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映画『海は燃えている イタリア最南端の小さな島』(原題:FUOCOAMMARE)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           


 地中海に浮かぶ小さな島の島民の穏やかな日常の生活が淡々と描かれる。しかし、そこは中東やアフリカからの5万人を越える難民・移民の受け入れの入り口で、難民船救助の最前線だった。
 世界的な事件が起きているそのそばで、島民の,お年寄りや子ども達の日常が何事の事件もなく続いている。彼らは祖国を離れ、海を越えてくるおびただしい数の難民たちと交差しない。つまり難民の苦難や死を島民は見ることも、悲しむこともない。お年寄りが島のラジオで難民船のニュースを聞いて「ひどい話ね」とつぶやく。
 
【映画の解説】
イタリア最南端の島ランペドゥーサ島。12歳の少年サムエレは、手作りのパチンコで遊び、海へ出る漁師、刺繍に励む老女、音楽を流すラジオDJ……島の人々はどこにでもある毎日を生きている。しかし、この島にはもうひとつの顔がある。アフリカや中東から命がけで地中海を渡る難民・移民たちの玄関口なのだ。島の生活と難民たちの悲劇は決して交わることがなく、彼らを結ぶのは、島でたったひとりの医師のみ。島の人たちを診察する傍ら、難民たちの死にも立ち会う。彼は言う「こうした人々を救うのは、すべての人間の務めだ。」やがて,左目の弱視が見つかった少年サムエレは左目の視力を上げていくために右目を隠して矯正メガネをかける。まるで、今まで見えていなかったもうひとつの目で、未知の世界を見るかのように──。(映画案内チラシより)

 難民は大変な苦難を経て,文字通り生死をかけて海を漂い、この地に来るのだが、映画は彼ら自身をあまり深く追うことはしない。彼らはここを通り過ぎるだけの通過点だからだ。だから難民のひとりひとりが、何を考え、何をめざして海を渡ろうとしたのか語られない。
 ただ保護された若者のひとりが歌うラップの文言の中に、彼らの今までの困難と死ぬかもしれないのに、なぜ命をかけて海を越えるのか、生きることに可能性にかけた彼らの希望が凝縮されている。

 彼ら難民を救助する海軍の難民救助隊員の気持ちもあえて描かれていない。救助船の活動はひたすら無感覚に描かれている。
 しかし,救助を終えて,あるいは救助できなかったことを思って、デッキに立ちすくんで海を見ている隊員たちの後ろ姿を捉えた長いカットは,何より隊員たちの心の内を雄弁に描ききっている。ドキュメンタリーの作り手の気持ちでもあるのだろう。

 映画はある意味、画面を見ている者に映像をゆったりと投げ出して、作為をほとんどしてないように感じる。とくに島民の生活を描いているところ。しかしその構成や表現は実は細やかな計算がされていることに、だんだん気がついてくる。
 たとえば救助隊の無線係が難民船に問いかけて繰り返す「現在位置は?(あなたは今どこにいるのですか?)」。難民と救助側の位置関係を象徴的に感じさせる。
 片目が弱視とわかった少年の治療の過程。彼にとって片目に見えていなかったもの、見ようとすれば見えてくるものを比喩しているのだろうか。島のラジオ局のデスクジョッキーの島民とのやりとりの言葉の使い方、その音楽の選択などもとても巧みだ。ドキュメンタリー映画だから、たくさん撮った中から選び抜いているのだろうけれども、ドラマ以上に精巧に組み上げられて、見る者の感情に静かに訴えてくる。

 なぜ人道的なことができないのか。
 この島は,今の世界を現している。世界中で難民問題が起きていて、問題が起きていることはわかっていても、多くの人がそれを考え、それに触れ合おうとしない。
 いま、ヨーロッパの各国で、またアメリカで、日本でも、流入する難民・移民に対する拒絶や排外主義の動きが大きく政治を動かそうとしている。それらは、私たちがこれまで築きあげてきた互いを理解し合うことや話し合おうとすることさえも拒もうとしている。民主主義をも拒む材料にもなっている。自分だけ良ければ良いと考える気持ちがその中にあって、他者の貧困や苦しみ、不幸などかまっていられない、そんな余裕さえないという世の中になっている。
 もっと考えなければならないことが知らされていない、考えようとも、話そうともしない。戦争もおそらくそうなのだろうと連想させられた。たとえいま、すぐ近くで殺し合いが行われていても、知らされない人、知ろうとしない人にとっては自分には関係の無い遠い話なのだ。
 この映画は穏やかな、美しい島の善良な人々の生活を描きながら、困難に満ちた今の世界の断面、そこで私たちはこれからどうするのかを静かに訴えている。
 
公式ホームページ:http://www.bitters.co.jp/umi/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=-IgaGgZbuwQ

スタッフ
監督:ジャンフランコ・ロージ
製作:ドナテッラ・パレルモ ジャンフランコ・ロージ 
   セルジュ・ラルー カミーユ・レムル

2016年/イタリア・フランス合作/114分
配給:ビターズ・エンド
劇場案内:2017年2月11日(土)? 渋谷Bunkamuraル・シネマはじめ全国ロードショー
http://www.bitters.co.jp/umi/theater.html

第89回 アカデミー賞外国語映画賞イタリア代表
第66回 ベルリン国際映画祭 金熊賞〈グランプリ〉
第56回 イタリア・ゴールデングローブ賞大賞
第70回 ナストロ・ダルジェント賞特別ドキュメンタリー賞
第7回 バーリ国際映画祭編集賞 
第21回 カプリ・ハリウッド国際映画祭年間最優秀ヨーロッパ映画賞
第31回 チャック・ドーロ最優秀編集賞
第10回シネマ・アイ・オナーズ アンフォゲッタブルズ賞
第32回国際ドキュメンタリー協会賞 撮影賞
第29回ヨーロッパ映画賞 ドキュメンタリー賞


 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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