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ある校則訴訟と、学校の中の子どもの人権
2011年7月25日
岡崎 敬さん(弁護士)
 

ある校則訴訟
  私が弁護団の一員として担当した、今から約20年前の事件の話です。ある私立高校で、校則に違反してバイクの免許を所得してバイクに乗車した男子生徒が退学処分となりました。バイクを通学に利用したわけでも、もちろん学内で乗車したわけでもありません。復学を求めるという選択もあったのですが、「あの学校には戻りたくない。しかし、退学処分は納得がいかない」という本人の考えに従い、退学処分の違法を主張して、高校に対して、損害賠償請求訴訟を提起することにしました。
  それまでの判例の傾向からは、勝訴は難しいと思われたのですが、地裁、高裁でいずれも勝訴し、本人も満足してくれました。退学処分は裁量を逸脱し違法であるという判断です。しかし、この判断は、校則自体は適法であるということを前提とします。「バイクの免許取得・乗車を一律に禁止する校則は憲法に違反し無効である」という弁護団の主張は退けられました。その意味では、当時の一連の裁判例の傾向に従った判決であり、勝訴は、高校があまりにひどいこと(裁量を逸脱したこと)を行ったからだということになります。

バイク免許取得・乗車は人権か
  この事件では、バイクの免許取得・乗車を一律に禁止する校則が問題となりました。私たち弁護団は、この校則が人権を保障する憲法に違反して無効である(したがって、無効な校則違反による退学処分は行うことができない。)という主張をしました。その前提として、バイク免許取得・乗車が人権かという問題があります。
  憲法は、その14条以下に、平等権、表現の自由、生存権など、様々な人権規定を置いています。しかし、そこに列挙されていない権利であっても、13条の「幸福追求権」の一つとして、人権として保障される場合があります。私たちは、バイクに乗るという自己決定は、「幸福追求権」の一環として憲法上保障される人権であるという主張を展開しました。

学校の中の子どもの人権
  ところが、裁判所には、この点を判断してもらうことができませんでした。その前段階で、「私立学校には、憲法の人権規定の適用がない」という判断をされてしまったのです。平たくいえば、「(私立)学校内では、生徒に人権はない」ということになります。
  憲法の人権規定は、本来、「公権力」(国や地方公共団体)と国民の間で適用されるものです。例えば、警察がデモ行進を制限すれば、「表現の自由」(憲法21条)の規制ということになります。国公立学校であれば、同様の議論も行いやすいのですが、私立学校は、公権力ではないから、学校側が生徒の権利を制限しても、憲法問題とはならないという考え方があります。この事件の判決も、それ以外の様々な裁判例も、基本的に同様の立場に立っています。
  しかし、実態はどうでしょう。最終的な退学処分の権限すら持っている学校(校長)が、生徒の行動を制約できることは明らかです。警察が国民を取り締まってその行動を制約できるのと、本質的には、なんの変りもないといえないでしょうか。
  そうすると、私立学校であっても、その実態に照らして生徒に人権が保障されるという考え方も、十分合理性があるということになります。憲法の学者の中でも、有力に主張されている見解です。

人権を制約するということ
  憲法上の人権だからといって、どのような場合も保障されるわけではありません。例えば、憲法上極めて重要な権利と位置付けられる表現の自由が認められるからといって、他人に対する名誉棄損に当たる表現が、何でも許されることにはなりません。人権も、その行使が他人の権利を侵害するような場合には、人権相互の調整原理である「公共の福祉」による制約を受けるということになります。
  バイクの免許取得・乗車はどうでしょう。高校生だからといって、バイクの免許を取得して乗車しても、他人の権利を侵害することにはなりません。もちろん、事故を起こして他人を傷つけることもありうるでしょうが、そのような場合については、すべて国の法律で規定されています。そうだとすれば、16歳以上に一律に国が許容しているバイクの免許取得という権利を学校が認めないということも、学校外のバイクの乗車を学校がすべて禁止するというのも、人権の違法な制限になると考えられるのです。
  他方、人権の制約を認める別の考え方として、人権の主体自身を保護するためには制約もやむを得ない場合があるという考え方があります。この事件の当時、多くの高校で制定されていたバイク禁止校則も、高校生の悲惨なバイク事故が背景にありました。この考え方によってバイク禁止校則が許されるか、これは、難しい問題だろうと思います。

終わりに
  バイク禁止校則一つをとっても、憲法にかかわる様々な問題があります。様々な校則を、憲法上の人権の制限として検討してみるのも、身近なテーマによる法教育の素材として、有用なのではないかと思っています。

 
【岡崎 敬(おかざき けい)さんのプロフィール】
弁護士。伊藤塾講師。