教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
トップページ 憲法教育を考える 中学・高校での憲法教育への期待
 
中学・高校での憲法教育への期待 ― 母校への憲法本寄贈のススメ
2010年8月23日
上脇博之さん(神戸学院大学法科大学院教授)
 

 一般論ですが、主権者が君主一人の場合と異なり大勢の国民であり、憲法が間接民主主義(議会制民主主義)を採用し、基本的人権および統治機構を詳細に定めている場合には、国民は、議会や政府などの国家機関が実際に憲法に基づいて政治・行政などをしているかどうか(憲法に反する政治・行政などをしていないかどうか)監視しなければなりません。憲法に基づかない(憲法に反する)政治・行政などが行われれば、国民の平和、自由、平等、権利、生活が脅かされるからです。したがって、国民は、国家機関を監視するためにも憲法を正しく理解していなければなりません。

 以上のような一般論に加えて、日本の場合には、政府・与党が、日本国憲法の内容に不満を持ち、それを根本的に変えようと考えている人たちですから、尚更、国民の平和、自由、平等、権利、生活が脅かされる危険性がありますし、現にこれまで脅かされてきました。このような日本特有の政治状況にも注目すると、日本の主権者国民は、国会議員や官僚等に日本国憲法を守らせるためにも、日本国憲法を正しく理解する必要があるのです。
  したがって、とりわけ学校において憲法を学ぶための教育が十分行われる必要があります。しかし、これまでの学校教育において憲法の本質的内容を教える憲法教育がなされてきたのか、憲法教育の時間が十分確保されてきたか、といえば、残念ながら、そうとはいえない、と言わざるを得ません。

 また、今から3年前の2007年5月に、日本国憲法を改正するときの手続法が制定され、今年5月18日に完全施行されました。そもそも改憲政党が目指している今の憲法「改正」はアメリカや日本の財界が要求しているもので、その法律は、これを実現するために、反対を押し切って改憲政党が成立させたものです。決して国民の圧倒的多数の要求によるものではありません。
  そして、その法律は、原則として、憲法改正を決定する国民投票権者の最低年齢を18歳と定めています(ただし、公職選挙法など成人に関する法律が18歳に改正されなければ、今の20歳のままです)。実際に18歳に引き下げられるのか、まだわかりませんし、また、たとえ引き下げられても、すぐに憲法改正のための国民投票が実施されることになるかどうかも、まだわかりません。
  しかし、政府・与党は、いまだに学校教育において憲法を学ぶ授業時間を拡充し、授業内容の質的な充実を行おうともしてはいません。これは不可解なことです。というのは、憲法改正の国民投票の最低年齢が20歳から18歳に引き下げられ、国民投票が実施されることになれば、国民(特に若者)が憲法改正に賛成するにせよ反対するにせよ、高校卒業前後の若者の憲法教育が必要になります。というのは、憲法の本質的な内容について、きちんと学んでいないのに、憲法改正の国民投票をする権利だけ法律で保障しても、若者は、どのような投票をして良いのか、戸惑うことでしょう。また、憲法の本質を理解していないにもかかわらず、若者が憲法改正のための国民投票するようでは日本の将来は再び悲劇に終わるでしょうし、若者は国民投票後に後悔することでしょう。ですから、高校での憲法教育の充実は不可欠なのです。それなしに憲法改正が進められるならば、それは無責任なものになるでしょう。
  もちろん、教育は積み重ねですから、高校だけではなく中学校でも、憲法教育の拡充は大なり小なり必要です。しかし、政府や国会では、そのような動きは見られません。

 ところで、私は、2008年7月に50歳になることを契機に、2つのことを始めました。一つは、憲法研究者の社会的活動の一環としてブログを開設し、憲法や政治に関する情報を発信し始めました。今でも投稿し続けています。
  もう一つは、学校における憲法教育の量的・質的拡充を待ってはいられませんので、子どもたちが憲法に関する自主学習の手助けになるよう、私が選書あるいは皆さんが推薦した憲法に関する書籍をリストにまとめ、私のブログで紹介し、その読者に各自の母校などへの寄贈を呼びかけ、私自身も実際、母校の小中高校に図書寄贈を始めました。ささやかな憲法運動とその呼びかけです。

 私の寄贈に対し、これまで母校の小中高の校長先生などからお礼状が届きました。図書室に特別のコーナーを設置したとの知らせをいただいたり、私の寄贈を知らせる図書新聞が送られてきたり、子どもらの感謝の言葉や読書感想が送られてもきました。地元の回覧板で私の寄贈を知らせていただいたところも、あったようです。とても感激しました。

 今年も現在、選書中で、近々そのリストをブログで公表し、3年間のリストの中から数冊を選び母校に寄贈する予定です。
  皆さんも母校に(あるいは、お子さんやお孫さんの通っている(た)学校に)、憲法に関する書籍を寄贈してみませんか。同じ書籍を数冊、あるいは複数の書籍を1冊ずつ、寄贈しても良いでしょうか。予想以上の反応が返ってくるかもしれませんよ。如何ですか。

 
【上脇博之(かみわきひろし)さんのプロフィール】

神戸学院大学大学院実務法学研究科(法科大学院)教授・憲法学
市民運動では、 政治資金オンブズマン共同代表、 兵庫県憲法会議幹事(事務局長)を務める。

著書
『政党国家論と憲法学 ― 「政党の憲法上の地位」論と政党助成』信山社・1999年[北九州大学法政叢書17]。
『政党助成法の憲法問題』日本評論社・1999年。
『政党国家論と国民代表論の憲法問題』日本評論社・2005年[神戸学院大学法学研究叢書14]。
『新・どうなっている!?日本国憲法 ― 憲法と社会を考える (第2版)』共著 法律文化社・2009年。
『ゼロからわかる 政治とカネ』日本機関紙出版センター・2010年9月発行予定。
ブログ 「上脇博之 ある憲法研究者の情報発信の場」