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憲法教育は《言行一致》で(その1)
2010年10月4日
斎藤 周さん(群馬大学教育学部教授)
 

条文を暗記する必要はない

 憲法教育では二つのことを重視すべきだと,私は考えています。ひとつは教育内容が適切な憲法理解に基づいているか,もうひとつは教育方法が憲法の理念に適っているかです。後者を言い換えると,反憲法的な隠れたカリキュラムがありはしないかということです。「言っていること」と「やっていること」が違っていたら,いくら大事なことを「言って」も子どもたちに伝わりません。
  私は,大学の教育学部(教員養成課程)で,「日本国憲法」の授業を担当しています。「日本国憲法」は,校種・教科を問わず教員免許を取得するための必修科目であり,さまざまな分野(教科)の専攻の1年生が履修します。今年前期の期末試験で「憲法とは何か」にかかわる論述問題を出したところ,社会専攻の1年生のひとりが答案の中でこんなことを書いていました。「私は高校まで,社会科の日本史や政治経済の授業では,憲法について学ぶというのは,憲法の条文を暗記したり,憲法の理念などを覚えることだと思っていた」と。
  これはこの学生だけのことではないでしょう。中学・高校の授業やテストで憲法の条文を暗記させられた経験のある人は,少なくないはずです。「憲法を学ぶとは,一字一句間違えないように条文を暗記すること」というイメージは,多くの人に共有されていそうです。
  私は,特にこれから教員になろうという学生には,このイメージを捨ててほしいと思っています。そうでないと,将来,教員になったときに子どもたちに条文の暗記をさせて,「憲法=暗記の対象」というイメージを拡大再生産してしまいかねません。
  そこで,「日本国憲法」の初回の授業で,「憲法の条文を暗記する必要はないし,暗記力を試すようなテストもしない」と説明します。すると,何人もの学生から「意外だった」とか「ほっとした」といった感想が出てきます。中には,「一生懸命暗記したのに,あの勉強は何だったんだ」と思う学生もいます。条文暗記は入試や期末試験に役立つだけです。試験のあり方が大問題です。

憲法って何?

 条文を暗記するのでないとすれば,憲法を学ぶとはどんなことなのでしょう。憲法を学ぶことにどんな意味があるのでしょう。中学生・高校生は授業で憲法を学びますが,法律家になる人はほんのわずかです。それでも全員が憲法を学ぶ必要があるのでしょうか。この問に答えるには,「憲法とは何か」がわかっている必要があります。
  学生たちには,「憲法とは何か」を考えさせます。「みんなが学校の先生だったとして,受け持ちの子どもから『先生,憲法って何?』ってきかれたら,どう答える?」と問いかけ,各自のノートに書いてもらいます。そうすることで,学生たちのそれまでに培われた憲法理解が確認できます。
  学生からは,「国民が従うべきルール」といった答がよく出てきます。これは,憲法理解として不適切です。憲法は,「国家(権力者)が従うべきルール」なのですから。憲法による人権保障とは国家を縛って好き勝手にさせないようにすることであり,個人の人権と国家の義務(人権を侵害しない義務)とを表裏一体のものとして定めているのが憲法なのだ,ということが理解されていません。
  理解不足は学生だけではありません。ときどき「憲法には国民の権利ばかり書いてあって義務が書いてないのはけしからん」という政治家がいますが,これは憲法が憲法であることを非難しているようなものです。「国民の人権なんか気にせずに好き勝手に政治を行ないたい」という気持ちの表れかもしれません。
  さて,「憲法とは国民が従うべきルール」という学生の声には,私は「本当にそうかな?」と疑問を投げかけておきます。「天皇は象徴であるとか,戦力は保持しないとかいうのは『国民が従ったり違反したりするルール』とは言えないよね」と補足します。ただ,初回はこの程度にとどめておいて,毎回の授業でさまざまなトピックの検討を重ねた上で,15回の授業の最後で「憲法とは何か」を確認します。授業を通じて憲法が人権保障のためにあることをつかめれば,憲法を学ぶ必要性をわかるところまで「半分」届いています。

【つづく】

 
【斎藤 周(さいとうまどか)さんのプロフィール】

群馬大学教育学部教授
研究領域は,労働法学,ジェンダー法学。
授業は,「日本国憲法」,「子どもの権利論」,「法律学概論」,「ジェンダー論」等を担当。
URL:http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~saito/Welcome.html