教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
トップページ 憲法教育を考える 学校教育の中の法教育・憲法教育
 
学校教育の中の法教育・憲法教育
2010年8月16日
島田浩孝さん(弁護士・埼玉弁護士会法教育プロジェクトチーム座長)
 

 2005年度から埼玉弁護士会の中で法教育プロジェクトチーム座長を務めています。それ以前私が当会の人権擁護委員会の委員長を務めていたときに、当時の弁護士会執行部から人権擁護委員会に対して法教育についての諮問があったことが発端でした。そこで委員会内で検討チームを立ち上げ、そこで約1年かけて議論をして、執行部に法教育に関する意見書をあげたという経過があり、結局、その検討チームが中心となって法教育プロジェクトチームが発足し活動を始めました。
  当時の客観的な状況としては、例えば裁判員制度の開始が決まるなど、司法への市民参加という問題が浮上して、法教育にもっと力を入れなければいけないという流れがあったと思います。埼玉弁護士会としても、今後法教育というかたちで、憲法の問題を含め、子どもさんたちに一緒に考えてもらうということはどうしても必要になるだろうという思いがありました。その中で当会のプロジェクトチームでは、当初から、法教育の中でも単なる「ルール作り」や「ルールを守る」といった観点とは少し異なる視点で、憲法を意識した内容を追求する必要があるのではないかという声は強かったですね。
  プロジェクトチーム発足後、埼玉県内公立の小中高全ての学校にアンケートを行ないました。法教育分野で、弁護士会に対しどのような要望があるかを尋ねたのですが、思いのほか多くの回答(150数校)が戻ってきました。やはり模擬裁判をやってほしいとか、講師を派遣してほしいといった声が中心で、裁判員裁判、刑事裁判、少年問題、消費者問題、子どもの権利、そして憲法といったテーマでの講演を望むものが多かったように思います。そこで、法教育プロジェクトチームに参加している弁護士だけではなく、弁護士会の各種委員会、消費者問題委員会や子どもの権利委員会などにも声をかけて、講師派遣要請に応えてきました。
  一口に法教育といっても、そのカバーする範囲は相当広く、学校教育に限っても対象が小学生、中学生、高校生、それぞれの場合で内容も方法もみな違ってきます。プロジェクトチームでは、法教育に熱心な小学校の校長先生とのつながりが生まれたことから、小学生(高学年)を対象にしたユニークなとりくみが始まりました。始めて4年目になります。これは、日頃感じている困りごとやトラブルなど、話し合いたいテーマごとに小学生を5、6名の小グループに分け、そこに弁護士が入って一緒に話し合うというものです。弁護士がリードするのではなく、子どもさんたちが自分の意見を出し合い、他人の意見を聞いて考えた上で、再度自分の意見を言う、という過程を大切にします。弁護士は議論がずれたときに、軌道修正するぐらいにとどめて。
  しかし、何かトラブルがあってそれを話し合って解決しようというときに、憲法の発想は重要になってきます。自分のことだけでなく、相手のことを考え、相手の立場を尊重するとはどういうことなのか、“憲法何条、基本的人権”と大上段に構えるのではなく、小学生の持っている関心を踏まえ、小学生の目線で現実の問題を話し合う中で1人ひとりを大切にする個人の尊重という憲法の核心が伝わればと思っています。
  こんなテーマが話し合われたことがあります。小学校では、シャープペンシルの使用が禁止されているんですね。そこで子どもさんたちから「シャープペンを使いたい」という要望がテーマとして出されました。学校としては、小学生の筆圧の問題や、またシャープペンといっても千差万別ですから格差が生じる可能性への懸念などの理由から禁止しているわけですが。そこで、そのグループでは話し合った末、やはりシャープペンを使ってもいいのではないかという結論になりました。要求があって、それがある程度説得力をもっているなら、そこで議論ができてよかったと終わらせるのではなく、それを実現するにはどうしたらよいか、次の一歩を踏み出すような努力をしてみたらどうかというアドバイスを弁護士がするわけです。すると、数人で掛け合っても意味がないからもう少し広くみんなの意見をまとめて、それを学校に要望として出そう、という方向に向かったんですね。これは学校の教育方針とぶつかるわけで、実際にはなかなか実現困難なのですが。
話し合って要求を出し、それがきちんと反対意見も踏まえたもので、やはりこれが正しい、十分意味があるという結論に至った場合には次の段階に進むというのは、ある意味で自然な流れです。しかし通常はあまり経験できないことですね。ですから弁護士が話し合いに入ることで、そういう問題提起ができているかもしれません。そしてそれは、1人ひとりを大切にするという憲法の考え方と決して矛盾はしないと思います。
埼玉弁護士会の法教育プロジェクトチームのとりくみで、小学生を対象にした法教育実践についてご紹介しましたが、中高生を対象にするならまた別のやり方が必要になるでしょう。高校生ぐらいになれば、受験に猛進する子どもさんもいるし、そこで勉強を諦めてしまう子どもさんもいる、いろいろな子どもさんがいるわけです。が、憲法の最も大切な理念はやはり個人の尊厳だと思います。勉強ができるできないというだけの価値観ではなく、本当に必要なのは相手に対する思いやりとか優しさといった1人ひとりを大切にする発想だと思うし、それをもう一度見直してもらうという意味で、憲法は大きな道しるべとなるのではないでしょうか。
学校教育の中での法教育・憲法教育については、今はまだ、学校サイドは学校サイドで、弁護士会は弁護士会でそれぞれ試行錯誤しているというのが実状です。そこがもう少し有機的に関連できるよう、とりくみの幅をさらに広げたいと思っているところです。

(インタビュー聞き手=法学館憲法研究所事務局)

 
【島田浩孝(しまだひろたか)さんのプロフィール】

昭和46年3月 埼玉県立熊谷高校卒業
昭和50年3月 早稲田大学法学部卒業
昭和54年4月 練馬区役所入所
昭和60年4月 司法研修所入所
昭和62年4月 川越法律事務所入所

埼玉弁護士会副会長、埼玉弁護士会川越支部長、埼玉弁護士会人権擁護委員長、青年法律家協会埼玉支部長