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映画『希望のかなた』(原題:Toivon tuolla puolen =THE OTHER SIDE OF HOPE)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 まるで自分が不法入国の難民として、まったく見知らぬ国に入り込んでしまったような一人称主観体験の映画の導入です。しかも旅人としてではなく、当局や右翼につけねらわれながらも「ここで何とか定住して生活していかなくてはならない」のです。そうした切実さが身に迫ります。フィンランドは「いい人のいい国」、難民にも寛容な国だと言われる国だったのに。
 そんな怯え、ハリネズミのように疑心暗鬼に身を堅くしている時に「手を差しのばしてくれる人」が現れたら、どんなにうれしいことか。ただ、この映画の難民の主人公、カーリドの硬直しきった表情には直ぐにはそれが現れません。よろこびを表すほんの僅かの表情、感情がこぼれるのが見えた時、映画を見ている私たちをどんなに喜ばせるものになるか。それだけ主人公の気持ちに感情移入し、気持ちを一緒にしてしまっているのです。

(ストーリー)
 『希望のかなた』は、北欧フィンランドの首都ヘルシンキを舞台に、生き別れの妹を探すシリア難民の青年カーリドが、レストランオーナーのヴィクストロムとその仲間と出会い、彼らの小さな善意に救われる話だ。(『希望のかなた』映画パンフレット「イントロダクション」より)

 簡単に言えばストーリーはこれに尽きます。このシンプルな話を、いくつものエピソードを重ねてていねいに、ていねいに話が進められていきます。これといった説明はありません。セリフも断片的です。言葉はできるだけ最小限にすませようとしているのではないか、と思わせるくらいです。でも画面を見ているだけで伝えようとしていることがすんなり入ってくる。表現が的確なのだと思います。映画の始まりから直ぐに主人公カーリドの気持ちに引き込まれてしまったのは、その表現の的確さ、脚本と演出のわかりやすさにあると思います。
 演技がうまいのか、キャスティング(いわゆるカウリスマキ組の気心の知れた常連なのでしょうけれども)や演出が見事なのか、ほんとうにそういう人がいて、そんな風に考え、感じ取っているのだろうと思わせます。
 アキ・カウリスマキ監督は、演技者に設定だけ伝えて、後は演技者自身が「自分になる」演出法と聞きます。カウリスマキ監督はまた「社会の片隅でつつましやかに生きる、少しばかり孤独を抱えた人びとのちいさな善意を好んで作品に描いてきた」と聞きました。
 その路線で2011年の『ル・アーブルの靴磨き』から難民を主人公にした作品になっています。この『希望のかなた』はその難民シリーズ第二作になります。
 難民問題、それもますます不寛容になっていく世界的な社会・政治情況の中で、まさに今の私たちの問題として、監督は取り上げざるを得ない問題ととらえているのでしょう。それは監督自身が一貫して持ち続けてきた人と人との関係、人間性の問題意識なのだと思います。

 監督は、そのメッセージで次のように言っています。「『希望のかなた』はある意味で観客の感情をあやつり、彼らの意見や見解を疑いもなく感化しようとするいわゆる傾向映画です。そんな企みはたいてい失敗に終わるので、その後に残るものがユーモアに彩られた少しばかりメランコリックな物語であることを願います。一方でこの世界のどこかで生きている人びとの現実を描いているのです。」(『希望のかなた』映画パンフレット「アキ・カウリスマキ監督からのメッセージ」より)

 こうした不安、思い、願い、そしてよろこびをもって難民といわれる人たちが、見知らぬ街をさまよっている、その数は数限りないと言うことが想像されます。その実感を「共感」につなげていきたいと思います。
 多くの人に見て、感じて、考えてもらいたい映画です。

【スタッフ】
監督:アキ・カウリスマキ
製作:アキ・カウリスマキ
脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
照明:オッリ・ヴァルヤ
プロダクションデザイン:アキ・カウリスマキ
衣装:ティーナ・カウカネン
セット・デコレーター:マルック・パティラ
セット・デコレーション:ヴィレ・グロンルース、ヘイッキ・ハッキネン
録音: テロ・マルムバリ
編集 :サム・ヘイッキラ

【キャスト】
シェルワン・ハジ(カーリド=シリアからの難民青年 )
サカリ・クオスマネン(ヴィクストロム=レストランオーナー)
イルッカ・コイヴラ(カラムニウス=レストランチーフ)
ヤンネ・ヒューティアイネン(ニルヒネン=レストランシェフ)
ヌップ・コイブ(ミルヤ=レストラン給仕)
カイヤ・パカリネン(ヴィクストロムの妻)
ニロズ・ハジ(ミリアム=カーリドの妹)
サイモン・フセイン・アルバズーン(マズダク=イラクからの難民青年)
カティ・オウティネン(洋品店の女店主)
マリヤ・ヤルヴェンヘルミ(収容施設の女性)
犬のコイスティネン(ヴァルプ)

2017年・フィンランド映画・98分

配給: ユーロスペース
公式サイト:http://kibou-film.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=g6MsSqH4FNc
上映情報:渋谷ユーロスペースほかで上映中
http://kibou-film.com/

2017年ベルリン国際映画祭 銀熊賞(監督賞) 
2017年国際批評家連盟賞年間グランプリ
2017年ダブリン国際映画祭 ダブリン映画批評家協会賞、最優秀男優賞
2017年ミュンヘン映画祭 平和のためのドイツ映画賞ザ・ブリッジ監督賞
2017年モスクワ国際映画祭出品 
2017年シドニー映画祭出品 
2017年トロント国際映画祭出品

 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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