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教科書問題と今後の憲法教育
2011年11月7日
俵 義文さん(子どもと教科書全国ネット21事務局長)
 

歴史を歪曲し、憲法を敵視する教科書の採択結果
  2012年度から使用する中学校教科書の採択が終わりました。日本の侵略戦争を正当化し、日本国憲法を敵視する、新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)の自由社版、日本教育再生機構=「教科書改善の会」の育鵬社版教科書の採択結果は次の通りである。
  育鵬社版は、公立中学校の採択地区で歴史と公民を採択したのは9地区、歴史のみ2地区、公民のみ2地区である。この他、公立学校では5都県立の中高一貫校と3都県立の特別支援学校、21校の私立中学校で採択されている。この教科書を使用する中学生は、歴史47,812人(3.7%)、公民48,569人(4.0%)である(文科省11月1日発表、数字は単年度)。
  自由社版は、公立学校は都立特別支援学校の公民のみで、私立中学校9校で採択され、歴史830人(0.07%)、公民654人(0.05%)である。

育鵬社版公民教科書は憲法をどう教えるか
  育鵬社・自由社の歴史教科書は、歴史を歪曲し、日本の侵略戦争・植民地支配を正当化するものとして広く知られているが、公民教科も歴史以上に問題がある。特に、公民教育の中心である憲法についての内容は極めて重大であり、憲法を敵視し、その内容を歪め、憲法「改正」の必要性を子どもたちに刷り込むことをねらっている。この点では育鵬社・自由社共に同様であるが、ここでは育鵬社の憲法の内容について以下に紹介する。

大日本帝国憲法を高く評価し、日本国憲法はGHQに押しつけられた欠陥憲法
  大日本帝国憲法は、「古くから大御宝(おおみたから)と称された民を大切にする伝統」を取り入れた、「アジアで初めての本格的な近代憲法として内外ともに高く評価されました」と書き、一方、日本国憲法は「GHQは…、自ら1週間で憲法草案を作成したのち、日本政府に受け入れるようきびしく迫りました」と押しつけ憲法論を展開している。

「国民主権」の名で「天皇主権」を教え込む
  日本国憲法の3原則は、国民主権(主権在民)、基本的人権の尊重、平和主義である。育鵬社も一応はこの3原則を取り上げている。しかし、その内容はきわめて特異なものである。憲法学習を扱う第2章の扉は天皇の写真である。憲法では天皇が一番大切だといわんばかりである。国民主権の項(2ページ)の見出しは「国民主権と天皇」で、国民主権の説明は14行しかない。4枚の写真の内3枚は天皇であり(この教科書の天皇の写真は計7枚!)、本文では20行で天皇について書き、2つのコラムは「皇室と福祉」「日本の歴史・文化と天皇」で、実に3分の2が天皇についての内容である。「国民主権」の名で「天皇主権」を教え込むものである。

基本的人権は公共の福祉でいくらでも制限できる
  「基本的人権の尊重」の項(2ページ)では、基本的人権の説明は11行で、「公共の福祉による制限」10行、「国民の義務」が15行である。公共の福祉による基本的人権の制限とは、個人と個人の権利の調整のために使われるものであるが、この教科書では、基本的人権を制限できる「公共の福祉」として破防法、公安条例、通信傍受法、公安条例、公務員のストライキ禁止などをあげ、国家と個人の権利の対立は公共の福祉によって制限できるという説明である。自由社版はもっとあからさまに公共の福祉を「国益」としている。基本的人権の尊重よりも、その制限や義務を教え込もうとしている。

「平和主義」ではなく「戦争主義」を教える
  「平和主義」の項(2ページ)では、平和主義については、敗戦後連合国軍に軍事占領され、「連合国軍は日本に非武装化を強く求め、その趣旨を日本国憲法にも反映させることを要求しました」と、平和主義は連合国の押しつけという説明が10行でされているが、憲法9条についての説明はない。そして、残りの3分の2ページを使って自衛隊の説明、憲法の平和主義が現実の国際政治と異なっていることなどが書かれている。写真は2枚とも自衛隊であり、資料に「各国の憲法に記載された平和主義条項と国防の義務」として、5か国の憲法にある「国防の義務」を紹介している。
  第5章「私たちと国際社会の課題」の第1節「国家と国際社会」に「日本の安全と防衛」という項がある。そのページの上段には、イージス艦、戦車、戦闘機の写真があり、自衛隊の規模を示す表がある。本文では、「戦後の日本の平和は、自衛隊の存在とともにアメリカ軍の抑止力に負うところも大きいといえます。また、この(日米安全保障)条約は、日本だけでなく東アジア地域の平和と安全の維持にも、大きな役割を果たしています。」と強調している。日本の平和は自衛隊と米軍によって守られているという主張である。さらに、北朝鮮、中国の脅威を述べて、自衛隊の増強、有事法制の必要性、自衛隊の国際貢献である海外派兵のための法整備の必要性を強調している。
  以上のように、「平和主義」の名で「戦争主義」を刷り込み、憲法「改正」に子どもたちを誘導する内容である。

子どもたちに正しい憲法学習を
  以上は、育鵬社公民教科書の日本国憲法を歪め、敵視した内容の一部である。来年4月から、11地区の公立中学校、1都2県立の中高一貫校と特別支援学校の生徒5万人弱が、こうした教科書で学ばされることになる。神奈川県では、この教科書が一番多く使用されるのである。子どもたちの憲法認識が歪められる危険性がとても心配される。子どもたちが憲法について正しい認識がもてるような学習を保障するために、大人や教員、学校の責任は重大だといえる。

 
【俵 義文(たわら よしぶみ)さんのプロフィール】

現在の主な活動、所属学会、活動分野と役割
子どもと教科書全国ネット21の事務局長、立正大学心理学部非常勤講師、出版労連教科書対策副部長、歴史教育者協議会会員、東京・教育の自由裁判をすすめる会・共同代表、日・中・韓共通歴史副教材編集委員会委員・共同代表、「歴史認識と東アジア平和」フォーラム日本委員会事務局長、九条の会講師団、マスコミ九条の会・呼びかけ人、など。

主な経歴と活動
1941年福岡県生まれ。69歳。1964年中央大学法学部卒、新興出版社啓林館入社。
1965年より家永訴訟の支援会員。1988年まで職場の労組や教科書共闘会議の役員など。
88年〜98年教科書検定訴訟を支援する全国連絡会常任委員。
1998年家永訴訟の成果と運動を引き継ぐ「子どもと教科書全国ネット21」の結成に参加。
事務局長に就任。国内外で教科書問題の講演活動。1999年日の丸・君が代問題。
2000年啓林館退職し、「つくる会」教科書問題に専念。大学非常勤講師になる。このころから韓国・中国などでの会議やシンポで報告・講演。日中韓のフォーラムなどでの活動。
1999年ごろから日の丸・君が代問題、教育基本法改悪問題などの集会・講演。
2005年『未来をひらく歴史』発刊。06年教育基本法改悪反対の活動。07年教育関連三法な
ど改悪反対行動。大江・岩波沖縄戦裁判支援。08年新学習指導要領・検定問題。

最近の主な著書(本体価格)
『最良の「教科書」を求めて〜「教科書制度」への新しい提言』つなん出版、代表執筆、08年、800円
『東アジアの歴史認識と平和をつくる力〜東アジア平和共同体をめざして』日本評論社、共著、2010年、1900円
『竹島/独島問題の平和的解決をめざして』つなん出版、共著、2010年、600円
『〈つくる会〉分裂と歴史偽造の深層〜正念場の歴史教科書問題』花伝社、2008年、1000円
『「改正」基本法で教育は「再生」できるか』学習の友社、共著、2007年、1000円
『安倍普三の本性』週刊金曜日、共著、2006年、1000円
  『日本・中国・韓国=共同編集 未来をひらく歴史〜東アジア3国の近現代史』高文研、共著、
2005年、1600円。2005年度日本ジャーナリスト会議奨励賞を授賞。
『とめよう!戦争への教育〜教育基本法「改正」と教科書問題』学習の友社、共著、2005年、1000円
『あぶない教科書NO〜もう21世紀に戦争を起こさせないために』花伝社、2005年、800円
『徹底検証あぶない教科書〜「戦争ができる国」をめざす「つくる会」の実態』学習の友社、2001年、1600円
『ドキュメント「慰安婦」問題と教科書攻撃』高文研、1997年、2500円。1997年度日本ジャーナリスト会議奨励賞を授賞。