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映画『太陽の蓋』


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 「まだ何も終わってないんですよ… あの時日本中でテレビを見てた人たち、いまはどう思ってるんですかね」映画のラスト近くで、福島第一原発で働く青年がこう叫びます。
 たしかにあの時、私も原発から上がる水素爆発の煙をテレビの画面で見ていました。映画の冒頭に出てくる街中の雨傘のシーンを見ると、「あの日、出歩いて子どもを放射能の雨にさらしてしまった」と後になって悔やんでいた親の話し声がよみがえってきます。

【映画の概要】
 福島原発事故から5年。関係者による著書、さまざまな報道番組やドキュメンタリー、調書の公開など…当時の状況が解明されたかのように見えつつ、人々の記憶は早くも風化され真相が明らかにされることなく原発事故問題の幕が引かれようとしている。
 本作品では数多くの報告書や資料の分析をすると共に、事故対応当事者であった政治家や現役新聞記者、被災地である福島での直接取材を敢行。5年という年月が経ったいまだからこそ伝えられる、「あの日」をセンセーショナルにあぶり出す。
(映画『太陽の蓋』案内チラシから)
 
 この映画は、東日本大震災が起きた3月11日から5日間、原発事故の真相を追う新聞記者を中心にして、主に首相官邸の中でどの様なことがあったかを、当時の政治家の実名のままで描いた"ドラマ"です。
 私ははじめ、アメリカ映画などによくある政治の内幕を暴く実録ドラマなのかな、と思いました。一見そうした作りになっていて、それはそれで緊迫感があり、演技も熱が入っていて、リアルでなかなかうまく作られています。
 しかし、映画を見ていくと、どうしてもそうした自分の知らない世界を知る面白さを楽しむではすまされないものを感じ始めてきます。とくに枝野官房長官の記者会見のシーンなどでは「あああの時そうだったなあ」「見てた!見てた!」とうなずく場面があって、現場の裏側はきっとこうだったんだろうなと引き込まれていきます。と同時に「その時自分は、こうしたテレビ画面を見てどんなことを感じ、考えたのだろう」と思い返すことになりました。

 あのとき私は、政府の記者会見を「ほんとうのことは言っていないのだろうな」という気持ちで見ていました。
 それは彼ら政治家の言うことに不信感を持っていたというより、それまでの原発報道や根拠のない安全神話を振りまいていた電力会社の原発広報に不信感を持っていたこと、彼らは国民に危険が及ぼうとも、自分たちに不都合なことを言うはずがない」と思っていたからです。
 菅首相が事故後、すぐに福島の現場に飛んだことについて、その直後から「総理は行くべきでなかった」「現場を混乱させた」という批判が相次いで報道されたことにも違和感がありました。そんな批判よりもっと知らせるべきことがもっとあるように思ったからです。「菅さんが来てはもらっては困る」「明らかにされてはまずい」とする力が働いていたように感じたことは覚えています。
 後になって、東電や現場からは、官邸に情報が上がって来なかったこと、そうした東電の隠蔽体質が混乱の大きな原因になったことが少しずつ明らかにされていきます。それがこの映画でも描かれていますし、描こうとしているところかと思います。

 こうして混乱が不安を呼び、それが原発反対、再稼働反対の大きな力になっていくのですが、その後、政権が変わり、被災者を放置したまま、原発の危険の本質的な問題は何もあらためられないまま、政府は再び原発再稼働の道を進んでいくことになります。
 東電の隠蔽体質は何もあらためられないまま、さらにそれを増長させていきます。その上、秘密保護法をはじめ、都合の悪いことは隠す、国民に知らせないという動きが制度的にも進められていきます。
 そしてそのことを知っていても何も言わない、何も問題にしない状況が続いています。それはなぜでしょうか?

 映画を見てあのときのことをもう一度思い返しました。原発の水素爆発の場面を見て、驚いてしまって、一方においてできるだけ自分に都合の良い、楽観的な方に考えることを選んでいたような気がします。どうせ情報は全部信じられないとシャットダウンして思考を止めてしまっていたのではないかと思うのです。そうした無力感が、意識を閉めてしまって、多くの人が問題はあると思いながらも動かない、それを解決しようとしないことが今も続いているのではないかと思います。
 
 あのとき、原発の問題は国民のすべての問題であり、国民が当事者でした。当事者として考え、解決しなければならない問題を投げ出してしまっているのではないか、それを一人一人に問いかけてくる映画です。自分が今までいい加減にしてきたことにどう対処していくのか、今どう思っているのか、これからどう対していくのか、問いかけてくる映画です。

【公式ホームページ】http://taiyounofuta.com/
【予告編】https://www.youtube.com/watch?v=b4F5GePHjNE
【スタッフ】
製作:橘 民義
プロデューサー:大塚 馨
監督:佐藤 太 
音楽:ミッキー吉野
脚本:長谷川 隆
【キャスト】
・北村有起哉(鍋島)
・袴田吉彦(坂下)
・中村ゆり(麻奈美)
・郭智博(修一)
・大西信満(山中
・神尾佑(福山哲郎)
・青山草太(寺田学)
・菅原大吉(枝野幸男)
・三田村邦彦(菅直人)
2016年/日本/130分

【これからの上映】
ユーロスペース(東京都|渋谷区)7月16日公開
イオンシネマ板橋(東京都|板橋区)8月6日公開
シネマ・ジャック&ベティ(神奈川県|横浜市中区)近日公開予定
千葉劇場(千葉|千葉市中央区)7月16日公開
シネ・ヌーヴォ(大阪府|大阪市西区)8月13日公開
他、全国公開



 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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