教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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憲法の国民主権の見地から裁判員制度を伝える
2010年8月9日
大城聡さん(弁護士・裁判員ネット代表)
 

―――2009年から裁判員制度が始まりましたが、裁判員ネットは裁判員裁判の状況をウオッチし、その充実のための課題を提起するなど積極的な活動を展開しておられます。裁判の制度や国民の司法参加のことも中高教育の重要なテーマであり、その一層の充実のため、裁判員ネットの活動の経験をふまえた提言を伺いたいと思います。
  まずは、裁判員ネットの活動にはいろいろな方々が参加しておられます。インターンや市民モニターも迎え入れていますが、その様子からお聞かせください。
(大城さん)
  裁判員ネットは裁判員制度の現状を検証し、改革課題を提起していくために立ち上げ、賛同してくださる市民の方々にスタッフになってもらい、あるいは学生をインターンとして迎えて活動していただき、市民モニターには裁判員裁判の傍聴報告をしていただいています。
  この間多くの大学生をインターンとして受け入れてきました。インターンは実際の裁判員裁判を傍聴し、刑事事件の被害者の怒りや被告人の苦悩などに接し、それらについて真剣に考えています。そして、インターンには様々な企画を立案・提案・実施してもらい、裁判員ネットのWEBサイトでの情報発信の記事なども執筆してもらっています。
  市民モニターにも多くの応募があります。こちらも学生や30代くらいまでの若い方が多いのが特徴ですが、普通の会社員や主婦の方にも裁判傍聴報告をしてもらっています。多くの市民モニターは、裁判傍聴を通して、裁判員が被告人の有無罪とともに量刑も決めなければならないという責任の重さを痛感しています。一方で、決められた時間内に決められた判断材料で結論を出すことの難しさなども具体的に指摘してもらっています。

―――今回、インターンをされている竹越遥さんも同席していただいています。裁判員制度については様々な評価がありますが、竹越さんは実際に裁判員裁判を傍聴してみて、どのように感じましたか。
(竹越さん)
  私は大学で社会学を専攻しているのですが、裁判員制度に興味を感じ、裁判員ネットでインターンをしています。
  私は実際に裁判員裁判を傍聴してみて、司法に市民が参加することの意義は大きく、またそれが今後の司法にいろいろな可能性をもたらしているように感じています。実際の裁判員制度のシステムに接して、もっと改善すべき問題点などもわかり、インターンになってよかったと思っています。

―――ありがとうございます。
  さて、お尋ねしたいのですが、インターンや市民モニターに応募してくる方々などに接していて、そもそもの裁判の役割や刑事裁判のあり方などが市民にどの程度伝わっているとお感じでしょうか。
  中学3年生「公民」のある教科書を見たのですが、そこには刑事裁判において「疑わしきは、被告人の利益に」という原則が求められるようになっていると書かれていますが、そもそもその原則の内容・趣旨についての記述はありません。この原則が生徒たちにどのように伝わっているのか不安に思うのですが、みなさんはどのようにお考えですか。
(大城さん)
  率直に言って、裁判についての基礎的なことがらはあまり市民に伝わっていません。
  学校の教科書のことは、竹越さん、どうでしょうか。
(竹越さん)
  「疑わしきは、被告人の利益に」という原則のことは私もわかっていませんでした。中学や高校では、裁判のことを時事問題として教わることはあっても憲法上の意義やそのしくみを学ぶ機会はあまりないかもしれません。

―――いま、裁判所による裁判員制度についての映像教材の制作・普及、検察官や弁護士による裁判についての出張授業などが広がっていますが、裁判のしくみや意義についての基本的な理解を広げていくことが肝要だと思います。どのようにお考えですか。
(大城さん)
  裁判所や法務省、弁護士会などがそれぞれ努力することは必要なことです。その際、やはり憲法の国民主権の立場から司法への国民参加の趣旨を伝える教育が求められます。ややもすると裁判員を裁判所の活動をサポートする「お客さん」あるいは「お飾り」ととらえられることがありますが、それは間違いです。裁判員が受け身で裁判に参加するのではなく、裁判の主役としての自覚を持って参加すべきことを説いていくべきです。
  刑事裁判の最大の使命は冤罪を防ぐことです。裁判員が犯罪被害者の悲しみや怒りに共感することは自然な感覚ですが、同時に、無辜を罰してはならない、「疑わしきは、被告人の利益に」という観点で被告人の有無罪を判断することが何よりも大切です。そのような教育が必要です。

―――いま中学・高校の、多くの社会科教員の方々が裁判と裁判員制度のことを生徒たちに正しく伝えようと努力しています。メッセージをいただければと思います。
(大城さん)
  いま裁判のあり方が大きく変わってきています。裁判員制度が導入されることによって傍聴して内容がわかる裁判になり憲法の「裁判の公開」が実質化されつつあります。学校の先生方にも、ぜひ裁判員裁判を実際に傍聴してもらいたいと思います。

―――裁判員ネットの積極的かつ有意義な活動と中学・高校での裁判員制度の教育への期待をお聞かせいただき、ありがとうございました。

 
【大城聡(おおしろさとる)さんのプロフィール】

弁護士。一般社団法人裁判員ネット代表理事。
中央大学法学部政治学科を卒業し、同大学院修士課程(政治学専攻)を修了。
ハンセン病に対する国の施策の誤りを正した裁判で法律の力、司法の本来の役割を知り、法律家を志す。
山梨学院大学法科大学院を修了後、弁護士に。
裁判員ネットを設立し、市民と法律の架け橋を目指して裁判員制度に関わる。著書に『良心的裁判員拒否と責任ある参加−市民社会の中の裁判員制度』(公人の友社)と『裁判員制度と知る権利』(共著、現代書館)がある。