教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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小学生の憲法学習
「ヒロシマでの学びから憲法学習へ」(その2)
2010年10月25日
西村美智子さん(啓明学園初等学校教諭)
 
7、日本国民は、「何を」「だれに」誓ったのか。

  次に、前文の最後の部分「日本国民は国家の名誉にかけ全力をあげて、この崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」に注目させた。小学生にはあの前文のむずかしい語句や言い回しは理解困難であると思われるので、前文の言わんとしていること、強い決意の様子を想像力を働かせて印象深く学ぶことで大まかに理解できればよいと考えた。これは山本典人先生の「ロックで学ぶ日本国憲法」の授業から学んだものだ。
  子どもたちは、「何を」の中身としての「崇高な理想と目的」とは何かということで、豊かな想像力を働かせた。「二度と戦争をしない」「自然やすべての生き物を殺さない」「他の国を占領したり侵略しない」「自由や幸せになる権利をうばわない」「国民が中心の世の中をつくる」「どの国とも対等につきあい平和な世界をつくる」等のことを実現することを誓ったのだろうというのだ。また、それらを「だれに」誓ったと思うかの問いには、「日本国民」「世界の国々」「戦争の被害者」「アジアの人々」「自然や動物・植物」「地球」「宇宙」等と答えた。この日本国憲法が、世界に通用する、世界に広めるに値するすごい内容を持った憲法であることを確認して授業を終えた。

8、憲法「第九条」を考える

  まず資料「日本がかかわった近代の戦争の犠牲者」(岐阜 棚橋正明教諭作成)を子どもたちに見せ、15年戦争での犠牲者数、日本約310万人、中国・東南アジア等約2000万人を量化したものからその膨大な犠牲者の数を確認すると共に、それ以後現在までにおける犠牲者枠の「空白地帯」に注目させた。
  「なぜ空白なのだろう」の問いに「それは、日本が一度も戦争をしていないから」「だからひとりの犠牲者も出ていないし、相手の国の人も殺していないんだ」「すごい。すばらしいね。」の子どもたちの声・声。
  そこで、「なぜ、戦争をしない国でいられたのだろう」と問うてみた。圧倒的多数が「憲法で戦争放棄を決めているから」「憲法九条があるから」と答えた。そのほかの意見では、「政治家や国民がもう戦争はしてはいけないと強く思っているから」「アメリカの核の傘で守られているから」等があった。 それでは、そんなすごい戦後を作り出した「憲法第九条」を改めて見てみよう」ということになった。
<「九条」についての自分の考え・意見>
  「憲法九条は、とても大切な条文だと思う。これがなかったら、今までにも戦争をしていたかもしれない」「世界中の国がこの憲法を使えばいいと思う」「今一番心配なのが、三分の二の国会議員と国民の過半数がこの憲法に反対したら、憲法が変えられてしまうことだ。ぼくは、絶対に憲法九条を守りたい」「第九条に『戦力を保持しない』と書いてあるが、自衛隊は、戦力のうちに入るのではないかと思う」等々。

9、憲法「九条」は守られているか。〜「日米安保条約」の学習と絡めて〜

  「九条」に対しての子どもたちの考えや意見は、賛成や賞賛が圧倒的に多かった。自衛隊の存在を通しての疑問や心配は出されたが、「九条」自体についての反対や軍隊を持って戦うことへの積極的な意見は出なかった。それは、広島に行き、戦争の悲惨さを知り、平和の尊さを学んだ子どもたちの学習過程においては、当然行き着く考えや意見ではないかと思えた。しかし、近年マスコミ等で盛んに報道される北朝鮮の脅威や政権政党が日米関係の重要性をことあるたびに強調する政治状況の中で、「憲法九条」をどうとらえ、自分の考えや意見を持つことができるかということは大切なことであり、6年生という限界はあるにしろぜひ議論させてみたいと思った。
  その機会を、戦後史の学習の「日米安保条約」の学習の際に待つことにした。「日米安保条約」に「賛成」・「反対」の題目で、意見を出し合った。 時間が短かったため、十分な討論はできなかったが、賛成派は、「『「九条』で戦争を放棄し、戦力をもたないことになっているのだから、アメリカに守ってもらうしかない。だから、安保条約は必要なのだ」と主張、一方反対派は、「アメリカに頼ってばかりではだめだ。自分の国は自分で守る必要がある。防衛手段としてだけ自衛隊を認めて戦力を高め、基地問題もあるのでアメリカとの安保条約は解消すればよい」と主張。子どもたちは軍隊がなければ国は守れないと思っており、そのためにアメリカに頼るか、日本自身が再軍備するかで意見をたたかわせていた。「九条はすばらしいけれど現実的には・・」と、前の憲法学習での「九条」への熱烈なラブコールはクールダウンし、実際の場面を想定して考えていくという姿勢に変わってきていた。ただ、アメリカとの関係強化だけで日本の安全は守れるのか、アメリカ軍の駐留・基地をなくした国の実態はどうなっているのか、軍隊がなければ国や国民は守れないか、軍隊がなければ平和はつくれないのか等について考えさせることができなかったのは悔いが残る。これから世界の現実やそれぞれの国の実状を知ると共に、いつか“軍隊のない国コスタリカ”のことや軍隊を持たないで長年にわたって平和を保ち続けている国があることも知り、学びを深めていってほしいと思った。

10、終わりに

  6年生の子どもたちは「ヒロシマ」の学びから「日本国憲法」の学習を通して、今、そして未来を考えることができた。広島を訪れ、核兵器のおそろしさ・戦争の悲惨さ・平和の尊さを学んだ子どもたちが、日本国憲法前文や第九条に感動し、「九条があるから60年以上もの間戦争をしなかったし、ずっと平和でいられたんだ」「九条を絶対守っていきたいし、世界にも広めていきたい」「憲法を変えようという意見があるけれど、絶対、反対する」と、素直に思い考えたことは大切に受け止めたいと思う。これから、いろいろな現実社会の問題に直面し、現憲法や「第九条」についての多様な意見を知ったり学んだりする中で、自分の考えをゆさぶられたり変えられることもあるだろう。そのときはそのときで、しっかり考え議論し、自分自身の考えを形成していけばいいと思う。
  日本の過去の過ちを心に刻み「二度と戦争をしない国」にするために、どのように平和を実現していくか、そのよりどころとなるものはなにか、未来の世界をどうつくっていきたいか等を、子どもたちと共に考え学び合い、希望を語り合う教育、とりわけ「憲法」の学習がますます重要になってくるのではないだろうか。
 
【西村美智子(にしむらみちこ)さんのプロフィール】

啓明学園初等学校教諭
著書『平和をつむぐ12歳のメッセージ 〜地球時代を生きる学力〜』(発行:フリーダム、発売:かもがわ出版)2009年