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「法的な疑問・被害を感じたときに動ける力」を育てるために
2011年5月16日
小牧美江さん(司法書士法教育ネットワーク事務局長)
 

 司法書士は、全国各地で出張法律教室その他様々な法教育の活動を行っています。その多くは司法書士会や青年司法書士会が事業として実施しているもので、高校生を対象とするものが多いですが、依頼に応じて小・中学校、専門学校、大学、各種支援学校、児童養護施設での取り組みをしている会もあります。私は、所属する大阪司法書士会が「高校生法律講座」事業を開始した2000年度からこの活動に参加し、毎年大阪府内の数校の高校で、悪質商法、労働法、ドメスティック・バイオレンス、セクシュアル・ハラスメント等をテーマとした法教育の講演や授業を実施しています。現在は、全国の法教育仲間の司法書士や教育関係者と共に結成した司法書士法教育ネットワークの事務局長としての活動もしています。
  法教育とは、法律専門家を養成する法学教育とは別に、一般市民にとって必要な基礎的な法的リテラシー(法、司法制度、法形成過程に関する基礎知識・技能などの資質を身につけ、これを主体的に活用していく能力)を養成する教育です。何をこの「基礎的な法的リテラシー」というのかについては様々に議論があるところですが、私は、「法的な疑問・被害を感じたときに動ける力」、すなわち、何かおかしいのではと思ったときに、法律や相談先を調べてみる、相談をしてみる、法律専門家や司法制度を利用するなど、自分にできる行動を起こすことができる力であると考えています。
  私の法律講座では、この「法的な疑問・被害を感じたときに動ける力」を身につけることを意識してもらおうと、右図のような思考・行動のフローチャートを意識して(時間に余裕がある場合は実際に生徒さんにも示しながら)、講演や授業を行っています。法律専門家を招いての講演会でも、教師のみなさんが授業で教える場合でも、将来役立つ知識を少しでも多くと考えるあまり、こんな法律が「あった」→「要求する、是正する、法律を使う」という部分のみを伝えることで終わってしまいがちです。しかし、一歩下がって原則から考え、なぜこの法律があるのか、この法律で十分役に立っているのか、解釈があいまいなところや不具合は無いのかと、考える力を育てることを意識した授業を考えて欲しいと思います。この原則には、当然ながら、日本国憲法も含まれています。

  例えば、貧困で困っている人がいるとします。日本国憲法25条は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利=生存権の保障をうたっています。この原則から考えると、貧困で困っている人を助ける法律や制度があるかもしれないと気づく。法律や制度があるかもしれないと気づくことが無ければ、それを調べてみようとか、役所や法律専門家に相談してみようとは考えられません。法律があっても解釈が分かれていたり、現実の問題にうまく対応していなかったり、使える法律が無いこともあります。原則から考えているときにこのような実態にぶつかると、「必要ならば法律を変える?」「必要ならば法律を作る?」という部分にかかわる疑問が、生徒さんたちからも出てきます。実際の社会では、例えば訴訟によって司法の判断をあおぎ、その結果としての裁判例が新しいルールになっていくことがあります。法律を変えたり作ったりするために、国会請願などの市民運動をすることもあります。このような考え方、行動の道筋を示し、実際に、この道筋にそって行動した当事者の例を伝え、原則から考え、行動を選択する練習を続ける。これは、自由及び権利を「国民の不断の努力によつて」(日本国憲法12条)保持する方法の練習にもなることでしょう。
  「法的な疑問・被害を感じたときに動ける力」を育てるために、このような法教育の授業を、共に検討し、実践していければと思います。

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【小牧美江(こまき みえ)さんのプロフィール】
1995年3月 司法書士登録(大阪司法書士会所属)
2003年7月 簡裁訴訟代理関係業務認定
ジェンダー法学会、日本消費者教育学会、法と教育学会所属