教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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僕の憲法学習
2011年3月7日
元山 健さん(龍谷大学法学部教授)
 

 それで良いかどうかは別として、大学の教師になるには教育実習の必要はありません。僕はもう今から数えれば三十数年も以前、奈良教育大学に勤めました。その頃、付属中学は先端的な教育実践にあふれていました。その一環でしょう、ベテランの社会科教師Y先生の指導の下で、「公民」の一部を教え始めたのですが、僕の授業は完璧な教室崩壊状態。ある日、到頭、「もうお前らに教えてなんぞやらない」と江戸弁で啖呵を切って大学のキャンパスに戻ってきてしまいました。付属中学の先生たちになだめられて、恥ずかしながら授業を再開したのですが、一転、生徒たちはシンとして声なく、僕の話を聞いてくれたのでした。僕は記憶にある限り、授業のやり方を変えなかったから、偉かったのは先生たちと生徒たちでした。これは最も強烈な僕の教育実習でした。Y先生、生徒諸君(今や君たちも50歳になろうとしている)に教えてもらって今の僕がいます。みんな有難う。

 子どもたちに読んでもらえる憲法の本を書けたらいいなという思いが段々と芽生えてきたのは、子どもたちの声があふれていた奈良の大学(付属幼小中を含む学園)のときではなく、不思議かもしれませんが、そこを辞めてからのことです。そうこうしているうちに僕は龍大に勤めさせてもらうことになりました。京都・奈良は僕の教師生活の原点でもあるのですが、京都に来ると間もなく(もちろん偶然なのですが)、文英堂編集部に勤めているKさんから子ども用の学習参考書を書いてほしいという話が舞い込みました。何せΣBESTとチャート式の名にし負う出版社からのお話しです。学参・問題集を作るのは得意ではないし、困ったなと思っていたら、このシリーズの既刊書を見せてくれて、説明をしてくれました。そうして出来上がったのが、『読んでみよう!日本国憲法』(文英堂)です。「二色刷りチャート式」派の皆さんの期待に反して、過去問も合格秘訣集もない、漫画と挿絵とイラストと写真が満載、国民主権、民主主義、自由・人権、そして平和のメッセージを子どもたちにドカンと打ち出した「受験参考書」です。活字も大きい。多分異色の学参です。僕はとても満足しています。はしがきのタイトルは「この本を使うみなさんへ」というのですが、田中正造の物語ではじめました。このはしがきの草稿は本来、悲劇性を帯びたロマンチックな文章でした。なぜなら僕は田中正造が好きなのです。Kさんに「子どものための本なんですよ、センセ。もっと明るく、未来を見つめて」とボロカスに言われて書き直したのが今の文章です。お陰で草稿の何倍も良くなりました。そして何よりもこの本は漫画家さん、イラストレーターさん、編集者の知恵、みんなの力で出来上がった本なのです。これが、僕がこの本を気に入っているもう一つの理由です。ここでもまた僕は、たくさんの仲間や教え子に教えられて、とにもかくにも念願の子どもに向けた憲法の本を書くことができました。

 僕は憲法を教えるたびに教えられてきたような気がしています。障がいのある人たちの「ともいき大学」(共生をともいきと呼ぶのです。龍谷大学短期大学部の先進的試みです)で何と3時間もぶっ通しで憲法を教えたこともあるのです。そのときも「ともいき大学」のみんなに、(そしてここでも)僕の教え子たちに、たくさんたくさん教えてもらいました。でも、もう書きすぎです。その話は機会があればまた。

 普及事務局の担当の方からは『読んでみよう日本国憲法』の監修者として「憲法学習」について書いてほしいとのご要望をいただいていました。でも、とてもその任に耐えず、つまりは、「教える者が教えられる」という在り来りの話になってしまいました。ごめんなさい。

 
【元山 健(もとやま けん)さんのプロフィール】
1947年生まれ。早稲田大学法学部、大学院法学研究科博士課程を修了後、奈良教育大学、東邦大学勤務を経て、現在龍谷大学法学部教授。