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映画『カタロゥガン!ロラたちに正義を!』


花崎哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 カタロゥガンは「正義」、ロラは「おばあさん」という意味です。フィリピン人、元「慰安婦」の闘いを追ったドキュメンタリーです。2011年に完成しました。

 太平洋戦争当時、フィリピンはアメリカの植民地だったため、日本軍が侵攻してくると、フィリピンの人々は各地で抵抗運動を展開しました。日本軍はそれらをゲリラの蜂起と見なし激しい弾圧を加えました。
 女性たちも、日本の軍政に反発して立ち上がりました。そうした中、若い女性たちがとらえられ、「慰安婦」にされたり、ゲリラへの報復として集団レイプをうけるなど、日本軍による激しい性暴力の嵐が吹き荒れました。

 1990年代に入り、被害に遭った女性たちは、長い沈黙を破って日本政府相手に謝罪と補償を求める闘いを開始しました。日本政府はアジア女性基金というチャリティー・マネーで責任を回避し、今も問題は解決していません。
 女性たちは80歳を過ぎた今も街頭デモに参加し、闘い続けています。そうしたロラたちの闘いの姿をマニラ首都部、ルソン島マパニケ村、レイテ島の山間部に追ったものです。

 これまで、日中戦争、太平洋戦争中の日本軍による慰安婦、あるいは「性奴隷」とされた人に話を聞く映画をいくつか見てきました。
 「戦場の女たち」(1989年・関口典子監督)、「ガイサンシーとその姉妹たち」(2007年・班忠義監督)、「記憶と生きる」(2015年・土井敏邦監督)といった映画です。
 「太陽がほしい」(2015年・班忠義監督)はまだ見ていません。
 この「カタロゥガン!ロラたちに正義を!」(2011年・竹見智恵子監督)もそうした中の作品です。朝鮮半島や中国の「慰安婦問題」とは違って、フィリピンあるいは東南アジアで、どのようなことがあったかについてほとんど知らないでいました。

 これまで見てきたそれぞれの作品で、同じように、「元慰安婦に話を聞く」という形をしていても、制作者が日本人であるか、中国人であるかによって、また女性であるか、男性であるかによっても、その制作の姿勢は違ってきますし、観客の受け止め方も違うのではないかということに気づきました。
 特に映画の作り手が女性である場合、当然この問題について被害者の視点から描いていくことになります。いっぽう男性である私は、加害者の視点からこの映画を見て考えていくようになって、ずっと自分自身が責められているような気持ちでこのような映画を見ていきました。
 どうしてそのような気持ちになるのか考えました。
 この映画では、ゲリラ掃討を指揮し、捕虜やその家族を殺害するように命じ、また実際に日本の兵士に「慰安婦」をあてがっていた立場の男性・熊井さんに話を聞くところがあります。
 彼が、自分のやったことに対して苦しみ、悔恨の気持ちでいることは描かれているのですが、おそらく彼の言っていることは頭でわかっても、女性の観客たちは納得できないだろうなと思ってしまいます。
 苦しんだのならば、その間違いをどうしてそれを正そうとしないのか、苦しんだり悩んだりしたこと自体、言い訳に過ぎないのではないかと思ってしまうのです。
 「戦争だから仕方なかったんだ」という気持ちでいることが感じられてしまいます。
 監督の竹見さんも「熊井さん(取材した元日本兵)の価値観はそう簡単には変わらず、今でも戦争中の日本兵のままです」と言っています。(映画の添付資料)

 しかしながら男性である私は、「もし兵隊として戦争に行ったら、兵士たちがやったような女性たちの意思を無視した犯罪的な行為をあなた自身も犯さないと言えるか」と問われ、70数年前の軍隊の中での状況に自分を置いたら、自信はないと思ってしまうのです。
 軍隊の中で制裁を受けたり、同じことをしなければ仲間はずれにされるばかりでなく、抵抗したことが軍法会議で裁かれるとするならば、「戦争なのだから」と都合良く自分に言い聞かせて、同じような行為をしてしまうかもしれないと怖くなるのです。
 それはたとえば「度胸試し」だと言われて、捕虜を銃剣で刺せと言われた場合でも、それを拒むことができない自分を感じるからです。そんな想像しかできないのです。
 だから臆病者の私は、そんな自信のもてない自分が同じような過ちを繰り返さないためには、兵士として戦争に行かないようにしなければならない、いや戦争や軍隊自体を認めたくないと思い続けてきました。
 戦争で、自分が死ぬことを前提とすれば、何をやってもいい、なんて考えは通らなくしたい。軍隊という存在、組織自体を悪としたいのです。

 私自身が戦争に出征して、人を殺すということは年齢から考えても、無くなったようです。しかし子どものこと、孫の代のことを考えると今この国は、良くない方向に向いていると感じます。
 何より戦争をする国、戦争をできる国にしてしまったことで、その準備は着々と進められ、日本国憲法がめざした個人が尊重される国はどんどん壊されつつあります。人を信用しない猜疑心に満ちた社会になろうとしています。
 そうなってしまったのは、やはり日本人の中で戦争をきちんと清算してこなかった、戦争の何が悪いのか、自分たちがどんなに悪いことをやってきたのかをきちんと向き合ってこなかったからだと思います。
 「慰安婦問題」もきちんと解決してこなかったと言う問題がそこにあります。

 この映画もまたいろいろなことを考えさせてくれる映画です。考えなければならない映画です。
 上映会の会場を見渡したら、たまたまなのか、主催団体に女性が多かったせいか、女:男の比率が7:3くらいに見受けられました。男性は進んで見たがらない映画だと思いました。(もちろん私と同様、来ていた男性は、「見なければならない」と強く思って見に来ていた人たちだと思います)

 だからこそ、映画を見終わった後、男性、女性とも映画を見て考えたことを率直に出し合って、それぞれ、話すことに耳を傾けてみると、やはり自分の立場とは違った感想や印象やとらえ方の違いがわかってきて、この映画をさらに深めることになると思いました。それぞれの気持ちの中にある戦争と戦後をはっきりとさせることが、同じような悲惨なことを繰り返さない力になるのではないか、と思いました。

【映画情報】
監督:竹見智恵子 
撮影・編集:中井信介
音楽:アリソン・オパオン&SOSO
企画・制作:ロラネット
2011年 日本映画 ドキュメンタリー 80分
【上映申し込み・問合せ】
フィリピン元「慰安婦」支援ネット・三多摩(ロラネット)
〒181-0014 三鷹市野崎3−22−16 ピナット気付
Tel:0422-34-5498 Fax:0422-32-9372
E-mail: hachinoko@ba2.so-net.ne.jp


 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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