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映画『"記憶"と生きる』第一部 分かち合いの家 第二部 姜徳景


花崎哲さん(「憲法を考える映画の会」)
                                                           


©安世鴻

 慰安婦問題というと、日本が謝罪しなければならないのは当然のことで、それをなかったことにしようとしているかのような日本政府の態度に腹を立ててきました。。
 でも私の気持ちを正直に言えば「慰安婦問題」は苦手であって、その問題の本質から無意識に目をそらそうとしている自分に気づきました。
 今回この映画を見て、そうした自分の中にある「慰安婦問題」についての認識と意識をまず考えさせられました。

 この映画は、1994年から1997年にかけて、元日本軍の従軍慰安婦だった女性たちに話を聞いたものを2015年に完成させたものです。
 当時ソウル市内にあった「ナヌムの家」で共同生活をしている元従軍慰安婦5人に話を聞いた「第一部」(124分)と、女子挺身隊から慰安婦にさせられた姜徳景(カン・トクギョン)さんのお話をまとめた「第二部」(91分)の2部構成になっています。
 土井敏邦監督の映画は,他の映画でもそうですが、できるだけ話の途中で切り取る「編集」はしないようにしている、と見受けられます。
 話を切り取って、都合良くわかりやすく情報をメッセージにすることよりも、その話している姿、口ぶり、表情に至るものまで見る者は凝視し、「この人がこの話をしている」というその場の空気、「その内容をこの人が話す」に至った経緯までも感じ、考えさせようとしているからでしょうか。今回の映画でそのことはとても重要です。
 土井監督の映画は、映像を通して想像すること、特に人を国というマスで描かないで人としてとらえようとしています。自分がその当事者だったらどうか、たとえば自分の妹がそうした目に遭ったら、と想像してどう思うか、考えながら映画を見ることを求めています。

 日本人である土井監督が「ナヌムの家」を訪ねた時に、最初は元慰安婦の彼女たちから拒否された、嫌われたと言います。
 元慰安婦の人たちは、一様に過去の話は思い出したくない、話したくないと言います。元慰安婦の人たちが自分の過去を告白したこと自体たいへんなことでした。
 人生も終わりに近づいて、自分が生きてきた過去を振り返ったとき、何でそのような運命だったのか、それを思い出すのも苦しすぎることです。
 でもそれでも敢えて、告白せざるを得なかったところに彼女らの苦しみと怒りがあります。
 それは日本政府がそして日本人の多くがそうした過去の加害責任を明らかにせず、直接的には「慰安婦問題などなかった」ことだとしていることに対しての怒りです。映画の後半、彼女たちが描いた絵の中にそれが描き込まれています。

 私はこのお話を聞くことが日本人の手によって行われていてよかったと思います。
 彼女たちが、日本人の取材者に対して自分たちの過去の真実をどう語ろうとしたのか、日本人に考えさせる映画として出来て良かったと思います。
 しかしながら取材した当時から20年たって、はるかに後退した政治状況の中でこの映画を見なければならないことを残念に思います。

 映画に登場して話をしてくれた元慰安婦の方はほとんどの方がすでに亡くなってしまっています。ところがこの20年間、日本人の多くが、ますます過去の加害責任に対して目をつぶろうとしているばかりか、政府と一部のマスメディアは、それを問題にしようとする人たちに対しても圧力を加え、つぶそうとしてきました。

 2015年年末、欺瞞に満ちた日韓両政府の合意によって「慰安婦問題は解決した」とされました。謝罪されるべき当事者の彼女たちには話や相談することもなく、政府間の政治問題として決着を図ろうとしています。
 決着を図るとは、終わりにするということです。私たちはいま、政府がなぜ決着を図ろうとしたのかを見きわめなければなりません。そこあるのは「この問題を後世に遺すな」「もう終わりにしたことだ」「10億円出したのだから」という「後は金目でしょ」と言わんばかりの傲慢さです。
 まともに加害責任を考え、謝罪していこうとする気持ちがなく,それこそ後の世代にこうした過去の過ちを伝えていこう、繰り返してはならないという気持ちは全くありません。むしろもう一度、戦争で儲けるようにしたいので、とりあえず文句を言っているところに、金で済ませてしまおうといわんばかりです。

 映画の元慰安婦の方たちの話を聞いて、彼女たちが求めているのは、自分たちの人生を踏みにじって取り返しの付かない苦しみを与え続けてきた日本政府に対し、きちんと謝罪して、かつそのようなことが二度と起こさないようにずっと語り伝えていって欲しいということだったと思います。
 だからこそ、彼女たちは敢えて苦しい思いをして告白をし、つらくて言いたくないことを話し、それを後世の韓国人にも、日本人にも、あるいは世界中の人に伝え残そうとしたのだと思います。

 ちょうど1995年の1月17日、阪神淡路大震災のニュースがテレビで報じられて、それをナヌムの家の人たちがみんなでその画面を食い入るように見ている場面があります。
 「ほんとうに早く復興できるといいけど…」心底、被災者を気遣っている気持ちが伝わるその言葉にもうとっくに彼女たちは日本人を許しているのだという気持ちが伝わってきました。
 その準備すらできていないのは,日本政府とそうした政府のやっていることを「知らないこと」と放置している多くの日本人です。

 私たちが自分たちの問題として、人として考えることを求められる映画です。

【公式サイト】
http://www.doi-toshikuni.net/j/kioku/

【予告編】
https://www.youtube.com/watch?v=B9PrtJ4EgDw

【映画情報】

『"記憶"と生きる』第一部 分かち合いの家 (124分)? 第二部 姜徳景 (91分)

監督・撮影・編集:土井 敏邦
編集協力:森内 康博
整音:藤口 諒太
写真:安世鴻
配給:きろくびと(info@kiroku-bito.com)
2015年 日本映画 ドキュメンタリー 215分(124分 + 91分)

【上映予定】
2016年3月26日(土)16:10横浜・大岡山記念館
2016年4月19日(火)20日(水)20:45東京・下高井戸シネマ
2016年4月23日(土)12:50東京田町交通ビル
各地での上映予定などは、公式サイトで確認してください。


 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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