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憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>

 

映画『陸軍』


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

大変入り組んだ気持ちになった映画です。
木下恵介監督は戦時下の昭和19年に、陸軍省の国策映画として、この映画を撮ることになります。

しかし木下監督は、映画ラストでの息子の出征を送る母(田中絹代)の演技に表れているように、口では「お国のため」といいながら、ほんとうは息子を死なせたくない母の気持ちを吐露させたことによって、結果、反戦を訴えているものになっている、と言われています。
しかし、当時、この映画を映画館で見た多くの人たちは、どのような感銘をもってこの映画を受け止めたのでしょうか?今では、どれほど反戦映画だと評価されても、あるいは当時盛んに宣伝に利用されていた国策映画とは違っていても、受け止める側からすれば、やはり戦意高揚映画であったのではないでしょうか。
木下監督が厳しい状況の中で、少しでもクライアントである軍国国家の言うなりでない、むしろそれとは異なった個人の発露を表現する映画にしたかということはよくわかります。随所にそうした意図が感じられる描き方が見られます。
戦後、木下監督は、自分の作品として、この作品を、当時のこの映画の「見せられ方」も含めて満足していたのでしょうか、それとも仕方がなかった、あれが精一杯だったと思っていたのでしょうか。

この映画『陸軍』を見て、自分の中で納得がいって、戦地に赴いた若者がいるかもしれません。あるいはあのような母の思いを知ったからこそ、自分は思いきって死んでいけると思った若者もいるかもしれません。そして実際に多くの若者が死んでいきました。
映画の作り手に、それを責めるのは、酷なことと思います。でもそうやって、自分の意に沿わない(と、したらですが)「戦争協力」で人を感動させる作品を作ったとしても、それはやはり反戦の効果を生み出すものにはならないと思いました。

ふと、大島渚のテレビドキュメンタリーの番組『大東亜戦争』の中で学徒出陣の学生達の顔を延々と描いていく場面を思い出しました。そこに映し出された若者の顔は、どこか崇高なまでに、もうすべてにあきらめがついたというか、それまでの悩みや迷いがかけらもなく澄み切った表情に見えました。ああ、こういう表情で自分のやりたかったことや、なりたかった人間になることを振り切って戦場に死に行ったのだと思いました。
この学生達の顔は、ドラマではない作り物でない、ある種の事実を伝えているように思いました。
そうしたドキュメンタリー映像の中の若者の表情にしても、またこの映画の田中絹代の母の演技にしても、人間に共通の真実を描くときに、見る者の気持ちは揺すぶられます。問題は揺すぶられた結果がどうなったかということでもあるでしょう。

再び、母(田中絹代)が出征兵士の息子を送るシーン。
あれは子どもを思う母の気持ちの発露、ということとともに、別の意味で母が自分に戻った瞬間かもしれません。自分の本来の気持ちはどこのあるのか、自分が何がしたいのかがわかった、そうしたはじめて自分を取り戻した瞬間なのかもしれません。
自分の中から突き動かされる気持ち、それを抑えならないとする葛藤が、軍人勅諭の言葉を口の中でいかにも頼りなく唱和するところに表したのかもしれません。
そして、こうした自分を取り戻した、自分に気づいた母親たちが、きっと戦後の平和と憲法を築いていったのだと思います。

母の気持ち、父の気持ち、子どもの気持ち、兵士の気持ちを、あの当時のように作り上げていったものは何だったのでしょう。この時代の人々の気持ちが、きわめて長い時間をかけて作為的に作り上げられてきたものであることに気づきます。
つまりそれは教育なのだろうと想像されます。
教育は本来、人間が人間らしく、自分が自分らしく生きていくために教育がなされるものだと思います。そうすることによって歴史や文化の人類の叡智が築かれ、よりよいものに進んできたのだと思います。
ところが今またそうした人間を人間らしく、自分を自分らしく生きることを主張することが、何かよくないことであるかのようにただされ、文句を言わず働け、とくに国家のやることに対しては文句を言わせるなという教育が面々と続けられています。そうした成果は「物言わぬ国民」という結果にすでに現れているのでしょう。政府、文部省の進める道徳教育はそうした線上にあるように思います。

この映画を見て、自分たちが考えないでそう思い込んでしまうことのどうしようもないやりきれなさを考えました。

映画『陸軍』の解説は、「シネマ・DE・憲法」ではすでに2013年11月に紹介されています。
映画の内容についてはそちらもご覧ください。

【スタッフ】
演出:木下恵介
原作:火野葦平
脚色:池田忠雄
撮影:武富善男
美術:本木勇
録音:小尾幸魚
企画:池田一夫
製作担当:安田健一郎
製作:松竹大船撮影所
後援:陸軍省

【キャスト】
友助 …笠智衆
友助の妻 …信千代
友之丞(友助の息子)…横山準
友之丞(成長してから)…三津田健(文学座)
せつ(友之丞の妻)… 杉村春子 (文学座)
友彦(友之丞の息子)… 山崎敏夫
友彦(成長してから)… 笠智衆(二役)
わか(友彦の妻)… 田中絹代 
伸太郎(友彦の息子)… 星野和正(東童)
竹内喜左衛門 … 原保美 
仁科大尉(友彦の戦友)… 上原謙
藤田謙朴 … 長浜藤夫(東宝劇団)
櫻木常三郎 … 東野英治郎

1944年 日本映画 87分

 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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