教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
トップページ 憲法教育を考える 「一人一票」は民主主義の学校:憲法価値実践教育のススメ
 
「一人一票」は民主主義の学校:憲法価値実践教育のススメ
2010年12月6日
田上純さん(一人一票実現国民会議)
 

■「1人0.2票」の現実-住所で異なる投票価値

 中学校の公民科、高校の政治経済・現代社会の授業で「日本国憲法は『平等選挙』を保障しています。男性も女性も、若い人もお年寄りも、みんな平等に『1人1票』、『清き1票』を持っています。」と教えていらっしゃる方も多いと思います。私自身、そう教わりましたし、実際、学級委員や生徒会役員などの選挙も、「1人1票」ルールに則って行われていたと記憶しています。
  しかしながら、現行の選挙では、憲法が選挙権の「1人1票」を保障しながら、投票の価値は、住んでいる場所(住所)によって、異なっているのが現状です。衆議院選挙では、高知3区の選挙権を1票とした場合、東京都北区に住んでいる人の投票価値は0.5票、また、参議院選挙では、鳥取県の選挙権を1票とした場合、神奈川県に住んでいる人の投票価値は0.2票といった具合です(2008年12月25日総務省資料に基づく。対象は衆・参ともに選挙区選挙)。
  言い換えれば、私たちは投票所でいったん「1票」(投票用紙)を平等に手にしますが、投票用紙に候補者名を書いて投票箱に票を投じた途端に、それまで手にしていた「1票」は「1票未満の票(0.x票)」へと変わってしまうということになります。仮に、「男性は1人1票、女性は1人0.5票」という投票ルールが存在したら、あるいは、千円札紙幣の価値が「住所」によって異なったら、誰もが異論を唱えるはずです。未来の有権者である中高生も「清き0.2票の選挙権はオカシイ!」と感じるのではないでしょうか。

■「1人1票」の実現-伝家の宝刀・国民審査権

 とはいえ、なにも悲観することはありません。「いつか1人1票は実現するだろう」と口をポカンと開けて待っている必要はないのです。幸いにも、私たちには、「1人0.2票」の選挙権を「1人1票」にする方法があります。それは、裁判所頼みでも、国会頼みでもありません。私たちは、最高裁判所裁判官国民審査で「1人1票」に反対する裁判官に対して、不信任票(×を付す)を投じ、過半数票を獲得することで裁判官を罷免し、「1人1票」を自らの手で掴みとることができるのです。
  憲法79条は、最高裁判所裁判官の国民審査権を定めています。国民審査の投票権はれっきとした参政権の1つです。選挙権の価値は住所による不平等状態にありますが、国民審査権は実質的な「1人1票」のもとにあります。最高裁は、裁判官の過半数の意見で、違憲立法審査権(憲法81条:国会が制定するあらゆる法律を憲法違反として無効にできる)を行使して、「憲法は『1人1票』を保障している。住所による選挙権の差別を定める選挙区割り規定は違憲である」という旨の判決を下せます。
  日本は法治国家ですから、国会議員は司法の判断に逆らうことはできません。国会議員には投票価値が均一(1人1票)になるように、投票価値の不平等を定めている公職選挙法、区画審設置法を速やかに改正することが要請されます。私たちは、国会議員を選ぶのと同様に、最高裁判所裁判官を選ぶことができる。この点に気づくことが「1人1票」実現の鍵です。

■「一人一票実現国民会議」サポーターに!

 しかしながら、最高裁判所裁判官国民審査の歴史が物語るように、最高裁裁判官を審査する(×を付す)際の判断材料がなければ、私たちは適切に国民審査権を行使できません。国会議員候補を選択するときに、政策争点や候補者の情報がないと適切な判断が行えないのと同様です。「一人一票実現国民会議」では、街頭キャンペーン、twitter、意見広告など様々な方法で、以下の情報を広く国民の皆さんに提供しています。

・自分の選挙権の価値は0.x票なのか?
・最高裁判所裁判官国民審査は参政権である
・最高裁判所裁判官国民審査で1人1票を実現できる
・1人1票に賛成/反対の裁判官は誰なのか?

  同じ国民の中に、1票未満の選挙権しかもたない「半人前の日本人」がいることは、不正義の最たるものです。正義は速やかに実現されるべきです。「1人1票」の実現で負担を強いられる国民は皆無でしょう。私は、国民一人ひとりが自らの手で「1人1票」を掴み取り、日本を民主主義国家にするという歴史の一頁を開くことができると確信しています。

■「1人1票」は民主主義の学校

 英国の法学者・政治家のJ.ブライス(James Bryce)が『近代民主政治』(Modern democracies,1921)の中で「地方自治は民主主義の学校である」と紹介したことはあまりに有名ですが(2010年度大学入試センター試験「現代社会」第1問リード文でも触れられています)、原文では、地方自治の「実践(the practice)」が強調されていることはそれほど知られていないかもしれません。

These examples justify the maxim that the best school of democracy, and the best guarantee for its success, is the practice of local self-government.
(Modern democracies,1921より引用)

  今日の大学・大学院の憲法教育が法学生対象の法解釈中心傾向にある実態を踏まえると、国民一人ひとりの社会生活と密接不可分な「1人1票」は、中学・高校における憲法教育にとって、格好のテーマではないでしょうか。「1人1票実現に向けた実践こそ、民主主義の学校」―そんな声が学校教育の現場から届く日が訪れることを切に願っています。ともに1人1票を実現しましょう!

▼関連サイト:一人一票実現国民会議
▼関連書籍 :升永英俊・久保利英明・伊藤真・田上純『"清き0.6票"は許せない!‐一票格差訴訟の上告理由を読む』現代人文社、2010年
http://www.amazon.co.jp/dp/4877984585

 
【田上純(たがみじゅん)さんのプロフィール】
1978年東京都練馬区生まれ。中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了。専門は地方自治論。現在、民間シンクタンクにて、企業コンサルティングに従事する傍ら、「一人一票実現国民会議」サポーターとして活動を行う。著書に『"清き0.6票"は許せない!‐一票格差訴訟の上告理由を読む』(共編著、現代人文社、2010年)、『誰が合併を決めたのか‐さいたま市合併報告書』(共著、公人社、2003年)、訳書に『日本の自治体外交‐日本外交と中央地方関係へのインパクト』(共訳、敬文堂、2009年)などがある。