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映画『五島のトラさん』


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 五島列島で、うどんの製麺業を営む犬塚虎夫さん夫婦と7人の子どもたちを、22年間という長きにわたって撮り続けたドキュメンタリーです。
 22年間、家庭の歩みの節目というか、それぞれの家族の転機に、よくもその場に居合わせたもんだと思うほど、カメラがその時々の会話をとらえていることにまず驚きました。

 子どもが多いということはありますが、ごく普通の平凡な家族のはずです。でも映画を見ていくに従って、いまの自分たちの親子関係や家族関係に照らし合わせて見ていくことになり、とても普通でないと感じられてきます。そこに、いまの私たち自身の生活や暮らし方をあらためて見直させるものがあるのです。
 そこには自分の子どもの頃、かつての田舎で、親元で暮らしていたときのことを思い出し、友達の家族のことなど思い当たる節がいろいろあることに気づきます。親子の関係、大家族であること、家族総出で仕事をすること、子どもも家事以外に働かなければならなかったこと…。

 子どもたちは毎朝交代で5時に起き、学校へ行く前にうどん作りの手伝いをするのが日課です。「学校で教わらないことを、家の手伝いから学ぶことができる」が持論のトラさん。金を稼ぐということの意味を学んだり、責任感を持たせる勉強になっていると語ります。
 映画の中で描かれているトラさんのこだわりは、なにより「家族とともにこの島で生きていく」ということです。おそらくそのことに自信があったわけでも、ビジョンが明確だったわけでもないでしょう。迷いや不安もいろいろあったことと思います。懸命に生き、どうやったら家族とともに仕事をしながらやっていけるか、製麺業の他に、製塩業という新しい事業を手がけてみようとするなど、自分で何とかやっていこうとするところに、おこがましいことですが何か、いじらしいという感じさえ受けます。そしてすぐ、自分はああいう風には精いっぱいやっていないな、と気づかされるのです。

 何事にも正面から力一杯取り組む、その格闘はひとりひとりの家族に対しても向けられます。映画はその辺りにぶつかりと機微をほんとうに家族とともに行動しているかのようにとらえています。子どもたちはそうした親に従い、また次女の「はなえ」のように反発し、親元を離れようとあがき、ぶつかります。(この次女「はなえ」のエピソードが、ある意味この家族の親子の関係を鮮やかにし、その対比で、親とともに島に残った子どもたちのそれぞれの職業の選択や人生の決断をも際立たせます)そしてそれはトラさんのあがきでもあるのです。
 家父長制の典型とでも言えるようなトラさんの大家族、仕事とは何か、子どもの成長とはどういうことなのか、この22年間、社会は変わって、それでもこの家族が変わらなかったわけは何か、あるいはそれでも変わっていったことは何か、いろいろと考え、長い人生につきあうかのようなそんな映画です。

 子どもたちのきびしい上司であり、経営者であるトラさん。いまどきの物わかりの良い、何でも好きなようにさせようという父さんではありません。とても怖い親父のはずなのですが、どこか憎めないというか、いつのまにか甘えん坊のようにかわいげあるものに見えてきます。
 おそらくそのことを子どもたちもみんなわかっているんだと思います。子どもたちはそれだけ親をよく見ているのだと思います。けっして親にそうしろと言われたから従順にそのとおりにする、あるいは親にダメだと言われたからやらないというのではなく、いろいろ工夫して、何とか自分たちのやり方を通そうとしたり、またよく考えて自分の生き方について決断していったのだと思います。幼い頃からほぼ強制的にではありますが、仕事をさせられてきたからそういう自分なりの判断ができる、そんな風に見えてきます。
 そういう子どもにきちんとひとりひとり育てたのが、トラさんの子育てのいちばんの成果なのかもしれません。まさにトラさん言うところの「責任感を持たせる勉強」です。

 そしてそうした甘えん坊のトラさんを立てて、仕事に、暮らしに、子育てに、家族というコミュニティを実現させてくれているのが奥さんの力であり、人柄なのだろうと感じられてきます。家族がそれぞれによかれと思うことを精一杯に作ってきたことを感じます。
 そこに我が身の暮らし方を振り返ると共に、「フーテンの寅さん」のような人情の機微を懐かしみ、何か満ち足りた気持ちにさせてくれるものがあるのかもしれません。

【公式ホームページ】
http://www.ktn.co.jp/torasan/

【予告編】
https://www.youtube.com/watch?v=c-uc0SAN3mA

2016年 日本映画 上映時間114分長崎
監督 大浦 勝(KTNテレビ)
プロデューサー 城谷英知
撮影 井上康裕 島田総一郎 峰下正道
編集 井上康裕 VE 田渕圭太 音響効果 渡辺真衣 MA 濱田 豊
編成 増田朋和 題字 茂田 恵
ナレーション 松平 健 テーマ曲 さだまさし「案山子」
特別協賛 新上五島町、九州商船(株) 
宣伝:きろくびと
配給 テレビ長崎
8月6日よりポレポレ東中野ほか全国上映中」



 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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