教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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法政大学第二中高等学校の「高校三年三学期」
2011年5月16日
 
岡 稔彦さん
(法政大学第二中・高等学校教員)
※2011年度より法政大学中学高等学校に異動
 

1.法政二中高の「高校三年三学期」
  法政二中高は法政大学の付属校であり、多数の生徒が学内推薦によって法大に進学します。そうした特性を生かした取り組みが「高校三年三学期」です。2010年度の「高校三年三学期」は、2011年1月8日から3月4日までの間を、二つの期間に分けて行われました。この二つの期間を、第1、第2クールと、それぞれ呼んでいます。
  この取り組みでは、HRクラスとは別に、法政大学の学部学科に準じたクラスを編成します。法学部クラスは、そのうちの一つということになります。2011年度は法律学科進学予定者をA・Bの2クラスとし(22名と23名)、政治学科と国際政治学科の進学予定者(20名)を1クラスとしました。

2.「高校三年三学期」法学部クラスの取り組み
  この「高校三年三学期」の取り組みには、二つの目標があります。それは、第1クールの最後(2010年度は2011年2月17日)に設定されている「研究発表大会」での発表と、第2クールの最後に提出が課されている「まとめの論文」の作成です。研究発表は6〜7名で構成する班が単位となり、一つのテーマについて共同研究を行います。また、まとめの論文は、この共同研究の成果に基づいて、第2クール期間中に各人が作成するということになります。
  2010年度は法律学科進学予定者クラス(A・Bクラス)について、教員側から以下のようなテーマを二つのクラスの各班に与えました。
  1班=日本国憲法  2班=社会的マイノリティ 3班=死刑制度 4班=裁判員制度
  生徒たちの研究活動は、このテーマに基づく文献調査などから始まります。書籍、雑誌、新聞などを読んで、このテーマの何が社会的に問題となっているのかをつかむための作業です。そして、問題意識をもったのち、資料を集めて分析し、その上で自分たちの考えをまとめていきます。
  また、さまざまな講演会(法学研究者、弁護士、検察官、司法書士、会社経営者、二高出身の大学生、人権擁護団体で活動されている職員やボランティアの方々など)を企画し、さらに、法律・政治に関わる映像作品の鑑賞(映画や特集番組)、神田神保町での古書街探訪、他大学キャンパスの見学会(今年度は東京大学駒場キャンパス)といったことも、取組みの内容となっています。
  法律学科進学予定者は、これに加えて横浜地方裁判所での裁判傍聴を行います。

3.訪問取材について
  上記のような調査の際に、私たちが生徒に課しているのが、訪問取材です。
  どんな事象にも「現場」があり、そこで起きている出来事には文献などには現れない何かがあると、生徒たちには話をします。したがって、こうした現代社会を分析する研究にはフィールドワーク、つまり現場を訪ねたり、専門家や当事者の話を聞くということが必要であり、それを必須のこととして課しています。
  文献調査等をふまえ、どこに、あるいは誰に対して取材するかを生徒が自分たちで決め、アポをとり、訪問して取材するという活動です。
  今年度の研究では、与野党の政治家や政党本部、人権擁護団体、弁護士、ジャーナリストといった団体・組織や専門家の方々に訪問取材をお願いしました。

4.研究活動の具体的状況
  生徒たちの研究活動の具体的な状況は、次のようなものでした。
  日本国憲法をテーマとした班は、二つのクラスの班とも第9条の「改正」問題をとりあげました。
  教員の立場でみると、憲法といえば9条で代表させてしまう生徒の発想は、やや物足りないといわざるを得ません。日本国憲法は、人権について、本当に豊かな内容が盛り込まれており、第3章を詳細に読んでいくだけでも、さまざまな現代社会の問題や課題を考えることができると、私たちは考えます。そうした意味では、生徒の目を新しい分野に向けさせることに成功しなかったというのが、実感です。
  しかし、平和主義への関心の高さという点では、積極的な評価をできるといえるでしょう。
  とにかく生徒たちは「日本国憲法第9条改正問題」を焦点とし、研究活動に取り組みました。訪問取材では、これまで対立的な意見を聞けそうな2か所に訪問するよう指導してきましたが、アポとりに苦しむ班もあったことから、今年は1か所にしぼって訪問することを課しました。
  訪問先として、Aクラスの班が伊藤真先生、Bクラスの班は地元で活動している「中原・今井 九条の会」を、それぞれ選んでいます。
これまでの例では「日本国憲法第9条改正問題」をテーマとした場合、小泉・安倍両首相を頂点に政治の場で論議されることが多かったためか、政党を訪ねるというのがほとんどでした。「対立的な意見を聞く」という課題の設定もあって、自由民主党と日本共産党の本部を訪ねるのが定番となっていたのですが、今年は取材対象が大きく変わったことが印象的です。伊藤先生のご著書や活動、また、各地の九条の会の活動が、関心の高い人たちの間だけでなく、高校生の視野にも入るようになった、ということでしょうか。

伊藤先生を取材した生徒の感想
  「軍事力で攻められたら軍事力で返さなければいけないと思っていたのがそうしないで平和を守る方法があるということは頭に浮かんでいなかったし、驚きました。たいへんためになりました。」
  「尖閣諸島問題があったときに、日本は軍事的に力を持っていないから中国におさえつけられているのではないかと感じたのですが、そうではなくて、経済的問題があるのだということがわかりました。また、相手国より強い軍事力をもっても解決にはならないということがわかって良かったです。」

「中原・今井 九条の会」を取材した生徒の感想
  「うかがう前は、そもそも日常的な活動をしているかどうか、疑わしい感じすらしていた。事務所があるわけでもないし、個人の家での活動というのがよくわからなかったからだ。しかし、事前に調べたり、うかがって九条の会全体の話を聞き、熱心なばかりでなく、恒常的に活動していること、広い範囲で多くの九条の会があることを知り、そのことが一番驚いた。」
  「もともと憲法9条の改憲に反対だったが、この取材を通して、『自衛隊の存在や活動によって9条が現実と異なるよくないもの、という見方がされつつあるが、それは逆なのだ』と確信した。条文と自衛隊の存在が矛盾するのであれば、守るべきは条文である。自衛隊を今すぐなくせるとは思わないが、日本が徐々に軍備を縮小し、さらに世界全体が軍備縮小への道を切り開くことが今後必要であると、いまは考えている。」

5.研究発表大会における発表内容に関して
  研究発表大会では6人で構成する一つの班に20分間の時間が割り当てられ、日本国憲法をテーマとした二つの班とも、各人が分担して、自分たちの問題意識、文献やインターネットなどで調査した内容、訪問取材で得た内容、自分たちの分析という順番でそれぞれが述べ、最後に結論に至りました。
  教室環境の問題でパワーポイントや映像資料などが使えないため、模造紙にグラフや地図といった視覚資料を手書きし、レジュメを作成して配布という形で発表を行います。当日の模様は、法政二中高のホームページ(http://www.hosei2.ed.jp/shs/lastterm/index.html)にアップされていますので、ご覧ください。
  さて、法政二高の生徒たちの多くは、年度当初のアンケートなどからみて、日本国憲法第9条の「改正」には批判的です。しかし、この「高校三年三学期」の取組みの中でさまざまな意見を知るにつれて、単純な問題ではなさそうだと感じるようになります。
  特に自衛隊は、生徒たちにとってむずかしい存在のようです。そのため、結論部分は後述したように「皆さん、よく考えましょう」といったニュアンスになってしまいましたが、問題の複雑さに気付いただけでも、大きな成果といえるのではないかと考えます。

6.到達点
  以上のような研究活動ののち、生徒たちは研究発表の臨んだわけですが、例年に比して客観性が大変高まったように思えます。二つの班とも、改正論と反対論を紹介・分析したうえで、自分たちの結論としては、可能な限り情報や知識をとりいれることを参観者に提起し、これからの日本国にとって重要な問題になるであろうことから、よく考えなければならないと呼びかけて、班の結論としました。
  これには、積極的な評価を与え得る面と同時に、逆の面もみえると考えられます。稚拙であっても、高校生として情熱的に主張をしてほしいと考えれば、この客観性は物足りないものです。改憲に賛成するにしろ反対するにしろ、自分の意見を高校生なりにつくりあげ、思いきり世の中に対してぶつけてみることは、経験として大切なことではないでしょうか。
  いずれにせよ、教室を離れて伊藤先生に、あるいは九条の会で活動する方々に直接お話をうかがったことは、生徒たちにとって貴重な経験となりました。今後、法政大学法学部に学ぶ学生として、一層の認識の深まりと社会への還元を願ってやみません。