教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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法は、あなたと私を結ぶもの−法教育の実践を通して
2011年8月22日
林 千賀子さん(弁護士)
 

 「20XX年、人類は自由に宇宙旅行が出来るようになりました。◎×星に、300人の人間が降り立ちました。この人達が生きていくためには、何が必要かな?」
  中学や高校で行う法教育の出前授業で、投げかけることのある質問です。
  生徒達は次々と、「水」「空気」「食べ物」「土地」「音楽」etc.と答えていきます。「うん、そうだよね」と挙げられたものを黒板に書き込んでから、改めて質問。「これらの物さえあれば、◎×星の人達はやっていけるかな?」生徒達はしばし無言の状態。「水や食べ物、土地など、奪い合いになったりしないかな?」この辺りで、1、2人が小さな声でつぶやきます。「他に必要なもの…決まり事?」「はい、そのとおりです!決まり事、ルールが必要だよね。」「じゃあ、どんなルールがいいかな?どんなルールだったら、◎×星でみんなが楽しく暮らせるかな?」再び次々と、生徒達の声が挙がります。
  法教育は、法(=ルール)の精神や法的な考え方を身につけるための教育とされています。弁護士登録して以来、法教育活動を継続的に行ってきました。
  法教育の目指すところは、社会の中で主体的に生きていける智恵と力を身につけることです。

  そのため、まずは、法(=ルール)の大切さを主体的に知ってもらうことが重要と考え、冒頭のような質問をするなど、生徒自らが「人間社会の中で必然的に必要とされるルールの存在」について気づけるような授業作りを工夫しています。
  同時に、“自分達の権利や自由を互いに享受するための良き法(=ルール)”とはどのようなものであるかを一緒に考える中で、日本国憲法の理念でもある「個人の尊厳」と、互いの尊厳を尊重しあうための調整原理としての「公共の福祉」について実感してもらうことも心がけています。こういった意味で、憲法教育と法教育は、密接不可分なものであると考えています。
  憲法の授業の中で必ず心がけていることは、「(良き)ルール=自分たちを縛るだけのもの」ではないと理解してもらうことです。―みんなで大切にしたいと思えるルール(=法)は、みんなの権利や自由を守るためのもの。自分にとって大事な権利や自由は、他の人にとっても大事なもの、だから、お互いの権利・自由をできる限り尊重し合うために、ルール(=法)が必要。―つまり、「公共の福祉」先にありきではなく、「個人の尊厳」先にありきだということを、わかりやすく説明することで、憲法と“セット”で法のあるべきあり方を考えてもらえると思っています。

2011.03.12 弁護士会憲法委員会主催「第5回 中高生のための憲法ゼミナール」にて。前日起きた東北地方太平洋沖地震に全員が心を痛める中、こういう時こそと平和・9条問題について真剣に議論しました。

  ところで、法が社会のルールである以上、実社会における様々な問題を知ってもらうことは法教育に不可欠と考え、大学生を対象に社会問題に触れてもらう教育活動も数年前から行ってきました。昨年からは、北大法学部生を中心とした(医学部の学生さんもいます。)自主ゼミを開催し、「ミャンマーにおける医療の実態」「中国を考える」「検察問題」「死刑制度の是非」「平等とは何か」「民主主義とは何か」「民主党の政策論」「民事裁判について」といった多彩なテーマで活発な議論やフィールドワークを行いました。
  こうした法教育の活動は、私自身にとっても、法の基本的理念や司法制度についてゆっくりと考える時間を持てる貴重な機会でもあります。今後は、理論的により深めるとともに、新しい試みに挑戦するなどして、活動の幅を更に広げていきたいと思っています。

 
【林 千賀子(はやし ちがこ)さんのプロフィール】
東京大学法学部卒業
札幌弁護士会登録(2005年)
弁護士法人北海道ひびき法律事務所パートナー

※本稿は、北海道ひびき法律事務所発行のニュースレター「シンフォニー」第2号(2011年4月発行)に掲載された原稿を同法律事務所のご了解の下、補正し転載したものです。