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思想・信条の自由 〜行政書士会違法政治献金事件から〜
2010年11月29日
吉岡 周三さん(司法書士・行政書士)
 

 私が平成17年に兵庫県行政書士会(以下、行政書士会という)に対し起こした裁判について報告します。
まず、行政書士法に規定された業務、例えば官公庁に提出する書類の作成を業務として行おうとする場合、各都道府県単位ごとに設置されている行政書士会に入会してその会員にならなければ業務を行うことはできません。この意味で行政書士会は、法に基づき設置が義務付けられた強制加入団体といえます。そして、行政書士会に入会した会員は、当然に会費を納めなければなりません。
  私が所属する行政書士会は、政治資金規正法に基づき選挙管理委員会に届出がなされた政治団体である日本行政書士政治連盟兵庫県支部(以下、政治連盟という)に対し、少なくとも平成11年以降、毎年、会員が納める一般会費から寄附・助成を行っていたのです。私がこのことを知ったのは行政書士会の書類からではなく政治連盟の決算書からでした。この政治連盟の上部団体である日本行政書士政治連盟は、時の政権与党であった自由民主党から「わが党の活動に協力され党勢の拡大と社会の発展に貢献された功績は誠に顕著であります。」と感謝状を毎年もらっていました。勿論、自由民主党は行政書士の業務拡大だけを目的に政治活動する政党ではありません。
  ちなみに、政治資金規正法において政治連盟とは、「1 政治上の主義若しくは施策を推進し、指示し、又はこれに反対することを本来の目的とする団体。2 特定の公職の候補者を推薦し、支持し、又はこれに反対することを本来の目的とする団体」(第3条)であると定義付けされています。

 私は、強い公益目的を有するが故に強制加入団体とされている行政書士会が政治連盟に対し寄附・助成することは、行政書士会の目的に反するとともに、会員の思想信条の自由を侵害する違法な行為ではないのかと考え、平成17年の定期総会決議のうち政治連盟への寄附・助成金支出部分についての無効確認を求めて訴えを起こしました。
  これに対し、行政書士会から問題の寄附・助成金は政治連盟の活動を支援、協力するためのものであることを認めながら、しかし、「それは行政書士の地位の向上と業務拡充、職域の確保のために必要不可欠な出捐である。」と、一見もっともらしく聞こえる反論がありました。行政書士の地位の向上、業務拡充、職域の確保のために必要不可欠な出捐という大義名分があればこうした寄附・助成は問題なく許されるのでしょうか。
  「決議が無効であることの確認を求める訴えを却下する。」とする第一審判決が出ると、行政書士会会長が、「原告の主張が退けられて良かったと思います。本来、『士業の原点が何か』に思いがあればこのような訴えはなかったはずです。」と、会員宛てにコメントを出しましたが、私の主張は非難されるべきものだったのでしょうか。

 ところで、強制加入団体である税理士会が政治団体に金員を寄附することは税理士会の目的外の行為である、と判断された平成8年3月19日最高裁判決(いわゆる南九州税理士会政治献金事件)があります。
  この判決文の中で裁判所は、「強制加入団体が、政治団体に金員の寄附することは、その団体の業務拡大等、政治的要求を実現するためのものであっても目的の範囲外の行為である。」「政治団体に対して金員の寄附をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏をなすものとして会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである。(中略)このような事柄を多数決原理によって団体意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできない。」と述べています。私は、行政書士会が行っている政治連盟への寄附・助成もすべきものではないと考えました。しかし、南九州税理士会政治献金事件判決は、政治献金するために特別会費を徴収したことに対する判断です。今回の行政書士会のように一般会費からの支出であれば会員の思想信条の自由を侵害したとまではいえない、また、会員には損害は生じていないのではないのかという厚い壁がありました。個人の政治的自由、思想信条の自由の実現と一口で言っても、それを真に実現していくことは大変難しいと実感しました。
  裁判終了まで実に2年4ヶ月かかりましたが、最終的には、(1)行政書士会の役員が行政書士会に対し解決金を払うこと。(2)今後は政治団体に寄附しないことを確約させる内容で大阪高裁での和解が成立し、裁判は終了しました。
  声の大きい主張に流されることなく、おかしいな、と思ったならば「それ、おかしいよ」と、自分の意見をしっかり言えることがとても大切です。勇気をもって声をあげれば多くの人が力を貸してくれます。良い方向に動きます。この裁判では実にたくさんの方から熱い支援を受けました。また、新聞記事やニュースを聞いて中学校、高校の時にお世話になった先生や同窓生からもご連絡をいただきました。とても嬉しいことでした。

 この裁判の判決文等は、判例時報1995号に掲載されています。また、裁判記録集「兵庫県行政書士会 違法政治献金事件記録集」が裁判でお力添えいただいた山田創一先生のご尽力で専修大学図書室に置かれています。

 
【吉岡周三(よしおかしゅうぞう)さんのプロフィール】
1945年奈良県に生まれる
1995年行政書士登録
2002年司法書士登録