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映画『帰ってきたヒトラー』(原題: Er ist wieder da)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 たしかに私の頭の中にあるヒトラーの"イメージ"とそっくりでした。映画を見ていくに従って、きっとほんとうはこういう人だったのかもしれないなどと思ってきます。ほんとうは小男だったと言いますから、少し威厳がありすぎかなとも思ったりしますが。

 ヒトラーのイメージというと、その巧みな演説で不満に満ちた人々の心をとらえ、あの悲惨な戦争やユダヤ人虐殺に巻き込んだ張本人、残忍、極悪非道、そして実は短気で気弱なコンプレックスの強い人物だったとか、演説はうまかったけどいわばそれはテクニックだけで、中身は野心しかなかったとか、映画や評論などを通してそんなところまでイメージはできあがってしまっています。
 これほどテンプレートされ、カリカチュア(戯画)化されて多くの人にワンパターンのイメージを持たれた歴史上の人物もいないのではないかと思います。再び同じような人物が現れて、人々を扇動して誤った歴史を繰り返してはいけないという反省の上に作られたイメージでもあるのでしょう。帰ってきてはいけない人物なのです。
 それでもこの映画を見ていくうちに、一時代、あれだけの人々の歓心を集めた人なのだから、そうしたものを呼び起こすきっと何か魅力があったに違いないと思ったりします。彼の言っていることが排他的、差別主義で70年前と全然変わっていないにもかかわらず、彼の言うことは一理ある、と思い、人間としてのある種の親しみを感じてしまうのです。巧みな演技と演出のなせる技でしょう。

 もちろん映画の作り手は,そのようなヒトラーのほんとうの人物像を描こうとしているのではありません。とてもよく調べてはありますが、正確にリアルに描こうと思っているわけでもありません。むしろ描こうとしているのは,今のドイツの人々の姿の方ではないでしょうか。 現代のドイツのベルリンの町の中に突然現れたヒトラーという「鏡」を置いて、そこに映し出される自分たちを見つめるというところに、そのねらいがあるような気がします。

(あらすじ)
 1945年4月30日に自殺したアドルフ・ヒトラーは、ベルリンの空き地で目を覚ます。ヒトラーは情報を得るために立ち寄ったキオスクで、自分がいる時代が2011年あることに気付き衝撃を受け、空腹と疲労でその場に倒れ込んでしまう。
 キオスクの主人は、ヒトラーを見て「ヒトラーそっくりの役者かコメディアン」だと思い込み、ヒトラーをテレビ番組制作会社のザヴァツキに紹介する。二人でドイツ中を巡り、人々の反応を見る。人々はヒトラーに無邪気に手を振り、ツーショットの写真を撮り、また移民への不快感を語った。映像はYou Tubeで大好評になり、ヒトラーはトーク番組への出演の機会を得「人気」を得る。

 映画の中で、ヒトラー本人(!)も言っています。「1933年当時、大衆が扇動されたわけではない。大衆は計画を明示したものを指導者に選んだ。私を選んだのだ」と。たしかにヒトラーは自分の思ったことを話している。人々が望んでいること、あるいは不満に思っていることを捉えて、ごく正直に、しかし露骨で直接的な言葉にすることで、人々は引き込まれ、熱狂するのだということがわかります。長い間人々が言ってはいけないとされてきたことを言うことで人々に受け、喜ばれるのです。それはまさに今の私たちの話なのだということがじわじわと感じられてきます。

 映画はお話として作られた部分と、ヒトラーを実際に街の中を歩かせて、人々の中に入れたときに、人々がどのような反応を示すかを見るかのようにドキュメンタリー風に描く部分とを交互に描いていきます。いわばヒトラーの人気を確認するモニタリングのようです。戸惑いの表情を見せる人もいますが、多くは笑い、おもしろがります。それらは今のドイツの人々が政治や経済的な状況に対して、どのような思いを抱いているか、その心情を映し出しているようにも思えます。

 ドイツでは戦争とナチズムへの反省から、とくに多大な被害を与えた周辺の国々に対して、二度と同じことを繰り返さないという誓いのもと戦争の歴史と責任を子どもたちに徹底して教育して伝えていると聞いていました。しかしそうした「歴史教育に子どもたちはもう飽きている」と映画の中で語られます。それも大衆や若い世代の本音の意識かもしれないと思えるのです。

 今のポピュリズム、あるいはヘイトスピーチなどに表れる差別主義、まじめに考えて社会を変えていこうというより「受ける」ものが良いのだ、面白ければよし、今の不満を何とかしさえすればいいという風潮、それらは今私たちが当面している問題です。そしてそれらはドイツでも、アメリカでも、イギリスでもそのほか多くの国のごく普通の人々、普通の若者の間で同じであることをこの映画は感じさせます。

 それはかつて私たちが上映会をしたナチズムの台頭を描いた『ありふれたファシズム』の中で、「人々の心の中にファシズムはある」「人々が考えることを停止したときにファシズムは始まる」という言葉に通じるものがあります。今、私たちは世界的にそうした状況に近いところに私たちの精神を置いているようです。    
 とても緻密に作り上げられている,そしていろいろなことを今の自分に対して考えさせてくれるすぐれた映画です。

オフィシャルサイト

予告編:https://www.youtube.com/watch?v=I4a5XgNT6vQ

【映画情報】

監督   デヴィッド・ベント
製作  クリストフ・ムーラー
   ラース・ディートリヒ
製作総指揮 オリバー・ベルビン
   マーティン・モスコウィック
出演
オリバー・マスッチ、ファビアン・ブッシュ、クリストフ・マリア・ヘルプスト、カーチャ・リーマン、フランツィシカ・ウルフ

製作年 :2015年
製作国 :ドイツ
配給: ギャガ
上映時間:116分


 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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