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――実りある教育のために――
 
地域に学ぶ憲法・人権教育
――実りある教育のために――
2012年1月16日
横大道聡さん(鹿児島大学教育学部准教授)
 

 私は大学、大学院と法学とくに憲法を勉強してきましたが、縁あって数年前に教育学部に赴任しました。教育学部では、憲法などの法学関連科目のほか、中学校「社会」や高等学校「公民」の教員免許科目も担当している関係で、「将来、教育の現場に出る学生たちに必要な憲法教育とは何だろうか」ということを考えながら日々試行錯誤しています。そんな中で中等教育における憲法教育について考えてきたことを述べたいと思います。

中等教育における「憲法教育」

 まず出発点として、(賛否はともかく)現行法を前提とする限り、中等教育段階における憲法教育は、学習指導要領に基づいてなされる必要があります。それでは学習指導要領において「憲法」はどのように扱われているのでしょうか。この点について、かつて、高等学校の現行および新学習指導要領の公民科目(現代社会と政治・経済のみ)での憲法の扱われ方、そしてそれを反映した教科書(政治・経済のみ)での憲法の扱われ方を調査したことがあります(横大道聡・岩切大地・大林啓吾・手塚崇聡「高大接続の憲法教育に向けての一考察――高校教科書の憲法学に関する調査の予備作業として――」鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要第20号1-23頁(2010年)、岩切大地・大林啓吾・横大道聡「高校政経教科書からみる憲法教育への示唆――高大接続の憲法教育に向けて――」立正大学法制研究所研究年報16号3-20頁 (2011))。憲法教育の受け皿となる科目は高等学校の公民科目に限られる訳ではありませんが、それに限ってみても、かなり広範な憲法に関連する知識の修得が求められていることが分かります。また、「憲法教育」は、新学習指導要領に新しく盛り込まれた「法教育」の一部を構成するものであり、中等教育での憲法教育のニーズが高まっているということも確認できます。
 それでは、どのような「憲法教育」が求められるのでしょうか。中等教育での学習は、憲法に限らず、どうしても受験のための詰め込み型になってしまうことはよく指摘される通りですが、学習指導要領では「自ら考えようとする態度を育てる」とか、「……考えさせる」という文言が多用されていることから分かるように、知識だけでなく、主体的に考察・行動する力と資質を育成することが求められています。中等教育の授業のなかでの憲法教育を行うにあたっても、こうした教育が求められることになります。

中等教育における「人権教育」

 2000年に「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」(人権教育・啓発推進法)が制定されたということはご存知でしょうか。この法律にいう人権教育とは、「『人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動』を意味し(人権教育・啓発推進法第2条)、『国民が、その発達段階に応じ、人権尊重の理念に対する理解を深め、これを体得することができるよう』にすることを旨としており(同法第3条)、日本国憲法及び教育基本法並びに国際人権規約、児童の権利に関する条約等の精神に則り、基本的人権の尊重の精神が正しく身に付くよう、地域の実情を踏まえつつ、学校教育及び社会教育を通じて推進される」教育をいいます(法務省『人権教育・啓発に関する基本計画』5頁(2002年))。ここで、「学校教育……を通じて推進される」とあるように、法律上、学校現場において、憲法教育と内容的に深く関連する人権教育を行うことが求められているのです(政府の推進する「人権教育」の内実について、かつて批判的に検討したことがあります。横大道聡・岩切大地・大林啓吾・手塚崇聡「人権教育についての覚書――憲法学の立場から」鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要19号(2009年))。
 それでは、どのような「人権教育」が求められるのでしょうか。上記の『基本計画』を見ると、「人権教育の現状として、次のように述べられています。「学校教育については、教育活動全体を通じて、人権教育が推進されているが、知的理解にとどまり、人権感覚が十分身に付いていないなど指導方法の問題、教職員に人権尊重の理念について十分な認識が必ずしもいきわたっていない等の問題も指摘されているところである」。ここから、人権教育に求められているのは、知的理解にとどまらない人権感覚まで身につけさせることであり、そのための指導方法と指導者の認識が不十分であるという理解が見て取れます。

地域に学ぶ「憲法・人権教育」

 「知的理解だけではなく人権感覚を身につける」という人権教育の目標は、先に見た「主体的に考察・行動する力と資質を身につける」という中等学校段階における憲法教育の目標と相補的な関係にあるように思えます。人権感覚を身につけることで憲法問題をより主体的に考えることできるようになりますし、憲法問題を主体的に考えることを通じて人権感覚がより深く身についていくと考えられるからです。
 人権教育の方法について、上記の『基本計画』では次のように述べられています。「人権教育・啓発の手法については、「法の下の平等」、「個人の尊重」といった人権一般の普遍的な視点からのアプローチと、具体的な人権課題に即した個別的な視点からのアプローチとがあり、 この両者があいまって人権尊重についての理解が深まっていくものと考えられる。すなわち、法の下の平等、個人の尊重といった普遍的な視点から人権尊重の理念を国民に訴えかけることも重要であるが、真に国民の理解や共感を得るためには、これと併せて、具体的な人権課題に即し、国民に親しみやすく分かりやすいテーマや表現を用いるなど、 様々な創意工夫が求められる。他方、個別的な視点からのアプローチに当たっては、地域の実情等を踏まえるとともに、人権課題に関して正しく理解し、物事を合理的に判断する精神を身に付けるよう働きかける必要がある」。
 このうち、「普遍的な視点」については、中等教育で使用される教科書レベルでも触れられているため、ある程度は実践されているように思いますが、「真に国民の理解や共感を得るため」に必要とされる「個別的な視点」、とりわけ「地域の実情を踏まえた」人権教育については、これまで十分になされてこなかったのではないでしょうか(新井誠先生のコラムを参照)。地域の実情を踏まえた教育は、人権感覚を身につけるためだけでなく、人権・憲法問題を「自分のこと」として主体的に考え、行動する資質を育てるためにも、極めて大切な視点であるように思います。
 ここで、地域の実情を踏まえた個別的な視点から人権・憲法問題にアプローチするにあたって参考になるのが、最近私も編者の一人に加えていただいて出版された新井誠・小谷順子・横大道聡編著『地域に学ぶ憲法演習』(日本評論社、2011年))です。この本では、憲法問題・人権問題を「普遍的な視点と個別的な視点を往復」させながら考えるということの具体的実践が鮮やかに示されています。同書のはしがきに、「大学での講義や演習での利用だけでなく、憲法に興味のある市民や、法教育や地方分権に関心のある方にも本書を手にとっていただければ幸甚である」と書きましたが、実はそこには、憲法・人権教育の教材や参考書としても本書を活用してもらえたら、という編者一同の強い思いが込められているのです。

 
【横大道聡(よこだいどう さとし)さんのプロフィール】

1979年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。現在、鹿児島大学教育学部准教授。博士(法学)。共著に『表現の自由T――状況へ』(尚学社、2011年)、『アメリカ憲法の群像――理論家編』(尚学社、2010年)、論文に「アメリカの『テロとの戦争』とOLCの役割」法学論集45巻2号(2011年)など。