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映画『Good Night, and Good Luck』


志田陽子さん(武蔵野美術大学教授)
                                                           

 2016年3月、いくつかの報道番組が終了ないしキャスター交代となるこの時期に、ぜひ見ておきたい映画がある。
 「Good Night, and Good Luck.」は、伝説のジャーナリストと言われるエド・マローの報道番組「See It Now」終了の経緯を描いた作品である。

 1958年10月、華やかなパーティー衣装をまとった男女に囲まれ、ダイアン・リーヴスのジャズ・ボーカルにエスコートされて、パーティーの主役、エド・マローが演壇に登る。
 「今のテレビ・ラジオ業界に何が起きているかを率直にお話したい。責任は私一人にあります。」
 マローが語り始める。

 マローたちを巻き込む状況は、1953年ごろからはっきりしてきた。マッカーシーの時代、反共産主義の潮流がマスメディア界にも「レッド・パージ」(赤狩り)の形となって及んできたのだった。テレビ局のオフィスでは、局員たちが「忠誠の誓い」の話題に揺れている。マローのスタッフたちも例外ではない。政府筋から「危険人物」とされた人物へのインタビューを敢行したマローたちに、「中立な素材(中立報道)とはいえない」との苦情が舞い込む。

 場面転換に織り込まれるCMや他愛のない芸能人インタビュー。これらが当時の世相を教えてくれる。テレビ局のオーナーが気を使うのはスポンサーである。そのために、当たり障りのない楽しげな話題を扱うことが望まれる。その中でマローたちは、マッカーシーが主導する反米活動調査委員会の議会聴聞を番組内で取り上げる。
 マローのコメントがオンエアされる。
 「立法のためには調査が必要です。しかし調査と告発との間には相当の違いがあります。告発はそれ自体では証拠ではありません。有罪の判断は、法の適正手続にしたがってなされるものです。私たちが自国の自由を捨ててしまっては、他国に対して自由を守ることはできません。」

 この日からマローたちは、政府関係者や新聞メディアからの名指しでの批判を受けることとなる。スポンサーはオーナーに苦情を申し入れ、マローを評価しかばってきたオーナーも頭を抱える…。

 これと同時期、ハリウッド映画業界もレッド・パージによって体質が急激に変わりつつあった。国民に対して影響力を持つテレビニュースと映画が政府の猜疑的関心の対象となったのだった。反米調査委員会に「危険人物」としてマークされた人物は、次々に仕事を失い、それを怖れる人々は進んで政府の意向に合せるように気を使い、互いに監視しあうようになっていったのである。映画産業界での事情を描いた映画には、1991年の「真実の瞬間」(Guilty By Suspicion)や1993年の「チャーリー」(Chaplin)があり、1973年の「追憶」(The Way We Were)にも控えめながら、この事情が描かれる。

 これらの映画で描かれている社会背景と、「Good Night, and Good Luck.」で描かれている報道メディアでの出来事とは、同じ線上にある現象である。この時期、アメリカ社会は、数人の議員や政府要人の常軌を逸した《危険分子への不安》にたいして距離をとることができず、彼らの気分がそのまま時代の気分を作り上げてしまった。その後遺症は、長くアメリカ社会に残ることになる。

 日本の放送法では、第4条で放送内容は「政治的に公平であること」が明記されている。そして昨年(2015年)、いくつかの重要な報道番組がこのルールに照らして問題視され、与党関係者から注意を受けるなどの措置がとられた(新聞報道についても政府関係者が集まる勉強会で名指しでの批判発言があるなど、政府のメディアに対する関心が大きな影響をもつこととなった)。日本の放送法のこの部分は、かつてアメリカの放送にあった「公平原則」(Fairness Doctrine)に倣ったものだが、先に見たような出来事を経験したアメリカではその後、「公正原則」は「萎縮効果」をもたらし、放送事業者の自由な放送を妨げる、との認識が広まり、1987年にはこの原則は廃止されている。
 この経緯を、日本は、学ぶべきではないだろうか。

 映画「Good Night, and Good Luck.」の中で、マローは言う。
 「我々はテレビの現状を見極めるべきです。人を欺き、笑わせ、現実を隠しているという現状を。それに気づかなければ、スポンサーも視聴者も制作者も、後悔することになるでしょう…」
 この映画によって再現されたマローのスピーチは、2016年、私たち自身への警鐘と激励として響いてくる。

 この数か月、何人かのジャーナリストがこの映画のタイトルを口にした。それは、1953年から1958年までを描いたこのモノクロ映画が、あまりにも日本の2015年から2016年に重なるからである。どのくらい重なっているのか。ぜひ、この映画を見てほしいと思う。

監督 ジョージ・クルーニー
脚本 ジョージ・クルーニー、グラント・ヘスロヴ
製作 グラント・ヘスロヴ
製作総指揮 マーク・バダン、スティーブン・ソダーバーグ
出演者 デヴィッド・ストラザーン、ジョージ・クルーニーほか
製作国 アメリカ
2005年公開


 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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