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映画『それでも僕は帰る 〜シリア 若者たちが求め続けたふるさと〜』(原題:Return to Homs)


花崎哲さん(「憲法を考える映画の会」)
                                                           

 民主化のデモの先頭に立つバセットがすこぶる格好いい。カリスマ性いっぱいで確かにオーラを発しているのがわかる。彼はサッカー選手としても超一流、アジアを代表するゴールキーパーでシリアの若者なら誰でも知っている人気者だ。歌もうまい。この時19歳。
 その彼が2011年、シリア革命の首都と呼ばれるホムスの街で、「アラブの春」と言われたシリア民主化と反アサド政権のアピールをする。

 おそらく冒頭の集会の映像は、この運動の様子をインターネットを通じて世界に発信しようとして撮影されたものなのだろう。革命の映画ができるかもしれない!。バセットの友人である市民カメラマン24歳のオサマのとらえた映像からは「こんなにたくさんの人々が街を埋めた」「みんな声を合わせ、バセットのアピールに呼応している」そうした高揚感が伝わってくる。
 ふと私たちの昨年の国会前の集まり、シールズの人達のアピールをスマートフォンで撮ってfacebookに動画を流した時の高揚した気分を思い返す。「止められるかもしれない」「変えられるかもしれない」。

 しかしその後の彼らの運動は、シリア内戦の経緯が示すように悲惨の一途をたどる。
 「非暴力、平和的に」を意図した彼らの運動は、アサド政権の武力弾圧によって子どもたちを含め多くの死者を出す。軍に向かって「平和を」の紙を掲げた彼らの仲間は、その夜、死んだ。バセットの故郷であるホムスの街は破壊し尽くされる。彼らも戦わざるをえなくなって武装化していく。バセットたちは廃墟に立てこもって勝ち目のない政府軍と戦う。後半、廃墟の中でのどうにもならない戦いの映像、実際、何人もの若者が傷つき死んでいく姿が映し出される。

 私は映画を見ながら「これは、ドキュメンタリーなんだよね」と何度も確認する気持ちになった。それは「うそっぽい」と言うことではなく、あまりにも対象に肉薄してクリアに撮れすぎているように感じたからだ。どこか歴史上のヒーローを再現したリアリティのあるドラマを見ているような錯覚に陥る。ドキュメンタリーとしてはあまりに構成と編集が整然としているからだろうか。的確に捉えられた映像が、整理された編集によってきわめてわかりやすいものになり、ドラマを見ているような、身内の話を聞いているような気持ちにさせられる。今までになかった不思議な感覚だ。
 バセットがうちひしがれて、あるいは自分を奮い立たせて、気持ちを語るのも適確で「決まりすぎ」にさえ見えるくらいだ。ずっとヒーローだったバセットの自身を表現するタレント性の高さなのか、極限の状態の中でこそ、作り物でない真実を吐露しているからなのだろうか。
 何より、戦闘場面も含め、その対象との近さ、その場で直に撮っているということ、撮り続けていることがすごい。目の前で仲間が銃弾に倒れても、それでもカメラで撮り続ける。武器をカメラにした戦いの当事者そのもの、戦士であるということか。そうした危険を冒してでもこの惨状を世界に伝えなければならないという使命感がそうさせるのか。ジャーナリストのように人のために撮っているのではない、自分のために撮影し、戦っているということなのか。

 一方において廃墟の拠点の中で冗談を言い合ったり、じゃれあったりする様子はいかにも若者らしい。若者はどこでも同じだな、とうれしくなる。こんな情況の中でも、自由な若者の本質、「日常」の姿をとらえたところも、身内のカメラのなせるものなのだろう。
 ホムスを脱出して、姉の子ども達と遊んだり、家族とのひとときに見せるバセットの安らぎの姿に、まるで身内としての気持ちが乗り移って彼を見ている気がする。「このままここにいればいいのではないか」「戦いの場に好んで帰ることなんかない、死んじゃいけないよ」
 彼らだけではない、シリア軍兵士も含めて多くの若者がこうして戦って命を奪われていく、どうして若者同士殺し合いをさせるんだ、という怒りがわき起こって来る。(それは、訳のわからない戦地に向かわされ、殺し合いをさせられる自衛隊の隊員にだって同じことが言えはしないか)
 
 シリア、イラク、パレスチナ、国をマスの単位でとらえて「あれは難しい問題だ」と目をそらし、私たちには関係ないことと考えることを止めてしまっている。
 でも、バセットや若者達のような個人を映像を通して知り、その息づかいを感じると、もし、身内が、家族が、ごく親しい知り合いが、今そこにいて、果てしない戦いの中にあって、絶望にうちひしがれているとしたらどうだろうと、想像できるようになる。

 「バセットは今どこにいるのでしょうか?」この映画を最後まで見た人は誰でもそう心配するだろう。半分「良くない知らせなら聞きたくない」と言う気持ちも持ちながら。
 そうした質問が多かったからか、ホームページにはプロデューサーのオルワさんによる回答が寄せられている。http://unitedpeople.jp/homs/faq
 しかしそれは2014年4月のものである。その後シリアの内戦はさらに悲惨なものになり、そこにアメリカやロシアの空爆まで加わって、文字通りの泥沼が広がっている。
バセットやオサマはどうしているだろうか?彼はまだ24歳のはずである。

【予告編】
https://www.youtube.com/watch?v=AAqw-IuL3Ys

【映画紹介】
http://unitedpeople.jp/archives/1095

【上映予定】
市民上映会

3月21日(祝)13:30 日野生活保健センター 問合せ042-582-3821
4月03日(日)14:15 昭島市松原町コミュニティセンター 
問合せnishitamasocial@gmail.com
* 自主上映の貸し出し料金は1日ライセンス最低保障料金30,000円(税別)
* 正し動員人数かける500円(税別)が最低保障料金を上回る場合は動員人数かける500円(税別)
* なお3月29日にワールドカップ予選、日本vsシリア戦が行われるのに合わせて、『それでも僕は帰る』の最低保障料金1万円引きのワールドカップキャンペーンを実施!◎最低保障料金20,000円(税別)「この機会にぜひ本作を上映しませんか?」と配給元のユナイテッドピープル

【DVD販売】
3月15日、DVD販売決定
http://unitedpeople.jp/homs/dvd
個人鑑賞版4000円(送料350円)
教育機関向け30,000円(送料350円)近くの図書館に買ってもらうのもこの映画を見る方法のひとつです。

【映画情報】
映画『それでも僕は帰る ? シリア 若者たちが求め続けたふるさと』
原題:Return to Homs
監督:タラール・デルキ
プロデューサー:オルワ・ニーラビーア、
ハンス・ロバート・アイゼンハウアー
編集:アンネ・ファビニ
国際共同制作: シリア、ドイツ/2013年/87分,52分/アラビア語/ドキュメンタリー
配給:ユナイテッドピープル

サンダンス映画祭 2014 ワールドシネマ ドキュメンタリー部門 グランプリ
ニューディレクターズ/ニューフィルムズ映画祭 2014 オフィシャルセレクション
カナダ国際ドキュメンタリー映画際 2014 オフィシャルセレクション
バルセロナ国際ドキュメンタリー映画祭 2014 ベストドキュメンタリー賞
ジュネーブ国際人権映画祭 2014 グランプリ
シェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭 2014 オフィシャルセレクション
サンフランシスコ国際映画祭 審査員特別賞
パリ国際人権映画祭 2014 グランプリ
マドリードドキュメンタリー映画祭 2014 観客賞
クラクフ映画祭 2014 シルバーホーン賞
アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭(IDFA)2013 オープニング作品
ヒューマン・ライツ・ウォッチ映画祭 2014 ネストール・アルメンドロス賞
Middle East Now 映画祭 2014 観客賞
Doxa ドキュメンタリー映画祭 2014 オフィシャルセレクション
フルフレーム・ドキュメンタリー映画祭 チャールズ・グッゲンハイム 新進アーティスト賞


 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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