教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
トップページ 憲法教育を考える 就職先としての自衛隊
 
就職先としての自衛隊
2011年4月4日
布施祐仁さん(ジャーナリスト)
 

 茶色い土壁の家が立ち並ぶ村で、チームを組んでパトロールを行う米海兵隊員と陸上自衛隊員。そこに突如、自動車に爆弾を積んだ「自爆テロ犯」が突っ込んでくる――。
  米カリフォルニア州の海兵隊基地内につくられた最新式の歩兵戦闘訓練施設。実戦に近い訓練ができるように、アフガニスタンの村そっくりにつくられ、音やにおいまで再現可能だ。ここで2月初め、陸上自衛隊と海兵隊は共同訓練を行った。海兵隊のホームページによれば、この訓練に参加した陸上自衛隊の小隊長は「日本は60年間、本当の戦いを経験していない。(実戦経験が豊富な)海兵隊と一緒に訓練することで、我々はその経験を積むことができる」と語ったという。
  自衛隊はいま、これまでにないスピードで変貌を遂げつつある。例えば、陸上自衛隊はそれを「訓練をして精強性を誇示する時代から、行動して評価される時代へ」というキャッチフレーズで表現する。つまり、これからは訓練しているだけではなく、実際にどんどん動いて結果を出していこうということだ。
  昨年12月に閣議決定された新「防衛計画の大綱」で、「専守防衛」を前提としたこれまでの「基盤的防衛力構想」を投げ捨て、「動的防衛力」への転換を打ち出したのも、この流れである。北沢俊美防衛相は、この「動的防衛力」について、「自衛隊の活動量を増していくことを主眼としている」と率直に語っている。
  日本はこの20年間、アメリカの要求に沿う形で、自衛隊の海外派遣を拡大してきた。とりわけ今世紀に入ってからは、停戦後の中立的な国連PKOの枠を大きく超えて、インド洋やイラクなどの「戦地」に自衛隊を派遣し、戦争の一方の当事国であるアメリカを軍事的に支援する活動を行ってきた。そして現在、アフガニスタンへの自衛隊医療部隊の派遣を検討中だ。
  アメリカも、日本が同盟国として、世界的規模(グローバル)での米軍の活動にいっそう協力することを望んでいる。その証拠に、米国防総省が今年2月に発表した「国家軍事戦略」で、「自衛隊が海外での運用能力を向上させるよう支援していく」と明記した。
  問題なのは、毎年自衛隊に入隊する大勢の若者たちの大半が、このような自衛隊の実態をよく理解しないで志願していることである。なぜなら、防衛省・自衛隊は、このような自衛隊の「海外遠征軍」的側面をなるべく出さないようにしているからである。
  北海道のある公立高校の教師は、自衛隊のリクルーターが学校にやってきて希望者を対象に行う説明会の様子について、こう証言する。
  「リクルーターの説明は、待遇面での魅力や、災害救助でたくさんの人を救って現地の人たちにこんなに感謝されたといった話がほとんどで、軍隊ぽい話は一切ありません。生徒に見せた自衛隊紹介ビデオにも、敵を殺傷するための武器はほとんど出てきませんでした」
  自衛隊が、志願者の多い北海道、東北、九州地方のテレビ局で放映している自衛官募集CMも、なぜか災害派遣訓練の場面しか出てこない。こういう作り方をするのは、これが最も「効果」があると考えているからだろう。
  しかし、「災害派遣」は、自衛隊の活動のごく一部でしかない。実際、私が取材したある陸上自衛官は、阪神大震災のときに活躍した自衛隊の姿に感動して自衛隊に入ったものの、上官から「災害派遣は日々の訓練のおまけでしかない」とはっきり言われたと教えてくれた。これから自衛隊を志そうと思っている後輩たちへのメッセージを求めると、「僕が自衛隊をあまり知らずに入ったので、これから入ろうという人には、自衛隊の中をある程度知ってからもう一度考えた方がいいのでは、と言いたいですね。僕のように災害救助をやりたくて入るのでは、はっきり言って続かないと思います」と語った。
  当の自衛隊が知らせないのなら、それを子どもたちに知らせることができるのは、親か学校の教師しかいない。だから、学校の先生方には、ぜひ社会科の授業や進路指導などで自衛隊の実態を生徒たちに伝えてほしいと思う。それは、自衛隊を志す生徒にはもちろん、そうではない生徒にとっても、この国の「主権者」を育てるという観点から大事なことではないだろうか。
  自衛隊が、実際の戦場で殺し、殺されるかもしれない活動に踏み出したことは、隊員たちのストレスを間違いなく増大させている。
  防衛省が公表しているデータによれば、それまで年間50人前後で推移していた自衛官の自殺者が、1997年頃から増加の兆しを見せはじめ、2004年度に過去最悪の94人を記録すると、以後毎年80〜90人と高いレベルが続いている。これは、自衛隊の海外派遣の拡大と軌を一にする。さらに、イラクに派遣された陸上自衛官の在職中の自殺率は、陸上自衛隊全体の3倍の高さとなっている。
  いま自衛隊に入る、生徒を送り出すということは、つまりこういうリスクを負うということを意味する。
  残念ながら、こうした現実に問題意識を持つ教師が少なくなってきているように感じる。例えば、これは中学校・高校での「総合的な学習」あるいは「職場体験学習」としての自衛隊への体験入隊が、ここ数年で急増していることにも表れているのではないか。
  また、問題意識を持っている先生方からも、「今の厳しい不況と就職難の状況においては、有力な就職先として自衛隊の存在を無視することはできない」といった複雑な心境を度々耳にした。実際、リーマンショック後、自衛隊への志願者は急増し、倍率も跳ね上がっている(07年度約5倍→09年度約13倍)。
  いずれにせよ、進路を考える上で仕事の中身を深く理解するということは、最終的に本人がどんな結論を出すにしろ、必要なことだろう。
  菅直人首相は、1月20日に行った外交に関する講演で、「若い自衛隊員や海兵隊員がいざというときには血を流す覚悟で任務に当たっていることを忘れずに、日米同盟のさらなる深化に取り組んでいきたい」と語った。
  今後、東日本大震災での活躍を見て自衛隊を志す子どもたちが、きっと増えるに違いない。災害派遣は間違いなくやりがいのある仕事だ。しかし、心から人のために役に立ちたいと思って自衛隊員となった若者たちが、アメリカの戦争に動員され、殺し殺されるかもしれないのが、「日米同盟」のもう一つの現実である。
  日本の将来を担う彼らに、血を流させてはならない。

※防衛省・自衛隊の中高生、子どもたちへの勧誘、広報活動について、情報をお寄せください(jsdf-recruit@hotmail.com

 
【布施祐仁(ふせ ゆうじん)さんのプロフィール】
ジャーナリスト。1976年東京生まれ。著書に「北の反戦地主 川瀬氾二の生涯」(高文研、2009年)、「日米密約 裁かれない米兵犯罪」(岩波書店、2010年)。近刊予定(7月)に「自衛隊・貧困徴兵制と若者たち〜戦地派遣時代の人づくり」(かもがわ出版)。現在、「平和新聞」編集長。