法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>

 

映画『すべての政府は嘘をつく』(原題:ALL GOVERNMENTS LIE-Truth,Deception,and the Spirit of I.F. Stone)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           


 私たちは,もうずいぶん長いこと、テレビ局、新聞社などのマスメディアに対して、その報道や論調が政権寄りであって、独自性も批判精神をもっていないと、いらだち、嘆いてきました。しかしそれに対して「では、どうしたら良いのか?」と問われれば、明確な答えを出せないでいました。この映画はそれらに対し「何が問題なのか?」「どうしたら、それを変えて行くことができるのか?」を考えるサジェスションを与えてくれます。
 
 安倍政権になって以来,秘密保護法や集団的自衛権行使容認などが進められる中で、急速にマスメディアの意図的な「偏向」「自粛」「忖度」が強まってきたように思います。しかしアメリカではもうずいぶん前からメディアが企業である限り、利益追求のためにそうした「偏向」を生んで独自性のないことが指摘されてきました。それに対してどうしたらよいか?少数ですが独立したジャーナリストの努力によって独自の方法を採って,嘘が暴かれ、真実が伝えられ、政治を変え、社会を変えてきた事実があります。それらが私たちを勇気づけてくれます。
 その草分けとしてマスメディアに対抗してきたのが、I.F.ストーンです。彼は、一人で週刊新聞『I.F.ストーンweekly』を発刊し、購読者に発信するという形で独自の調査報道を行い、批判の論陣を張ってきました。

 彼はどのような方法でそうした調査報道をしてきたのでしょうか? 彼はこんな風に答えています。「私の記事の裏付けは他ならぬ本人の言葉です。政府の文書、報告書、会話記録、記者会見や演説などを歴史家の手法で分析しました」
 こうしてアメリカが北爆によってベトナム戦争に突入する理由とした「トンキン湾事件の嘘」を、そのわずか3週間後に暴きます。「攻撃を受けたなら、その残骸について語られないのはなぜだ?」「小国が世界最大の艦隊に向かっていく理由について、挑発行為を受けたという可能性があるという説明だけが欠けている」。発表されたものを克明に調べ、そこにある矛盾を突き、その間に潜む嘘を見破ります。隙を突かれた権力者は言い逃れが出来なくできなくなり、彼のI.F.ストーンが投げかけた疑問に「なるほど」と納得した購読者が増えていって、疑惑を見る目は拡大していきます。

 では彼がこうした真実の報道ができるようにするためにどのような方法を採ったのでしょう。彼は自分の週刊新聞購読の会員制という方法をとります。これは重要です。つまり広告収入というスポンサーをもったときに、マスメディアもジャーナリズムも企業利益を求め、会社の安定した維持を願う企業となってしまって、その独立性や自主性は失われます。最も大切な権力に対する批判精神は思うようでなくなります。そこで彼は購読者を会員にしてわずかずつでも、そこから購読料を取ることで自分の独立性と経営としての報道の持続性を保とうとしました。
 納得できる真実を報道し、権力の「嘘」を暴くことで信頼を得ていきます。もちろん、報道することに間違いがあった場合、即座に会員の購読者はお金を払ってくれなくなるので、その厳しさがまた内容の確かさと信頼性を求めるものになります。

 アメリカの政治の中でジャーナリストが政府の嘘を暴いたものとして、この「トンキン湾事件」の他に、「ウォーターゲート事件」、イラク参戦の理由とされた「大量破壊兵器問題」、「国家安全保障局(NSA)による個人情報収集問題」などがこの映画の中で取り上げられ、それらの「嘘」を暴いた仕事をしたジャーナリストたちが紹介されます。彼らはI.F.ストーンの仕事に、ジャーナリストの姿勢を学び、共感し、それぞれに「真実の報道」のできる手段づくりに努力している人たちです。
 マット・タイービは主要メディアが取り上げないトランプ支持者を丁寧に取材。ジョン・フライは、密入国したメキシコ人たちの遺体が秘密裏に埋められている事実を暴こうとしています。政府が隠したがる事実を伝えることを使命としている「デモクラシー・ナウ」のエイミー・グッドマンは、米軍のドローンによる民間人殺害を証明するため難民キャンプを訪ねます。映画監督マイケル・ムーア、スノーデンの取材で知られるグレン・グリーンウォルド、哲学者のノーム・チョムスキーらも真実を隠蔽する政府と、それを追究しない大手メディアの問題点を指摘します。

 映画の中心は、なんと言っても昨年の大統領選についての報道です。候補者の言説のほとんどが嘘で固められています。その候補者が大統領になってしまった。この映画の作り手は相当な危機感を持って、今伝えなければという思いでこの作品をまとめ、そうした嘘に対抗する方法としての個的な報道のあり方を示したのだと思います。
 
 「I.F.ストーンは初期のブロガーだった」という言葉が映画の中にあります。たしかにそう思います。インターネットという方法を手に入れたことで、私たちは個々人が発信の方法と力を手に入れました。自分の意見を発信して、それこそ世界中の人に発信することができるようになりました。しかしながら、そうした中でもブログの読者を増やし、より多くの人に気に入ってもらうために、調査も確認もせずに「うける」情報を垂れ流しにしているという状況が起きています。ますます真実そのものが何かわからないようにさえなっています。ポスト・トゥルースと呼ばれるものでしょう。
 映画の中で紹介されるI.F.ストーンの印象的な言葉がたくさんありますが、その中のひとつ、「メディアは地球上に平和をもたらす最強の武器になりえる。それなのに、現在は戦争の武器として使われている。すべての政府は嘘をつく。特に戦争の最中には」──I.F.ストーン

 「戦争できる国にしよう」と突進しているこの国でも、政府はたくさん嘘をついています。それを「うそつき!」と直言するマスメディア、ジャーナリストは残念ながら多くありません。
 多くが企業論理に飲み込まれていっている。しかしこういうときにこそ、ひとつひとつ「それは違う!」「おかしい!」「正しくない!」という声を、それぞれの方法を編み出して、声を上げていかなくてはならないのではないでしょうか?誰もが真の意味での「ジャーナリスト」を目指せる、と考えましょう。

【制作スタッフ】
製作総指揮:オリバー・ストーン
監督:フレッド・ピーボディ
出演:ノーム・チョムスキー(マサチューセッツ工科大学名誉教授)、
   マイケル・ムーア(映画監督)、
   エイミー・グッドマン(報道番組『デモクラシー・ナウ!』創設者)、
   カール・バーンスタイン(元『ワシントン・ポスト』記者)、
   グレン・グリーンウォルド(元『ザ・ガーディアン』記者/ニュースサイト『ジ・インターセプト』創立者)、ほか

(2016年 / カナダ映画 / 92分)

2016年トロント国際映画祭正式招待 
2016年アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭正式招待
公式HP: http://www.uplink.co.jp/allgovernmentslie/
2017年3月18日(土)アップリンク渋谷にて劇場公開!


 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]