法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>

 

映画『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』(原題:Der Staat gegen Fritz Bauer)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           


 多くのユダヤ人を収容所に追いやり、ホロコーストの原因を作ったアイヒマンについては、これまで数多くの映画が、とくにドイツで作られてきた。
 『スペシャリスト』『ハンナ・アーレント』『顔のないヒトラーたち』『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』など。
 この『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』は、とくに南米に逃亡中のアイヒマンを捉えることに執念を持ち続けた西ドイツのバウアー検事長の側からサスペンスフルに描いた作品である。

 バウアー検事長役のブルクハルト・クラウスナーの演技がスゴイ。体の具合が悪いのだろうかと思わせるような、言わば病んだ体を鞭打っての執念を表す演技からして、話の展開を一貫して緊張感のあるものにしている。
 元ナチの親衛隊員が跋扈する捜査当局。ナチの残党達は自分たちの過去を暴かれ,今の地位を失うことを畏れ、バウアーの挙動を監視し、スキあらば失脚させようと計っている。「執務室を一歩出れば敵だらけ」という状態である。そうした中で、バウアーは「敵」だけでなくメディアの目も欺き,逃亡しているアイヒマンの情報を集め、仕掛け,追い詰めていく。
 イスラエルのモサドの手によってアイヒマンを逮捕させたが、ドイツで彼を裁くことはかなわなかった。彼はアイヒマンの裁判を、政権をはじめ政治、行政の中枢にはびこっているナチの人間の正体を暴き、追い出すきっかけにすることを考えていた。その後、彼らは、ドイツ国内においてアウシュビッツ裁判を起こし,ドイツ国民自身の戦争責任問題としてしっかりととらえ、その反省の意識が国民の中に根付くものになった。

 アイヒマンの拘束と裁判、そしてアウシュビッツの裁判までのバウアー検事達の闘いは映画『顔のないヒトラーたち』でも描かれている。
 そちらの映画では、むしろバウアー検事長は後ろの役に回って、若い検事の視点と行動から,表現も若い観客にも入りやすいやわらかさのある描き方を選んでいるが、『アイヒマンを追え!』はバウアー検事総長の苦悶と執念がサスペンスで描かれて、いわばハードボイルド調である。
 これらの作品を見て私は「ドイツも戦争直後に戦争を起こしたナチの残党を一掃して、その戦争責任を明らかにしたわけではなかった」ことを知って、今まで聞いていたことと違っているのに正直驚いた。戦後ドイツでも「経済復興と国際社会への復帰」に力が向けられ「戦争犯罪の追及」は後回しにされた。しかし60年代始めからこれらの映画の主人公達や多くの「正義と尊厳」を賭けた人の努力を通して戦争責任を明らかにし、かつ政治、教育、司法の場や民間の取り組みの中で「過去との対決」が国民の中に徹底された。

 では日本はどうか?
 日本ではそうした「過去との対決」ができないまま現在に至っているのではないか。だからこそ政治、教育、司法の場で、あるいはメディアや国民の意識の中でも歴史修正主義が跋扈し、戦前の価値観に政治を戻そうとするのだろう。

 私たちは4月29日、30日に予定している「憲法映画祭2」で、ドイツと日本の「戦前・戦中・戦後」をテーマにした映画プログラムを計画している。それぞれ戦争に至る政治と社会は何が共通していて、戦後の戦争責任のとらえ方はどこが違ったのか。今、戦争と平和に対する姿勢の何が違うかを比べて、「今の政治・社会状況は、もはや戦前である」と言われる現在の情況を考えて行きたい。

【スタッフ】
監督:ラース・クラウメ
脚本:オリヴィエ・グエズ
製作:トマス・クフス
共同製作:クリストフ・フリーデル
撮影:イェンス・ハーラント
プロダクション・デザイン:コーラ・プラッツ
プロダクション・デザイン:
音楽スーパーバイザー:ユリアン・マース 、 クリストフ・M・カイザー
編集:バーバラ・ギス、バルバラ・プール、イェルク・ヒムステッド、ゲオルグ・シュタイナート
衣装デザイン:エスター・ヴァルツ

【キャスト】
フリッツ・バウアー:ブルクハルト・クラウスナー
カール・アンガーマン:ロナルト・ツェアフェルト
ヴィクトリア:リリト・シュタンゲンベルク
ウルリヒ・クライトラー:セバスチャン・ブロムベルグ

2015年 ドイツ映画 シネマスコープ 105分
配給:クロックワークス,アルバトロス・フィルム

公式ホームページ:http://eichmann-vs-bauer.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=bO4QjmDC8_4

2016年 ドイツ映画賞 作品賞/監督賞/音楽賞/助演男優賞/美術商/衣装デザイン賞
2016年 バイエルン映画賞 男優賞
2015年 ロカルノ国際映画賞 観客賞
2015年 ドイツ映画批評家協会賞 作品賞
2015年 ヘッセン映画賞 作品賞

2017年1月 Bunkamura ル・シネマ ヒューマン・トラストシネマ有楽町
ほか全国ロードショー http://eichmann-vs-bauer.com/info/


 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]