教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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吉良上野介惨殺の支持率は何%?
2011年1月10日
森越 康雄さん(教職員共済生活協同組合理事長)
 

 突然ですが、ご存知『忠臣蔵』は今日的に言えば、浅野さんの殺人未遂とその部下による報復テロです。夜中に徒党を組んで私邸に土足で踏み込み、無抵抗のお年寄りを殺害したうえ切断した頭部をぶら下げて泉岳寺まで行進したという、血も凍るような集団バラバラ殺人事件でした。しかし世論は圧倒的に討ち入りした赤穂浪士を支持し、歌舞伎をはじめ「赤穂浪士=善、吉良=悪」という筋立てが今日まで繰り返し演じられてきました。
  人間の不条理や社会の矛盾を鋭くえぐる演劇などの芸術に、通り一遍の価値観を持ち込むつもりはありませんが、ここで注目したいのは当時の世論の影響です。夜盗のごとき赤穂浪士を絶賛し幕府の処分を軽くさせたのも世論で、討ち入りに参加しなかった8割以上の元赤穂藩士を袋叩きにし、味噌や醤油も買えなくさせたのも世論です。
  そして300年以上経った今日、マスコミこぞって実施する世論調査の影響力は、当時とは比較にならないほど絶大です。未だに日本人は敵討ちに共感するのか、多くの国々で廃止されている死刑制度は、85.6%の高率で支持されています(2009年内閣府調査)。「凶悪事件」が発生するやマスコミは、事件の異常さと犯人の残虐性をドラマ仕立てで報じ、「遺族の心情を考えろ。そんなに悪いやつは殺してしまえ」と世論を煽ります。
  60数年前、マスコミ=世論は圧倒的に戦争を支持し、人間の尊厳は無残なまでに踏みにじられました。その反省からわが国は、日本国憲法(以下、憲法)を制定したのです。『われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する』(日本国憲法前文より)。
  私は中学校に入学したてのころ、ふざけっ子でした。あるとき、答案を受け取って席に帰る女子がおどけたような歩き方をしたのでからかって真似したら、みんなに受けたのです。授業が終わって先生に呼ばれ、「あの子は足に障害があるのだ」と諭され、自分のしたことの残酷さに愕然としました。他の小学校から来たその子の事情を知らなかったでは済まされないことで、半世紀経った今でも悔いがこみ上げてきます。
  岩手県の中学校の教員になり教職員組合に加入し、憲法そして平和・人権・民主主義を学習し、学校・職場・地域の課題と直結することを知りました。教育研究集会では被差別部落問題・人権教育と出会い、生活指導など自分の実践が俎上に上げられ、未熟さや間違いに気づかされることも度々でした。子どもたちと差別などの学級の問題を討議し、気づかないことや分かったふりがいかに残酷なことかも思い知らされました。
  教職員組合の役員として、まさに自分の思想性が問われる場面に幾度となく直面しました。2008年日教組全国教研では全体会場使用を拒否された『プリンスホテル問題』は憲法の根幹に関わることと捉え、一歩も引き下がることなく闘い勝利することができました。支えになったのは、憲法を日々の実践の柱とする圧倒的な組合員でした。EI(Education international)などの教職員の国際会議では、論議される運動の理念がまさに日本国憲法の人権・平和・民主主義そのものであることを知り誇りに思ったものです。
  再度、世論について述べます。独裁国家を引用するまでもなく、世論が一色になることほど怖いものはありません。小さいころ亡母によく、「お前はいつもテレビに文句を言っている」と、へそ曲がりのように言われたものです。多数意見には常に胡散臭さが付きまとい、それに異を唱える少数意見は排除されがちです。教職員組合などではメディアリテラシーに取り組んでいます。マスコミを初めとするメディアによる「大多数意見」には、まず眉につばをつけて「本当か?」と疑ってみる「世論」がなければ不健全です。
  今では私は、だいたいが憲法に透かしてみれば正体が見えてくると確信しています。一昔前ならば闇に葬られていたセクシャルハラスメント・パワーハラスメントは、まさに基本的人権の問題としてマスコミにも取り上げるようになりました。国民の人権を認めない国は国際世論の批判にさらされ、市場原理主義がもたらした環境問題は、今や国際的に無視できない今日的課題となっています。何にもまして、世界最大最強の軍事力を以ってしても平和が実現できない現実は、わが憲法の平和主義の先見性を示しています。
  世論を憲法で透かしてみて、ばっちりとその正体を見抜く子どもたちを育て、自らも憲法を生活に生かすことが私たちおとなの責務であり、いつでも権力にとって都合がいい社会にゆり戻そうとしたがる勢力をチェックする力にもなるでしょう。

 
【森越康雄(もりこしやすお)さんのプロフィール】
1947年   青森県八戸市生まれ
1970年   岩手県公立中学校教員(美術・数学担当)
  〜1996年
1996年   岩手県教職員組合役員(書記長・中央執行委員長)
  〜2004年 
2004年   日本教職員組合中央執行委員長
  〜2008年
2008年   教職員共済生活協同組合理事長
  〜現在
今後の予定
岩手県雫石町の小岩井農場近くに建てた個人ギャラリー館長
訪れる人たちにとって「ホッとできる縁側」的存在にしたい
本来の人生目標であった水彩画家として絵描き三昧の毎日
スケッチ旅行・たまに個展・気が向いたら絵画教室・時々薪割り