活動の学習に取り組んだ。冊子を使って何をどのように学ばせようかと、担任団や係が話し合いを繰り返した。色鉛筆で冊子に色を塗ったり、問題形式に答えたりしながら生徒はアジアフ活動について学習を深めていくわけだが、この学びの内容の根幹となっていることをいくつか述べたいと思う。

4.We are the world.
  生徒達が集めた物資は、マザーランドアカデミーというNGO団体を介して、西アフリカのマリ共和国に主に送られている。日常生活ではあまり話題にのらない国であり、生徒達はアジアフ冊子を使ったり、インターネットなどを使いながらマリについて調べ学習を進めていく。そしてマリについて調べていくうちに、いろいろなことに驚かされたり、気がつくようになっていく。自分達は何不自由なく暮らしている一方で、貧困と飢餓によって飢え死にする子どもが世界にはたくさんいること、井戸もなく不衛生な水しかない地域が多く、それが原因でかかる下痢や病気により世界の難民の子どもたちがたくさん命を落としていることを知る。このような世界で起こっている実情を理解し、人の命の等しく尊いことを実感していく中で,自分には何ができるのかと生徒達は考えるようになる。

 「生まれた国や場所が違うだけで,貧富の差がはげしかったり、生きることさえ困難だという事実を知った今、アジアフはどれだけ大切な活動かということを改めて実感できます。物資回収をする時には、初めとは違った気持ちで取り組むことができました。」<生徒>
  「最初は面倒くさくて,自分だって忙しいのに顔も知らない人たちのために、やってられないとか思っていました。でも展示のためにマリ共和国のことを調べ、やらされている感じからだんだんとやらなくちゃいけない感じになってきました。物資回収では文句を言ったりもしたけど、文化祭のバザーで前の年よりもたくさんのお金が集まったのを聞いて、たった百円でもいろいろなことができると聞いていたのでとても嬉しかったです。ビラ配りでもたくさんの地域の人たちが嬉しそうにそれを受け取ってくれて一生懸命物資を出してくれたり、物資がなくてたくさん謝ってくれたことなど、今思うと大町の人が一つになったんじゃないかと思います。」<生徒>

 生徒の感想にみられるように、生徒達はこの活動を通して世界に目を向けるようになり、人を助ける気持ちや人への思いやりを学んでいる。
  アジアフ活動のテーマソングとでもいうべき曲がある。マイケル・ジャクソンらのアメリカの音楽家達の作詞作曲による We are the worldという曲だ。この曲は現在のアジアフ活動の発端となった3年5組の活動が始まった年、1985年にアフリカ難民支援の歌として発表された。この歌はアジアフ活動の継続と共に大町北高校では歌い継がれてきているが、生徒はこの活動を通して We are the world―自分は世界とつながっている―ということを感じることができる。

5.人との関わり
  前述したように、地域から集めた物資はマザーランドアカデミーというNGO団体を通してマリ共和国に送られる。このNGO団体はこの活動に最初から関わっていただいた団体で、アフリカへの独自の輸送ルートをもち、国連機関の援助の手が届かないような村々に物資を届けたり、井戸掘り、植樹、米作りなど様々な活動を精力的に行っている団体である。
  このマザーランドアカデミーへアジアフ係を中心とした生徒達が毎年1日研修に出かける。

アジアフ研修

 「・・・・代表の村上章子さんは教えてくれました。『命は皆平等であり、人は人を尊敬するために勉強する。』その言葉は私たちの心に響きました。人は遠くにいてもみんながつながっているのだと思います。しかし、今すべての人が平等ではありません。私たちが物資を送っているマリ共和国でも、砂漠化、飢餓で多くの人が苦しんでいます。貧困や不平等、それらは私たち人間が起こしたことなのです。だから、同じ人間同士で協力しあい解決していかなくてはならないと思いました。・・・私たちはたいへんやりがいを感じながら係の仕事をしています。人を助けることは当たり前のことです。支援することで私たち自身の気持ちも変わってきます。物を大切にする気持ち、人を大切にする気持ちが生まれ、それらが当然のようになります。アジアフ活動は、私たちに希望と精一杯努力しようという気持ちを持たせてくれる活動です。」 <研修に参加した生徒の感想>

 アジアフ係の中心となって仕事をすることはとてもたいへんなことだ。汚れた物資を洗濯し、バザーの品物に値付けをする。疲労からお互いの気持ちを察することができずに係内で軋轢が生じることもあった。しかし、生徒達はマザーランドアカデミーでの研修を通し、自分達の作業の先にどんな人達が待っているのかを十分に理解しているため、長く苦しい作業をやり抜いていく。
  この活動を通し、生徒達は様々な人と関わっていく。物資回収では上級生と下級生の縦割り班で地域を回り、学年を越えたつながりが生まれる。地域では訪問先で地域の人達との対話があり、多くの励ましの言葉をかけていただく。様々な人との関わりの中でいただいた教えや励ましが生徒の自信につながり、そして自分も誰かのために役に立っているという自尊感情が育つことにつながっている。

6.おわりに
  アジアフ冊子の中に日本国憲法の前文が載っている。活動に関わっていた当時は憲法のことを強く意識していたわけではないが、今ふり返ってみると,生徒たちが人権を尊重し、平和な国際社会の実現に向けて努力できる社会人となることを願った人間作り教育として、アジアフ活動はたいへん貴重な活動であり、私自身も多くのことを学ばせていただいた。
  大町北高校では、この活動の経験から、卒業後に人と関わる職業へとつながる進路を選ぶ生徒が多い。社会人として活躍している卒業生のアジアフ活動をふり返ってみた現在の心境を載せておく。

 「・・・・私は今、小学校で栄養士をしています。給食の残飯を見て、もったいないなと思うことがあります。
  パンの日だったある日、私はいつものように各クラスから戻ってきたパン箱から、残ってくるパンを1つのバットの中に集めていました。食べかけのパンだったり、お休みの子のパンだったりいろいろあります。ある数人の子供達がそれを見て言いました。『これ、全部残ったパン?もったいないね!』私は何だかとてもほっとしました。『もったいない』という言葉が出たからです。『しょうがない』とか『いつも残しているし』と言われたらどうしようかと思ってしまいます。まだ、子供達にも『もったいない』と思える子供達がいて安心しました。『もったいない』と思える気持ちは大切だと思いました。私がアジアフ活動で学んだ『物を大切にする』ということにつながるからです。私はその時、このことは子供達に伝えるべきことであり、私にできることではないかと感じました。
  まだまだ栄養士としても未熟な部分が多く、子供達にアジアフ活動で学んだことを伝えきれていません。しかし、未来を担う、この子供達にこそ伝えるべきことだと思います。・・・」

 アジアフ活動が生徒の考え方、生き方にどのように影響をもたらしているのかを垣間見ることができる。そして、アジアフ活動は「物を大切にし、人を大切にできる人」につながると私は確信している。

※本稿は、長野県高等学校教育文化会議発行の教文ブックレットNo.7「"改憲"YESorNO 高校生の選択 〜高校生の憲法意識調査と憲法の教育〜」(2009年2月発刊)に掲載された原稿を長野県高等学校教育文化会議のご了解の下、転載したものです。