教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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「正義」を疑え! 〜 法を批判的に思考する憲法教育へ
2011年8月8日
関 良徳さん(信州大学教育学部准教授)
 

携帯電話の校内持ち込み原則禁止は合憲?違憲?
  私の研究室の大学院生がある中学校で研究授業を行う機会があった。その授業のタイトルは「携帯電話の校内持ち込み禁止は合憲?違憲?」。携帯電話の校内持ち込みを原則禁止とした文部科学省通知(平成21年1月30日、20文科初第1156号)を憲法の規定に照らして検討するという授業内容である。生徒たちに与えられたヒントは「法の下の平等」「財産権」「表現の自由」。大人はいつでも携帯を持っているのに何で子どもは制限されるの?と問う生徒たち。自分たちの日常的な話題が憲法で考えるべき問題であったことに驚きながらも、議論の末に「やっぱり携帯は校内持ち込み禁止だよね」という結論。しかしその理由については「公共の福祉に反するから」とだけ学習プリントに書き込む生徒も。

本当に多数決でよいのか?
  平成21年に私たちが立ち上げた信州法教育研究会の公開授業。昨年度の憲法部会の授業テーマは「多数決は絶対か?」。クラスの席替えルールを多数決で決めたところ、「A君は常に先生の前の席」「女子は自由に席を選べる」「親の所得が多い順に席を選べる」などのルールができてしまった!さあ、これらのルールは実行してもよいのか?という課題を与えられて考える中学生。「一部の人が嫌な思いをしたり、困るようなルールを実行してはいけない」「多数決で決めてよいことなのかどうか、じっくり考える必要がある」などの意見が出された。そして授業後のアンケートでは、沖縄の基地問題に言及する生徒もいた。

自分の頭で考えて、みんなで議論する憲法教育
  これらの授業を通して、すでに決まってしまったことでも、決めてしまったことでも、もう一度自分の頭で考えて仲間と議論してみることが必要である、ということを子どもたちは学んでいく。この時、自分自身の意見を組み立てるのに参照することができるモデルが「憲法」であり、その中に書かれている様々な条項である。
  公民の授業では、これらの条項を読んで憶えるパターンのものが今でも多いが、そんな授業にしてしまうにはもったいない重要なことが、憲法にはたくさん書かれている。折角、多くの仲間が教室に集って授業を受けているのだから、教科書の太文字を暗記するのは家庭学習にまわして、教室では議論を白熱させてみよう!というのが冒頭の大学院生が仕上げた修士論文の結論であった。確かに「公共の福祉」という太文字を憶えても、それが具体的に何を意味しているのか分からなければ、憶えた太文字も試験終了とともにどこかへ消え去ってしまう。勿論、教室での議論はそう簡単には白熱しない(マイケル・サンデルだって苦労している!)。授業を成功させるカギは、子どもたちにとって日常的なテーマをとりあげ、当事者としての意識を持たせることである。

法を批判的に思考する憲法教育へ ― 法教育の次なる課題
  国家が決めたこと、多数決で決まったこと。これらは正しいこと、すなわち「正義」であるかのように考えられがちである。しかし「何が正義か」はそう簡単には決まらない。どんな「正義」でも疑ってみる価値がある、既存の法も疑ってみよう、というのが法を批判的に考える法「批判」教育である。
  しかし、そんな大胆な授業をどうやって作るのか?小中学校の先生だけでできる話ではない。ならば弁護士さんを呼んで来よう、といってもそう簡単ではない。私たちの研究会でも小中学校の先生方と弁護士さんが4回も5回も部会を開いて、やっと一つの授業案ができ上がるのである。
  法教育という言葉が少しずつ知られるようになってきた現在、次に求められるのは法教育の授業作りのための教材集や法律専門家との連携・協働体制であると言われている。特に憲法教育では、立憲主義や基本的人権を具体的に理解するために「現在に対する批判的な思考」が育てられなければならない。現在の不正義を生み出している法や制度を批判的に考えるための教材を作ること、そしてそれを担う教員、弁護士、研究者の連携が構築されなければならない。これが憲法教育の、そして法教育の次なる課題である。

 
【関 良徳(せき よしのり)さんのプロフィール】
1971年群馬県生まれ。一橋大学法学部卒業。同大学院博士課程修了。博士(法学)。一橋大学大学院助手等を経て、現在、信州大学教育学部准教授。専門は法哲学、法理論。
著書に『フーコーの権力論と自由論』(勁草書房)。論文に「フーコーと法の現在 ― 法の排除から法の再導入へ」仲正昌樹 編『近代法とその限界』(御茶の水書房)、「法教育と法批判 ― 解釈法社会学による法批判教育の再構築」『法社会学 第75号 法の教育』(有斐閣より刊行予定)など。