教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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若い世代の主権者としての成長を支えるもの
2011年3月14日
小沢隆一さん(東京慈恵会医科大学教授)
 

 市民の憲法学習会に呼ばれることがありますが、参加者の平均年齢は結構高く、「若い人の参加が少ない」という感想もよく聞かれます。憲法と「同じ時代」を生きてきた人たちが憲法学習に熱心なのは、自然なことです。政治的に多感な若者期を過ごした方々には、最近の若い世代の消極性が気になるのかもしれません。他方、若い世代にとっては、そうした場所はあまり「居心地」がよくないのかもしれません。 若い世代が、主権者としての自覚を高められるような独自の回路を探り当てる必要がありそうです。

 興味深いグラフがあります。明るい選挙推進協会が作成したHPに載っているものです。
  このグラフから読み取れそうなことを、以下に並べてみます。
@若者層は、いつの時代でも中高年層と比べて投票率が低い。すなわち政治参加意欲は加齢とともに上昇する。
A衆議院に小選挙区制が導入された第41回総選挙(1996年)では、すべての年齢層で投票率が激減した。すなわち政治参加意欲が全般的に低下した。そしてこの傾向はしばらく続いた。
B第44回(2005年)と45回(2009年)の総選挙では、 すべての年齢層で投票率が上昇した。とくに若者層での上昇が著しい。

 衆議院に小選挙区が導入された1994年から21世紀の最初の10年間は、就職難、失業率の上昇、非正規雇用の拡大、教育の格差拡大、医療や福祉予算の削減などが続きました。この時代に若者期を過ごして大きな不利益を被った世代は、「ロスト・ジェネレーション」とさえ呼ばれています。その世代は、同時にもっとも政治参加意欲を低下させた(させられた)層です。連邦下院議員が小選挙区制のみによって選ばれるアメリカでは、黒人やヒスパニックなどのマイノリティの投票率がいつも低いのだそうです。政治参加意欲は、選挙制度のあり方やその階層の社会的位置によって左右されることがわかります。

 ここから読み取れることは、若い世代の政治参加意欲、すなわち主権者としての意識の向上は、若い世代の自覚に訴えるだけでは果たされず、参加意欲の向上を保障し促進するような政治制度、若者の社会参加、その地位向上のための社会保障制度などの実現なくしては望み得ないことではないでしょうか。主権者としての成長を保障するための中高生に対する憲法教育に際しては、ぜひとも、こうした政治への参加を保障する選挙制度その他の政治制度、医療や社会保障などの生活を支える社会制度についての学習もからめることで、それら制度作りや制度改革への意欲を養っていただけるよう切に願います。この課題は、「おとなの責任」だと思います。

 
【小沢隆一(おざわ りゅういち)さんのプロフィール】
1959年生まれ 東京慈恵会医科大学教授 憲法学
一橋大学法学部卒 1990年に静岡大学助教授・2000年に同教授を経て2006年から現職 
著書に、『予算議決権の研究』(弘文堂)、『現代日本の法』(法律文化社)、『ほんとうに憲法「改正」していいのか?』(学習の友社)、『はじめて学ぶ日本国憲法』(大月書店)、『ここがヘンだよ日本の選挙』(共著・学習の友社)、『クローズアップ憲法』(共著・法律文化社)『民主党政権下の日米安保』(共編・花伝社)など