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映画『第九条』


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 この映画の制作者は、憲法をどうしたいと考えて、この映画を作ったのだろうと、ずっと考えながら見てしまいました。この映画のチラシやホームページの案内などを見ると、ちょっと格好つけているのではないかと感じる若者たちの姿と「第9条の廃棄か維持かについて、若者12人が議論する話」ということはわかっても、その中身の話がどんなものであるか、内容も、画面の絵柄もさっぱり伝わって来なかったからです。(あるいはそこが宣伝のねらいなのかも知れませんが)
 もちろん、維持派と廃棄派どっち側なのか、あちら側に有利に作られているから気に入らないとか、こっち側に立って作られているからよろしいということではありません。
 作り手は、この映画を若者に見せようとして作っていることは感じられます。
 だから、若者がこの宣伝を見て、見に行ってみようと感じるのか、実際に若者が見に来ているのか…、いろいろ興味はあって「とにかく行ってみないとわからない」と出かけました。

● 憲法についての彼らの論議は、おおまかに次のように進みます。
@ 押しつけられた憲法、日本国憲法の成立過程について
A アメリカとの関係。安保条約。守ってはくれる。しかし国としての主権はない。
B 第9条があったから平和が保たれてきた。世界に平和ブランドで出て行けた。
C 日本の戦争は侵略でなかった。もし日本は戦争をしなかったら欧米の属国だった。
D 拉致問題を許したのも軍事力が弱いからなめられた。
E 世界の崇高な平和を作るための第9条だ。
 こうしたやりとりを経て、「あなたはどう思っていますか?」という問いかけが最終的な話の持って行き方になります。映画の結論はどちらでもない、と。

 演技、演出のレベルは高いと思いました。
 登場人物のキャラクター付けは、かなりステレオタイプであっても、こんな奴は、たしかにこんなことを言うだろう、とか、こうしたことを言うのはやっぱりこんな感じの若者だろうな、というところは見る人の気持ちを上手におさえられています。「若者らしい」演技・演出が、リアルでうまいということなのだろうと思いました。でもそれって「あいつの態度がきらい、だから言ってることもきらい」というのとあまり違わないのではないかとも思います。
 だからあまり発言に意外性もないし、驚きも発見もない。演技・演出はわかりやすくはありますが、あくまで演出家の頭の中にあるイメージをなぞっているようで、そこから何かがわかってくる発見ではないわけです。リアルであってもほんものではないのだから、議論をしていく中でその人自身の考えが変わっていくというような感動はない。ドキュメンタリーと違うところです。

 作劇として、めざしたのはシドニー・ルメットの『12人の怒れる男』でしょうか。密室の議論。そのこと自体のエンターテイメント性。議論の結論は問題でない。「デベート」という言葉が流行った時に、「どちらが正しいというのが問題でなくて、聴衆がどちらに賛同したかが評価される」と言われたような。
 エンターテイメントでも良いと思うのですが、問題はその掘り下げ方です。
 『12人の怒れる男』であれば、そのカタルシスは議論していくことによって、それまで偏見などによって凝り固まっていたものが少しずつ変わっていく、そうした議論することの可能性のすばらしさにありました。
 ところが、ここではそれぞれ変わりようのない若者たちが、それぞれの言いたいことを言いっぱなしで、考えの前提(歴史観?・価値観?)が違っているのだから、わからないやつにはわからない、といった論争にしか見えませんでした。少なくとも最後に持ってきた第9条の「世界平和のための崇高な理想」については、それまで誰もろくに説明してきてもいないし、最終的に聞いている人の気持ちに落ちるというようなものには深められていない。それをもってして「最後は護憲でまとまる護憲映画です」と言われてもなあ、と思ってしまいます。

 要するに、話がかみ合っていないということでしょうか。それが若者のいまの現状であり、いまのこの国の政治の現状ということなのかもしれません。昨今の国会と同じように。
 でもこれから、国を挙げて憲法が論じられることになるのであれば、この話がかみあわないという現状を何とかしなければなりません。
 
 横浜の劇場の観客は、お年寄りもいましたが、比較的若めの方、それも女性が目立っていました。憲法についての映画会を催すとどうしても年配の方が多くなります。そうしたところで「若い人は何にも知らないでいる。若い人たちにこうした会に来てもらわないと」とよく言われます。そう言われる方にこの映画を見てもらって、若者が憲法をどうとらえているのか、こうした若者たちにどう話し、どう納得してもらったらよいかを考えるのにも良い映画なのではないでしょうか?
 憲法を考える映画の会で、この映画を見て、若い人たちに憲法についてどう語りかけていくかを話し合ってみようか、とも思っています。

※ 『12人の怒れる男』(ウィキペディアより)
シネマD憲法でも、紹介しました。こちら

【映画情報】
公式ホームページ:https://dai9jo.localinfo.jp/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=xXuuGBH3c_Q

スタッフ
企画・脚本・監督:宮本正樹
エグゼクティブプロデューサー:河野正人
プロデューサー:佐伯寛之 宇都木基至
撮影:千葉史朗
録音:Keefar
編集:佐藤崇
音楽:小野川浩幸
助監督:平野勝利
スタイリスト:池田友紀
ヘアメイク:平岡美樹

キャスト
南圭介 馬場良馬 タモト清嵐 松本?也 荒牧慶彦 聡太郎       小笠原健 中村僚志 はねゆり 綱島恵理香 森レイ子 睡蓮みどり
2016年 日本映画 77分
配給:クラスター



 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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