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成人も子どもも学ぶ憲法学
2011年8月29日
田島 治さん
 

 はじめまして。わたしは、東京都武蔵野市の「武蔵野憲法ゼミナール」という憲法学習サークルの会員です。このゼミナールに参加し出して、20年くらいになりますが、ゼミナールは今年で誕生27年を迎えます。成人の憲法学習にかかわっている関係で、「憲法学習」について書くことになりました。

T「憲法」とは何か?
  「憲法を学ぶ」というと、まず「日本国憲法」(1947年5月3日施行)という成文憲法を学ぶことを想像されるでしょう。しかし、「憲法」とは、日本国憲法に限りません。
  わたしは、憲法は、第一に、わたしたちの社会の「青写真」であると考えています。世界のどの憲法も、「今後の自分たちの国を、こんな社会にしたい」という思いに駆られてつくられています。日本国憲法も、65年前の人々が、「二度と戦争をしない、平和な国にしたい」という思いを込めてつくったものです。
  第二に、わたしたちの人権や社会のあり方に関する問題のすべてが「憲法問題」であるという視点が必要です。そうでないと、憲法はどこか遠いところのものに感じられてしまいます。環境、平和、地域づくり、校則、いじめなど、個々の問題に関心のある方は多いけれども、それを「憲法」の視点からとらえている方は少ないようにも感じます。しかし、これらの問題はどれもが憲法問題なのです。いま、あなたが、このサイトでこの文章を読んでいることも、憲法によって「知る権利」が保障されているからです。

U なぜ、憲法を学ぶのか?
  ではなぜ、憲法を学ぶのでしょうか。第一に、主権者(子どもも選挙権が保障されていないだけで主権者の一員です)としての政治的素養を身につけるためと言えるでしょう。
  しかし、わたしは、それだけでは不十分だと感じています。「教養としての憲法」であるならば、ほかの趣味と変わるところがないからです。憲法を学ぶことは、その学習を通して、一人ひとりの世界観を形づくり、その世界観を実践するところに、本当の目的があるのだと思います。難しいことですが、憲法を、自分の日常の生活の中に生かすことが大切なのです。

V わたしたちの憲法の学び方
  「憲法を学びたいのだけれど、取りつく糸口が見つからない」という言葉をしばしば耳にします。では、憲法をどのように学んだらよいのでしょうか。
  @日本国憲法を読んでみよう
  まず、初めに、「日本国憲法」を読んでみましょう。わたしたちに、どのような人権が保障されていて、この国の政府の仕組みがどうなっているのかがおおよそ分かるでしょう。
  A具体的問題を考えよう
  しかし、そのときに、抽象論や解釈論に陥らないように注意しましょう。具体的問題を考えることが大切です。
  また、条文や判例・学説といった憲法解釈を「覚える」ことが大事なのではありません。憲法が何を理想としているかを読み取り、そのような社会が、現在、実現されているだろうかと考えていくことが大切です。そして、実現されていないと思ったら、現状を憲法に近づける努力をしていくこと、つまり「憲法政策」を考えることが大事だと思っています。一票の格差の裁判にみられるように、裁判所は、「どれだけ離れたら違憲になるか」と考えますが、わたしたちは「憲法にどれだけ近づけられるか」という視点が大切だと思われます。
  B当事者の立場に立った学びをしよう
  第二に、当事者の立場に立った学びをしていくことです。いいかえれば、自分(または自分に関わりのある地域・団体など)の抱えている憲法問題を考えていくことです。たとえば、家庭が本当に両性の「相互の協力により」維持されているか?(配偶者に過度な負担がかかっていないか?)、子どもの人権を尊重しているか、といった身近な問題を考え、自らに問いかけていくことが大切です。
  C縦軸(歴史)と横軸(世界)を学ぼう
  ここでいう縦軸とは歴史のこと、横軸とは世界の憲法の現状のことです。
  憲法は、各国の人々が、戦争と差別と独裁との上に権力を築いていた人々とのたたかいのなかで、つくりあげられてきました。ですから、その歴史をとらえることは、人権の大切さを確認するうえでも、とても重要なことであると思われます。中学や高校の「日本史」「世界史」の授業は、それをすべて憲法の授業として展開できるといってもよいでしょう。
  また、世界のさまざまな憲法や憲法問題を知ることで、日本国憲法をより豊かなものとしていくことができます。たとえば、第二次世界大戦後、アメリカの核実験場・核廃棄物処理場となったミクロネシアの島国では、その領域内での核物質の使用・実験・貯蔵・廃棄を基本的に禁止する憲法がつくられています。原発事故に見まわれた現在の日本の状況を考えるうえでも、たいへん示唆に富むと思われます。
  D人物から憲法を考える
  人権や平和のために活動してきた人の人生を知ることも、憲法学習のよい教材となります。たとえば、女性参政権運動に生涯を捧げた市川房枝という一人の女性の人生をたどることで、選挙権を求めた女性たちの努力を確認すると同時に、戦前の女性の地位、家制度、普通選挙、戦争体制、言論統制、公職追放、参議院のありかた、といったさまざまなテーマに発展させることができます。

W 民主主義の学習を
  最後に、憲法学習というと人権や平和の学習がメインになりがちですが、選挙制度や政党制、議会と政府の関係といった民主主義の学習が重要であることを述べておきたいと思います。
  わたしたちの人権は、具体的には国会が制定する法律によって内容が規定されます。したがって、国会議員を選ぶ選挙がどのような制度か、政党がどのような政策を示しているか、などをきちんと理解しておく必要があるからです。人権や平和を求める人たちは、民主主義のプロセスにも敏感であることが要求されるのだと感じています。

 
【田島 治(たじま おさむ)さんのプロフィール】
 1968年群馬県生まれ。立正大学法学部を経て、明治大学大学院法学研究科博士前期課程修了。院生時代から「武蔵野憲法ゼミナール」にかかわり、2004年の社会教育研究全国集会での報告を機に、成人の憲法学習の問題に取り組んでいる。憲法での主な関心領域は、選挙・政党・政治資金と、ミクロネシア島嶼国の憲法。
【著書・論文】
『わかりやすい法学・憲法』(緒方章宏編著,文化書房博文社,2005年/分担執筆)
「現代日本の憲法状況と成人による憲法学習の意義」社会教育・生涯学習研究所年報第6号『憲法・地域づくり・社会教育』2010年・所収
「市民による憲法学習の実践」『月刊 社会教育』2004年5月号・所収