教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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小学生の憲法学習
「ヒロシマでの学びから憲法学習へ」(その1)
2010年10月18日
西村美智子さん(啓明学園初等学校教諭)
 
1、はじめに

小学校では、6年生の後半の政治学習の中で「日本国憲法」について学ぶが、低学年の頃から様々な機会に憲法学習につなげていく日常の取り組みが大切だと考えている。例えば学級での話し合い活動を通して「民主主義」をやさしく教えたり、「子どもの日」や「憲法記念日」、「勤労感謝の日」などの国民の祝日の意味を話題にしたり、6月23日や3月10日、12月8日などを取り上げ、「今日は何の日?」と問いかけることで戦争の悲惨さや命の尊さを考えさせるなどである。その積み重ねが、6年生の一見難しいと思われる憲法学習を自分たちのくらしや平和の問題と関わらせて学ぶことを容易にし、その後の中学・高校での憲法学習の深化へとつなげられる基礎的なものになると思われる。
私の勤務校、啓明学園初等学校(東京)では、6年生になると毎年、修学旅行で広島を訪れ、平和学習を行っている。原爆ドーム、平和記念公園、平和祈念資料館、また大久野島を訪れることにより、15年戦争の学習を被害・加害の両面から深め、「日本国憲法」の学習へとつないでいっている。今回の実践は、6年生の子どもたちが、広島での見学・体験学習を通して戦争の悲惨さ・核兵器の恐ろしさを知り、平和な世界や未来について考えていく中で「日本国憲法」について学びを深め、「九条」や「日米安全保障条約」についても考えた取り組みである。

2、広島の地に立って

原爆ドームを見学した後、「ピースボランテイア」の方の案内で平和祈念公園内を小グループで歩き、平和記念資料館を見学した。子どもたちの感想は、次のようなものであった。
「原爆ドームを見た時、すごい爆風と数千度の熱が人々を奪っていったのかと思うと悲しかった。」「平和記念公園でたくさんの千羽づるを見て、こんなに多くの人達が平和を願っているんだなあと思った。」「韓国人の慰霊碑を見て、韓国の人も原爆でたくさん亡くなったことをはじめて知った。」「平和祈念資料館の中にはとけた瓶やぼろぼろの服、皮膚がどろどろにとけた写真などがあって、原爆はこんなにすさまじかったんだなあと思った。」「原爆の後、黒い雨を浴びて髪の毛が抜け死んでしまったという話を聞き、後遺症のこわさを知った。」等々。
  実際に広島の地に立ち、核兵器の威力・恐ろしさ、戦争の悲惨さ・むごたらしさ、人々の苦しみ・悲しみを想像したり共感することができた。また、平和への願いや未来への思いを新たにした。見学・体験学習によって、これまでの本や資料による知識だけの理解から、共感的理解へと高められたように思う。

3、大久野島での学び

船に乗って大久野島に行き、毒ガス資料館を見学した。旧陸軍は、1929年から終戦まで、この大久野島でひそかに毒ガスの製造を行っていた。現在、大久野島は国民休暇村として開発され、ウサギと遊ぶことのできるのどかで自然豊かな島として観光地となっている。当時をしのばせるものとしては、砲台跡、発電場、毒ガス貯蔵庫等が残っている。子どもたちは、「日本が核兵器と同じように人を無差別に苦しめる毒ガスを作り日中戦争で使っていたことを知り、日本もアメリカと同じように重い罪を犯していたことにショックを受けた。」「観光で来ている人の中で、この島で昔毒ガスを作っていたということをどれぐらいの人が知っているのだろう。私はその人に知ってほしいし、知るべきだと思う」等の感想を述べていた。

4、戦争が終わったあと、人々はどんなことを願っただろうか。

日本はポツダム宣言を受け入れ、ついに8月15日に敗戦の日をむかえた。無謀な戦いの末、悲惨な生活を強いられることになった人々は「何を思い、どんなことを願っただろうか」ということを考えてみることにした。子どもたちの発表は次のようなものであった。
「もう二度と戦争をしないでほしい」「武器を作ったり、使わないでほしい」「他国を侵略して、人を殺さないでほしい」「人間の生きる権利や自由をうばわないでほしい」「国民が政治に参加できるようにしてほしい」「抵抗した人を逮捕したり拘束しないでほしい」「国の為に死ぬことが名誉だと教えないでほしい」「マスコミ(報道)は真実を伝えてほしい」「腹いっぱい食べられる生活を保障してほしい」「差別のない世の中になってほしい」「核兵器のおそろしさを世界に知らせたい」等々。

5、「ぼくたち・わたしたちがつくる憲法」

”人々の願い”をかなえるために、自分だったらどのような国づくりを考えるだろか。60年前にタイムスリップして、「憲法づくり」にたずさわる一人になったと仮定して、「憲法の条文を書いてみよう」とよびかけた。子どもたちは、次の様な条文を書き綴り、発表が終わった後、分類し、項目名をつけた。
〈平和に関する事項〉
「二度と戦争をしない」「「すべての生き物の命をうばわない」「「武器を一切製造、所持、輸出しない」「「他国を侵略しない」「他国が攻撃しても話し合いで解決する」「軍事的援助をしてはならない」「戦争の歴史を次の世代に伝える」「他の国と協力して平和な世界をつくる」
〈人権に関する事項〉
「誰もが人間としてあたりまえの生活ができる」「教育は何よりも優先される」「医療費は国が保障する」「反対・抵抗した人を逮捕・拘束してはならない」「自由に発言・行動できる権利を保障する」「すべての人が平等に生きる権利を保障する」
〈国民主権に関する事項〉
「国民が選んだ人をリーダーにする」「国民に国の色々なことを決める権利がある」「国民は幸せに暮らす権利がある」「国民は意見を言う権利がある」「国民は真実を知る権利がある」

6、実際の「日本国憲法」とくらべてみよう。

それでは、「実際の日本国憲法にはどのようなことが書かれているのだろう」ということで、まず前文が書かれたタペストリーを掲示し、きたがわてつの朗読と歌のCDを聞かせた。そして、何度も出てくる言葉(単語)に印をつけさせた。一番多かったが「国民」で11回、次に多かったのが「平和」で4回、 そのほか「憲法」3回… ということが確認された。60年以上も前の人々の願いが自分たちの考えた「憲法条文」と重なり、前文に”採用”されていたことに子どもたちは満足げで、「日本国憲法」にとても親近感をもったようだった。
その際、先の「大日本帝国憲法」や「五日市憲法草案」と比較した。「主権」・「天皇」・「基本的人権」・「戦争」の項目で、帝国憲法と現憲法との違いを発見する一方で、子どもたちは「日本国憲法」と「五日市憲法草案」がとてもよく似ていることに気づいた。国民の基本的人権を守ろうとする民主主義的内容に共通点を見いだしたのだろう。

【つづく】
 
【西村美智子(にしむらみちこ)さんのプロフィール】

啓明学園初等学校教諭
著書『平和をつむぐ12歳のメッセージ 〜地球時代を生きる学力〜』(発行:フリーダム、発売:かもがわ出版)2009年