教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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音楽家だって労働者
2010年12月13日
川本眞理さん(オーボエ奏者)
 

♪皆さんは、今までにオペラをご覧になったことがありますか?

 オペラ  それは、人間の声を駆使してつくり上げた、最高の音楽芸術です。
劇的な物語を歌手が歌い上げ、それをオーケストラと合唱団が支え、バレエも加わり、舞台上には一大スペクタクルが繰り広げられます。
  オペラ=歌劇は、16世紀末にイタリアで起こったといわれ、ヤコポ・コルシとヤコポ・ペーリによって「ダフネ」(ギリシャ神話に登場する女性)が作曲され、17世紀の初めにはモンテヴェルディが「オルフェーオ」(同じくギリシャ神話の詩人・音楽家)を、17世紀の後半にはドイツのグルックが「タウロイのイフィゲネイア」を作曲、当時のオペラに新風を吹き込みました。
  さらに時代が下り、モーツァルト、ウェーバー、ロッシーニ、ワグナー、ヴェルディ、プッチーニとヨーロッパを中心に脈々とオペラの大河は受け継がれ、今日、世界各国で活気を呈してきています。

♪それでは、日本でオペラはどのように誕生したのでしょう?

 皆さんもご存知のように、1868年明治維新となり、西洋の音楽を積極的に取り入れました。宮内庁楽部の人たちや、軍隊でも洋楽を取り入れ、人々も洋楽を楽しみました。
1903(明治36)年に、東京音楽学校(現・東京藝術大学)の卒業生を中心に、グルックの「オルフォイスとエウリディーチェ」が初演され、以来、オペラへの先人たちの情熱が今日まで受け継がれています。
  しかし、日清戦争(1894年)、日露戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦=太平洋戦争と、そして敗戦となる1945年まで、日本は戦争の道を歩み続けましたが、その苦しさ、辛さの中から、戦後すぐに声楽家を中心として二期会という大きなオペラ専門の組織が設立され、さらに日本人のオペラへの情熱が高まってきます。

♪新国立劇場が開場

 そのオペラ関係者やオペラファンが、日本にも本格的歌劇場の建設をと強く望んで新国立劇場が建てられ開場したのが、1997年の秋のことでした。ヴェルディの「アイーダ」や、日本人作曲家の團伊玖磨の「TAKERU」などを上演し、新国立劇場は華々しくスタートをきったのでした。
オペラハウス(歌劇場)は歌手に加え、すべて歌劇場専属の、オーケストラ、合唱団、バレエ団、バックステージ・スタッフ(いわゆる裏方さん)が設置されていることが常識ですが、残念ながら、新国立劇場の実態は、名称こそ「新国立劇場合唱団」「新国立劇場バレエ団」となっているものの、新国立劇場の運営財団は、合唱団員もバレエ団員も専属として雇用し保証することは行なっていません。

♪「音楽家だって労働者」

ヨーロッパやアメリカ合衆国では、オペラハウスの合唱団員もバレエ団員も、(1)労働組合に加入し、(2)労働組合を通じて歌劇場経営者と労働条件を交渉し、(3)労働協約を締結している「労働者」として認められています。このように、安心して働ける環境にあるからこそ、オペラの歌唱や演技に没頭でき、すばらしい感動を鑑賞者にあたえることができるのです。
  2003年、新国立劇場は、私たち日本音楽家ユニオンの会員である、ソプラノパートの合唱団員・八重樫節子さんの契約を打ち切りました。音楽ユニオンは、運営財団に団体交渉を申し入れましたが、運営財団は「八重樫さんは労働者ではない」と主張して、団体交渉に応じようとはしなかったため、労働委員会と裁判所に訴え、現在、最高裁判所で係争中です。
八重樫さんは、二期会というわが国有数のオペラ団の合唱団員を経て、この劇場開場と同時に合唱団員になったベテランです。このような団員が核となることで熟成した高度な演奏が可能になりますが、契約という形式で合唱団員を毎年入れ替えていては、構築力のあるアンサンブルは作れません。
  日本音楽家ユニオンは、音楽分野で働く仲間が力を合わせ、音楽文化の発展と音楽家の生活と権利を守る、日本で唯一の音楽家のための労働組合です。
  若い皆さんからの、ご支援をよろしくお願い致します。

♪オペラを楽しむことは

 オペラを楽しむことは、憲法の13条〔個人の尊重と公共の福祉〕「幸福追求に対する国民の権利」であり、同じく25条〔国民の生存権〕「健康で文化的な生活を営む権利」でもあります。
  これからも、私たち音楽家は、オペラがもっと皆さんに身近に手軽に気軽に楽しんでいただけるよう努力していきたいと考えています。そして、これからも皆さんがオペラに親しんでくださることを期待しています。

(参考文献:ニューグローブ世界音楽大事典)

 
【川本眞理(かわもとまり)さんのプロフィール】
オーボエ奏者。3歳よりピアノを安芸幸子・安芸彊子両氏に、16歳よりオーボエを川本守人氏(NHK交響楽団首席オーボエ奏者)に師事。都立駒場高校音楽科、東京芸術大学卒業。オーケストラ・グレースノーツ、宇野浩二四重奏団メンバーを経て現在に至る。現在、室内楽アンサンブル・多摩楽友響会を主宰し、毎年、多摩市でスプリング・コンサートを開催している。また演奏活動の傍ら、日本音楽家ユニオン関東地方本部運営委員を務め、音楽文化と音楽家の地位向上に力を注いでいる。