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フランスの中学における憲法教育
2011年10月3日
大津尚志さん(武庫川女子大学文学部講師)
 

 フランスの中学(4年制)では、4年間にわたって週約1時間の公民教育の時間があります。憲法教育は主として公民の時間に行われます。
  現行憲法は第5共和政憲法、1958年憲法などと呼ばれますが、近代立憲主義の理念を採用する国ですから当然のことながら、民主主義、人権の尊重、権力分立という前提にたちます。ところで、民主主義という制度を動かすのは人間であることは言うまでもありません。それでは、フランスでは将来共和国における選挙において投票権を持つことになる中学生をどのように教育しようとしているのでしょうか。
  フランスの学校は教育の目的に「市民の育成」をあげているところが少なくありません。将来フランス共和国において、あるいはヨーロッパにおいて、さらに地球において「市民」となることが求められています。
  フランスの中学1年の公民教科書の最初にでてくる単元は「中学校」です。フランスの中学校では各学級単位で生徒代表(2名)を選出する選挙がおこなわれ、代表は学級委員会や学校管理委員会などの委員会に教師や保護者代表と対等の立場で参加します。すなわち、学校自体が民主的に運営される場所として、生徒は民主主義を習得する場所として位置づけられているのです。学級委員会は文字通り各学級における問題について、学校管理委員会は学校予算・決算や校則、学校教育計画の策定、教科書採択などの広範にわたる権限を持ちます。代表に選ばれた生徒は、自分の意見でなくクラスの意見を集約して発言するべき、などという代表としての教育もうけます。一方で、代表される生徒は代表に意見を伝えるという役回りです。
  そして、人権については中学1年生でまず学習するのは、生徒にとっておそらくもっとも身近な権利である「教育を受ける権利」からです。第5共和政憲法は前文で「第4共和政憲法(1946年)前文、および1789年人及び市民の権利宣言に定めた人権…に対する愛着を厳粛に宣言する。」と述べ、第4共和政憲法前文には「国は…教育への平等なアクセスを保障する。あらゆる段階の無償、非宗教的な公教育を組織することは国の義務である」と定めています。子どもが教育を受ける権利が保障されるようになるまでには、長い歴史があったこと、地球上には教育をうける権利が満たされない子どもも多数いること、公立学校は公共の場で行われるゆえに、共和国が採択する価値の一つである「非宗教的(ライック)すなわち宗教とは切り離したかたちで学校教育は行われること、などを学習します。公立学校で宗教を誇示的に示すもの(イスラム教の女性とのスカーフが問題になる)を禁止する法律についても学びます。
  フランスの憲法教育の特色として、共和国の理念を教えるという道徳教育の役割を兼ねているというところがあります(フランスの中学に「道徳」の時間はありません)。例えば、フランス共和国憲法2条4項は、「共和国の標語は自由、平等、友愛」であると規定しています。最近の教科書(Hachette社、2010年)の「平等」という単元では、「平等」が法制化されていくにあたっての歴史、男女不平等の問題などとともに、「中学において生徒間の平等をどのように維持するか」「あなたの中学校のなかで、どうやって差別をしないように行動するか」というトピックもとりあげられています。日常生活における道徳の指針の役割も果たしているといってよいでしょう。
  フランスにおいては進学する高校は入試でなく、中学校内でおける進路指導によって決定されるのですが、前期中等教育修了試験があります。そこでの公民、憲法関係の問題をみると、いずれも文書(関係する新聞記事、データ、憲法の条文)を示したうえでの出題です。文書から何を読み取るかという能力が問われます。自分の知識と文書の大切なところの力を借りて、「フランスの市民の利益のために、フランスの法律は民主的につくられることを示しなさい。」「政党はフランスの民主主義のなかで重要な役割を果たしていることを示しなさい」といった問題を15行程度で論述することも求められます。憲法の条文の暗記が問われる出題はなく、その内容のより深い理解が求められるといえるでしょう。

 
【大津 尚志(おおつ たかし)さんのプロフィール】
武庫川女子大学文学部講師 主な著書『世界の法教育』(現代人文社、分担執筆)、『ヨーロッパにおける市民的社会性教育の発展―フランス・ドイツ・イギリス―』(東信堂、分担執筆)、『公民教育事典』(第一学習社、分担執筆)、『教育課程論のフロンティア』(晃洋書房、共編著)など