教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
トップページ 憲法教育を考える 学校で憲法を生かす
 
学校で憲法を生かす 〜生徒を中心に保護者・地域とともに創る高校〜
2011年6月6日
 
有賀 剛志さん(長野県岡谷東高校教員〔当時〕、現在は長野県岡谷南高校教員)
 

 憲法を学ぶ学校が、憲法が生かされた場でなければならないのは言うまでもありません。教育権など憲法が保障する諸権利(人権)が現実に保障されていない学校で憲法を教えても絵空事となってしまいます。学校に憲法を生かすとはどういうことなのか、そのことを考える一つの材料として、私の岡谷東高校での経験を提供したいと思います。
  尚、この報告は、「教育のひろば〜ながの」(長野高教組発行)、2006年総合教研(長野県教育文化会議)、2007年全国教研、「開かれた学校づくり全国交流集会in辰野」の各レポート、「高校生活指導176号」(青木書店)などでも報告しましたので、最初に申し添えておきたいと思います。以下の報告は「高校生活指導176号」の原稿を加筆修正したものです。

1.誇りのもてない生徒たち〜学校を変えよう
 岡谷東高校は95年の歴史をもつ県立高校です。その歴史の大半は地域の女子生徒の教育を担い、地域のさまざまな場で活躍する人材を輩出する女子高校としての歴史でした。本校が男女共学校になったのは今から20年程前、県立高校の中では共学化の最も遅れた高校でした。高校進学率の上昇と通学区の拡大、男女共学化の遅れなどいくつかの要因から、ここ10数年ほどの本校の現状はかつての伝統女子高校の面影は影をひそめ、受験競争の輪切りの中で、さまざまな困難を抱えた生徒が多数入学して来るいわゆる「教育困難校」のひとつとなって来ていました。
  「やっぱり東だわ。」・・・数年前のクラスマッチで審判に不正があったと言いながら、担当クラスの女生徒がこうつぶやきました。その頃、「どうせ東だし。」という言葉もよく耳にしました。自分の学校に誇りが持てない、自分自身にも誇りが持てない、こうした状況を何とかしたいという思いを私は強く持ちました。
  4年前に担当クラスを卒業させ、生徒会係の責任者をすることになりました。そのとき私は文化祭改革で学校を変えられないかと考えました。かつての勤務校飯山北高の文化祭で「大きなもの作り」や「クラスでの気球作り」、「教室を劇場にしたクラス演劇」「全校合唱コンクール」などで学校中が盛り上がり、生徒たちが生き生きと活躍した経験をもっていたからです。当時のビデオを生徒会執行部の生徒に見せ、「大きなもの創りなど全校生徒が関われる文化祭を創ろう」と提起しました。この提起に対し生徒会執行部を中心に、「やってみたい」「校舎より高い御柱(地元諏訪大社の御柱祭を模して)を作ってみたら」ということになりました。この取り組みに関わった生徒達は大きな感動と自信を持つことができたように思います。けれども、全校生徒が関わったとは言えませんでした。こうした取り組みを続けながらも、学校を大きく変えるためには、もうひとつ、何か決め手がほしいようにも思いました。祭りの場ではなく日常の場での学校改革が必要でした。
  文化祭が終わり、当時2年生の新執行部が選出されたのを機会に合宿を持ちました。生徒会とは何をするところか、今年の生徒会は何をするのかを学び考える目的の合宿でした。合宿での討論のテーマを「東高のどこを変えたいか。」と「どんな東高祭にしたいか。」の2点としました。生徒達は思いのほか活発に討論しました。「東高の変えたいところ」では、制服の問題やその他の校則の問題が話され、校内美化などの問題も取り上げられました。その後、執行部の話し合い、生徒総会を経て、この年の生徒会目標は東高改革の願いを込め「革命」と決められました。

2.PTS協議会で学校を開く
 東高には以前から生徒と職員、そして保護者が懇談をするPTS懇談会がありました。この懇談会を、生徒達が話し合い、変えようとしている制服や校則などを最終的に協議し決定する場所として位置づけようと考え、「PTS懇談会」の「PTS協議会」への格上げを職員会に提案しました。イメージは辰野高校の三者協議会です。管理職も含め、この提案には反対もなく、すんなり実行に移されました。教頭からはPTSを改め、生徒を先にしてSPT協議会(スパット協議会)にしたらどうかなどという前向き?な提案もありましたが、校長から伝統の名前を残してほしいとの話があり、PTSの名前は残すことになりました。その後、「PTS協議会設置要綱」も作られ、本校の内規集にも入れられました。校務分掌にも教務係・生徒会係・PTA係から1名ずつを出してのPTS協議会係が位置づけられ、学校行事予定表(年暦)にも正式行事として年2回の定例会が盛られるようになりました。
  第1回PTS協議会を開くにあたり、生徒会では制服の問題を中心に、「生徒心得」の改正が話し合われました。執行部案は「伝統の制服は標準服として儀式のときなどに着るように残しつつも、平常時は私服での登校を認める」という制服自由化論。この案を各クラスで話し合い、全校アンケートなども行い、生徒総会で決定し、PTS協議会に提案しようとしたのです。こうした動きに対して、受けて立つ職員も真剣な議論を行いました。保護者にも、この問題に対する緊急アンケートを行い、同時に、PTS協議会に向け、学校への要望、生徒への要望を書いていただきました。学校への要望では「指導が甘い」などの手厳しい職員批判もありましたが、制服の自由化も含め、おおむね学校の方針や生徒の提案に対する賛意が寄せられました。こうした準備の末、第1回PTSが開かれる前日の生徒総会で大どんでん返しがありました。それまで、アンケートなどでは賛成が多かった執行部の制服自由化提案に対して、反対意見が出され、討論の末、原案が否決されてしまったのです。翌日のPTSで提案する予定の原案が否決され、執行部の生徒も生徒会顧問の私も大慌てでしたが、あとから考えれば、これも愛嬌、民主的な手続きの中では当然ありうることでした。第1回PTS協議会では、「PTS協議会設置要綱」の提案と承認の後、生徒会から制服問題での顛末が報告され、それに対して保護者や同窓生、教職員から励ましの意見が出されました。また、「東高を良くするために」というテーマで三者から率直な意見交換がなされました。
  以来、年2回のペースで協議会が行われ、PTSの三者に加え、同窓会や学校評議員の参加も恒例となり、2007年の秋で7回目を迎えています。制服をはじめとする校則論議や放送施設の改善要求、自動販売機の設置要求、授業に対する生徒・職員双方からの要望など様々な論議がされてきました。授業改善の要望が生徒たちから出始めたことは大きな成果だったように思います。こうした議論が職員会だけで行われるのではなく、学校の主人公である生徒を交えて行われることに大きな意義を感じています。同時に、生徒と職員の議論の間に保護者や同窓生、地域の方が入ることで、議論が豊かなふくらみを持つように思います。保護者は時として教職員の応援をしたり、生徒の味方になったりと実に良い役回りを果たしています。

3.問題行動生徒への指導のあり方〜保護者と手を結ぶ努力
 生徒会担当者としてPTS協議会を立ち上げた翌年、校務分掌の変更があり、生徒会係の責任者から生活指導係の責任者となりました。本校の生徒は実にさまざまな問題を抱えています。両親の不和による家庭崩壊の下、心が荒んでいく生徒、多重債務を抱え、借金取りに追われる家庭にいたたまれなく、家出する生徒、小学校時から万引きを繰り返してきた子、喫煙、無免許運転、自転車盗など、問題行動を起こす生徒は後を絶ちません。そうした生徒に対して「家庭謹慎」や「方向転換指導(事実上の退学勧告)」などが繰り返され、それらの指導をめぐって、学校と保護者が対立したり、保護者が学校から自分の子の問題行動を隠したりといった事例が多数見られました。保護者が学校を飛び越えて県教委に訴えるといった場面もありました。
  こうした、学校と保護者の対立関係の中では、本来の生活指導は成り立ちません。そこで、保護者の協力を得られる「問題行動指導」のあり方を確立する必要を感じ、生徒の問題行動に対する指導のガイドライン「問題行動生徒に対する反省指導・懲戒処分について」を作成しました。この中で「問題行動は子供たちの成長過程の一現象であり、それらに対する指導は重要な学習過程である」ことを学校として明確にし、「問題行動指導」と「問題行動に対する懲戒処分」を明確に区別することを確認しました。また、反省指導もこれまでの「家庭謹慎」中心から「登校反省」中心に切り替え、この指導も学習活動と位置付け、授業同様の出席扱いとしました。地元の弁護士の支援も得て、子どもの学習権の保障を何よりも大切にしたガイドラインをつくったつもりです。これを保護者にも公開し、理解を得ることで、子どもたちの問題行動指導をめぐってのこれまでの対立の構図を解消し、子どもを中心に学校と保護者が共同で指導にあたる体制を確立したいと考えたのです。このガイドラインに沿った指導を行うようになったその後の3年間、生活指導のあり方をめぐって学校と保護者が対立をしたり、保護者から県教委に苦情が寄せられたりということはほとんど皆無となりました。

4.「I LOVE  東」嵐の中、成長する生徒達と学校を支える保護者・地域
 こうした、下からの(現場からの)学校改革・学校づくりの努力を無視する形で、2005年、県教委の「高校改革プラン」が提案されました。提案は「改革」・「統合」という名の東高の廃校提案でした。2006年2月の第3回PTS協議会では統合反対の寄せ書きが生徒会から提起され、同窓会やPTA、学校評議員がこれに応じました。生徒たちは全県の高校生集会や県教委の説明会、県議会の意見聴取会などで堂々とした論陣を張りました。「生徒が減らないのに統合は必要ない」「現在の東高は魅力ある学校、県教委の案には魅力がない」「多くの人が反対しているのに強行するのは民主主義に反する」「県議会で統合を止めさせる条例を作ってほしい」。同窓会やPTAもこれに呼応し、統合反対の組織を立ち上げました。独自の署名も行われ、5万筆を越える署名が集められました。2006年5月の第4回PTS協議会では、県教委からの指示の下、管理職から新しい統合校のイメージが説明されました。しかし、それに対して、生徒会副会長は6月県議会が終わるまでは反対運動を続けると表明し、同窓会長やPTA会長、学校評議員も同じ思いであると発言しました。PTSや統廃合問題を通しての生徒の成長ぶりは目を見張るものがありました。2006年7月の東高祭のテーマは「I LOVE 東」地域や同窓生の期待も肌で感じ、生徒達は東高に誇りを持つようになっていました。(ちなみに統合相手校の岡谷南高校の同年文化際テーマは「南高不落」これも頼もしいテーマでした。)。

県議たちを前に堂々と発言する
岡谷東高校の生徒

5.生徒・保護者・地域の共同の取り組みが県政を動かした
 生徒達は統合反対の校内寄せ書きを大きなタペストリーにし、それに加えて、諏訪郡下のすべての高校生徒会にもこの寄せ書き運動への協力を依頼し、多くの高校から寄せ書きが集められました。同窓会やPTAの署名運動も統合相手の岡谷南高校の同窓会・PTAと合わせて、10万筆に及び、県教育委員会や県議会への陳情も繰り返されました。かつての女子高校時代の東高を支えた同窓生たちが70歳を超える皆さんも含め、孫のおむつを鉢巻に仕立てて、貸しきりバスで県庁包囲行動に参加したりもしました。
  地元地域も、諏訪郡下6市町村のすべての首長、議会、教育委員会、商工会議所、PTA連合会、各校同窓会などが統合反対の声を上げました。文字通り、地域総ぐるみでの反対運動は、県下各地で同様に行なわれた運動とも結んで、県議会を動かす結果となり、高校統廃合に関わる「高校設置条例」の改正とそれに基づく、県教委統廃合案の否決という画期的な結末を手にするに至りました。「条例改正案」は共産党の提案に自民党などが賛同し、共同提案するという前代未聞の事態でもありました。生徒・保護者・地域の共同の取り組みが県政を動かしたのです。

県庁包囲行動の同窓生たち
孫のおむつで作った鉢巻きを締めて大型バスで参加

6.新たに動き出した下からの学校改革・学校づくり
 こうした結果を踏まえて、今改めて、東高校に対する生徒・保護者・地域の思いをしっかり受け止め、東高を一層、保護者・地域に支えられ、保護者・地域に開かれた学校にしなくてはならないと思っています。
  2007年現在、職員集団では、今後の学校づくりについての検討がされ、その一部が実践されつつあります。県教委が目指した統廃合とその後の「進学型の単位制高校」設置案は、今本校に通学している生徒たちを締め出し、「良い子」を集めた「良い学校」をつくろうというものでした。私たちは、そうした「学校づくり」ではなく、今目の前にいる生徒たちがしっかりとした力をつけられる確かな教育力を持った「良い学校」をつくろうと考えています。新たな学校改革の大きなテーマは二つ。一つは「生徒に学びの実感(喜び)と自信をどう持たせるか」、もう一つは「地域の力を学校教育にどう結びつけるか」です。前者については生徒による授業評価なども踏まえ、各教科でもう一度自らの教育課程を検討しなおそうと話し合いが進められています。後者についてはプロジェクトチームが総合的な学習の時間やHRなどを活用しての「地域共同・体験型学習」の構築を目指して検討を始めました。
  また、2007年秋には、これまでの代表者によるPTS協議会に加え、「アルバイト規則の改正」や「自販機設置問題」などをテーマに全校生徒とより多くの父母が参加しての「全校PTS」も開催されました。
  これらの取り組みは、様々な試行錯誤を経るとしても、これまで本校が創り上げてきた、生徒・保護者・地域・教職員の共同の力を一層強め、本校を確かな教育力を持った学校へ変えていくだろうと確信しています。県教委が示した経済効率優先・競争と選別の教育の強化を柱とした「高校改革プラン(高校統廃合計画)」や学校を「サービス機関」と位置づけ生徒・保護者を「顧客」と見なす新自由主義的な教育観に対峙される、新しい参加型の教育モデルになるだろうと考えています。

 以上の報告が、学校に憲法を生かす取り組みの報告として、同時にその中で子どもたちが憲法を学び、主権者として成長していく教育実践の報告として、お読みいただけたみなさんの参考になればと願います。

※本稿は、長野県高等学校教育文化会議発行の教文ブックレットNo.7「"改憲"YESorNO 高校生の選択 〜高校生の憲法意識調査と憲法の教育〜」(2009年2月発刊)に掲載された原稿を長野県高等学校教育文化会議のご了解の下、転載したものです。