法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>

 

映画『デトロイト』(原題:DETROIT)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 キャスリン・ビグロー監督の作品は、イラク戦争の爆発物処理班を描いた『ハート・ロック』に代表されるように、キリキリと胃が痛むような一触即発の過激な緊張感が持続するのが特徴です。
 今回、その極度の緊張を強いられるのは、暴動のさなかに「警官隊に発砲したのではないか」と嫌疑をかけられ、警官に自白を強要され、脅迫された逃げ場のない若者たちです。
 銃口を突きつけられ、一瞬の後に自分の命が奪われる、そのすさまじい恐怖の中での一夜でした。それは「脅し」だけでなく3人の生命を奪う結果に。なぜそんなことになったのか…。

【STORY】
1967年、米史上最大級の暴動勃発。街が戦場と化すなかで起きた"戦慄の一夜"
1967年7月、暴動発生から3日目の夜、若い黒人客たちで賑わうアルジェ・モーテルに、銃声を聞いたとの通報を受けた大勢の警官と州兵が殺到した。そこで警官たちが、偶然モーテルに居合わせた若者へ暴力的な尋問を開始。やがて、それは異常な"死のゲーム"へと発展し、新たな惨劇を招き寄せていくのだった…。(映画『デトロイト』公式サイトより)

 監督は何を伝えたいと思って、この映画で「デトロイトの1967年の『暴動』」を材料に選んだのでしょうか。監督の「怒り」はどこに向けられているのでしょうか。当時の黒人差別の酷さか、人を人とも思わない警官の横暴か、正当な裁きを受けないまま放置され、警官の組織犯罪が告発されないことか。
 それらはどれも当たっていますが、どれひとつでもないように思います。少なくとも一面的に「何が悪い」という描き方はしていません。
 強く感じるのは、暴動という特殊な情況の中で、銃を突きつけられた者の恐怖であり、警官の側も含め、極端な情況の中で人がどのようになってしまうのかを描こうとしているように思います。

 この映画を見て、強く連想したことがあります。
 つまり警察官というものは、一度、容疑者を捕まえてしまうと、その被疑者に対して、何としても、それが犯人であるということを認めさせる方向で捜査や取り調べを行うということです。自分たちが逮捕したことが「間違えではなかったか」と考えてはならない。それは警察という組織そのものの習性というか、警官たちの性癖に近いものなのでしょうか。
 特に捜査や取り調べが(自白など)うまくいかなければ、うまくいかないほど、あるいは乱暴な取り調べをしてしまった場合、特に今回の暴動のような非常時の中にあって、その傾向はますますエスカレートし、エキサイトしてしまいます。それを止めるものがいないと、最後はこの映画の射殺されてしまった3人のように悲劇的な結果になります。
 そして、そうなってしまった後は、今度は「如何に警察側の不都合を隠すか」という方向に、組織の身内意識から事実隠蔽に働くということです。
 いままで見てきたたくさんの冤罪事件の映画、あるいは戦前の特高警察によるでっち上げの検挙、そこでの拷問を描いた映画の場面が思い浮かびました。

 暴動を鎮圧する捜査の現場で、そうしたことが起きたということが、この映画の素材の特殊なところですが、そこでまた別の連想が思い起こされます。
 戦争あるいは紛争の中で、兵士だけが一方的に武器を持っている状況で、このような出来事は数限りなく起こってきたのではないかという連想です。
 軍隊組織では、疑わしきものがすべて敵であって、その判断が正しいかどうかより疑わしいと思ったら、敵はまず殺さなくてはならない。それがまったく武器など持っていない住民や子どもであっても。その結果、抵抗できない者への虐殺となる例はいくらでもあるし、それが隠されている例は、おもてに現れている何倍にもなるのではないかということです。そうした殺戮が戦場あるいは紛争地においてはどこの国においても数限りなく繰り返されてきたのではないかと想像するときに愕然とします。
 それらは警察なり、軍隊なりの暴力装置がもっている欠陥でもあると思います。またその欠陥による暴走を抑えるために、司法やジャーナリズムなどが真実を明らかにし、権力の暴走を制限しているのだと思います。 
 しかしながら、この「デトロイト暴動」の現場においても、裁判においても、そうした制限は正しく働かず、またわが国の今の情況においてさえ、警察の隠蔽体質はますます強まり、すでに自衛隊の海外の活動をも隠そうとしています。いまの官僚組織、政治組織全体がそうした方向に走っているのではないかと思えます。

 この映画の黒人の若者たちの姿を見て、突然、疑いをかけられただけで銃を突きつけられ、脅されるのが、明日の我が身ではないか想像し、恐れおののきました。
 誰にもそういうところに追い込まれる危険は強まっています。どうしたらよいでしょうか。

【スタッフ】
監督:キャスリン・ビグロー
製作:ミーガン・エリソン キャスリン・ビグロー マシュー・バドマン マーク・ボール コリン・ウィルソン
制作総指揮:グレッグ・シャピロ ヒューゴ・リンドグレン
脚本:マーク・ボール
撮影:バリー・アクロイド
美術:ジェレミー・ヒンドル
衣装:フランシン・ジェイミソン=タンチャック
編集:ウィリアム・ゴールデンバーグ ハリー・ユーン
    音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
音楽監修:ジョージ・ドレイコリアス ランドール・ポスター

【キャスト】
ジョン・ボヤーガ (ディスミュークス=警備員)
ウィル・ポールター (クラウス=警官)
アルジー・スミス (ラリー=ザ・ドラマティックスミュージシャン・モーテル客)
ジェイコブ・ラティモア (フレッド=ラリーの友人・モーテル客)
ジェイソン・ミッチェル (カール=モーテル客)
ハンナ・マリー (ジュリー=モーテル客)
ケイトリン・デバー (カレン=モーテル客)
ジャック・レイナー (デメンズ=警官)
ベン・オトゥール (フリン=警官)
ネイサン・デイビス・Jr. (オーブリー)
ペイトン・アレックス・スミス (リー)
マルコム・デビッド・ケリー (マイケル)
ジョセフ・デビッド=ジョーンズ (モリス)
ラズ・アロンソ (コニャーズ下院議員)
イフラム・サイクス (ジミー)
レオン・トマス3世 (ダリル)
ベンガ・アキナベ (オーブリー・ポラード・シニア)
クリス・チョーク(フランク警官)
ジェレミー・ストロング(ラング弁護士 )
オースティン・エベール(ロバーツ准尉)
ミゲル・ピメンテル(マルコム)
ジョン・クラシンスキー(アウアーバッハ弁護士 )
アンソニー・マッキー(グリーン)

【公式サイト】
【予告編動画】

2017年/アメリカ映画/142分
配給:ロングライド

上映案内:TOHOシネマズシャンテ、TOHOシネマズ新宿等全国ロードショ-中 http://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=detroit



 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]