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中学・高校の憲法教育に期待する〜労働者の権利と憲法教育
2011年9月12日
笹山 尚人さん(弁護士)
 

「労働法について講演して欲しい」
  2009年以降、関東近郊の高校から、「労働法の基礎や、働く際の心得などを生徒たちに教えて欲しい」という講演依頼が増えました。高校を卒業しても就職できずにフリーターになる生徒、就職できても職場でのトラブルに巻き込まれ、早い段階で職場から離職せざるを得なくなる生徒など、卒業後の進路に不安や問題を抱える生徒は増える傾向にあります。卒業後の進路で、トラブルに巻き込まれるリスクや、巻き込まれた際の対処法などを在学しているうちに生徒たちに伝えておきたい。そう考える先生が増えているように感じます。

中高生に正しい労働法の知識を
  2009年以降の増加というのは偶然ではないように思います。
  80年代以降、高校や大学を卒業したら、どこかの会社の正社員になり、その会社に一生勤め上げる、という団塊の世代を中心にして大人がイメージする「日本型雇用」社会が崩れ始めました。そして、「常用代替」、つまり一昔前だったら正社員が行っていた仕事を、アルバイトやパート、派遣、契約社員といった非正規社員が担うという状況が進展。こうした非正規社員は、労働契約が有期雇用という形態を取ることが多いので、会社の都合に雇用の継続が左右される存在です。そうした不安定さと、社会における雇用不安が生活不安と結びついて一斉に噴出したのが、2008年秋のリーマンショックと、それに伴って大量におこなわれた「非正規切り」「派遣切り」でした。工場労働に従事する派遣労働者の中に、職がないために地方から寮が用意されているということで上京してきた人たちが多く存在し、彼らが職を失うと共に住まいを失うということで、大きな社会問題になりました。彼らを救済しようと、2008年年末から2009年の年始にかけて「日比谷年越し派遣村」が開設されたのは記憶に新しいと思います。
  私も、労働事件を日々取り扱う弁護士として、労働法が現場で生かされず、職場が無法地帯となっている状況を多数見聞して、なんとかならないものかと日々考えるうちに、ふと、労働者が学校教育の中で、労働者としての教育を全く受けていないということに気付いたのです。これはいけないと、岩波ジュニア新書から、『労働法はぼくらの味方!』を出版したのが2009年2月です。先生たちに読んでもらって、学校でも労働法教育が行われる必要性に気がついてもらいたいし、できれば中高生にもじかに読んでもらって、私が言いたいことを伝えられればとの思いからでした。
  社会の不穏な状況を受けて、この本を書いた人間なら、ということだったのでしょう。私は今でも、あちこちの高校を訪れては、将来働きに行く際に気をつけるべきことについて話しをしています。

労働法教育がないことの危険性
  上記の「非正規切り」「派遣切り」に象徴されるように、今の労働社会は、人を育てるということにどんどん無頓着になっていっています。昔だったら、まじめでありさえすれば、数年かけてその人の労働者としての能力を向上させようと会社が努力しました。しかし今の社会は、初めから「即戦力」であることを求められています。なんの職業訓練も受けていないのに、いきなりエースストライカーとしての働きをして成果を出すことを求められ、期待通りの働きができないとなると「能力がない」「うちの会社にあわない」などとのレッテルを貼られ、会社からの厳しい糾弾の中で精神疾患を患うケースも増える一方です。
  こんな荒れた社会の中に、労働法も教えず放り込むのは、受け身の練習すらせず柔道の試合に出すようなものです。大けがするのは目に見えているのです。

憲法教育としての意味
  労働者として働くことは、憲法27条、28条に定められる人権の行使でもあります。
  そして、社会権規定が味わい深いなと思うのは、書かれている順番に、主権者としての成長が描かれているところだと私は思います。食べて生きて(25条)、必要とする教育を受けて(26条)、労働三権の行使もあわせて、働く(27条、28条)。人間の成長するプロセスに必要な要素とはこういうことであり、このプロセスが充実してはじめて、国政の主人公としての「主権者・国民」が養成される、ということなのだと思うのです。
  労働法教育は、身を守るという直接的な必要性と共に、人権の行使を教えることでもあり、将来の主権者を育てることでもあると思うのです。この意味で、中学高校で、労働者教育を、憲法教育の一環として、ぜひ充実して行って欲しいと思います。その際、必要とあらば、どこへなりとも駆けつけますから、ぜひ呼んで下さい。よろしくお願いします。

 
【笹山 尚人(ささやま なおと)さんのプロフィール】
1970年、北海道生まれ。1994年中央大学法学部卒業。2000年弁護士登録、東京法律事務所所属。第二東京弁護士会会員。弁護士登録以来、「ヨドバシカメラ事件」など、青年労働者、非正規雇用労働者の権利問題を中心に事件を担当している。著書に『人が壊れてゆく職場』(光文社新書)、「労働法はぼくらの味方!」(岩波ジュニア新書)、共著に『仕事の悩み解決しよう!』(新日本出版社)、『フリーターの法律相談室』(平凡社新書)、『中学 高校『働くルール』の学習』(きょういくネット)、監修に『しごとダイアリー』(合同出版)などがある。