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映画『シェイプ・オブ・ウォーター』(原題:THE SHAPE OF WATER)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 大人の'おとぎ話'です。ラブ・ストーリーです。
 そこに政治的メッセージがどうのということは、無粋で野暮というものでしょうか。お話そのものを楽しめればそれでよい。設定もB級映画のつくりです。ある種の怪獣、モンスターもの。異生物間で心がつながる物語。しかも半魚人。

 それでも、この話の時代設定を1962年にしたのはなぜなのか?それを考えてみると作り手の意図、このおとぎ話にどのような思いを込めたのかが見えてきます。
 衣装も、美術も、街並みも、映画館も、そこで映される映画も、ひとつひとつがこの時代がどのような時代であったかを語っています。ふと、映画「三丁目の夕日」シリーズを連想しました。昭和30年代前半の、登場人物がみな善人のハート・ウォームの物語。ただなつかしいだけでない、その時代に設定する作り手が投げかけている何かがあるはずです。

 ギレルモ・デル・トロ監督は、インタビューに答えて、こう言っています。
 「現代と似た社会情勢を抱える62年を舞台にして"おとぎ話"を語る。(現代が)憎しみに溢れた時代だからこそ、愛の物語を描くことの重要さが増していくんだ。1962年という舞台は、現在のアメリカの鏡。でも現代を舞台にしたら、政治討論が始まってしまう。(観客は分断される)だから「昔むかし…」とおとぎ話にすれば、みんな聞いてくれる、というわけなんだ」

 ではどこが、「現代と似た社会情勢」なのでしょう。
 ひとつは異質なものを排除する、きわめて内向的な社会になっているということでしょうか。「自分たちさえ良ければ良い」という排他的な考えや政策が支持を集め、難民の流入のシャットダウンが広がっています。わが国の例でもヘイトスピーチやインターネットの書き込み、一部の新聞、マンガにさえ差別と排除の論理が横行し、蔓延しています。

 主人公のイライザは、人の言っていることや音楽は聞こえていても、「話せない」という設定です。ずっと孤独に暮らしてきて、意見を言うチャンスを奪われた人々の象徴です。ことばを奪われたのはイライザだけではありません。隣人で画家のジャイルズもまたゲイの老人で当時はいないことにされていた人間です。清掃員仲間で親友のゼルダは黒人、研究者のホフステトラー博士も祖国に捨てられたロシア人、彼らはイライザと何か通い合うものを持っている数少ない人たちです。そして半魚人。イライザの周りで気持ちを通わせるのは非主流派(The Others)、部外者、除け者たちなのです。だからこそ彼らは言葉をたくさんかわさなくても、イライザの気持ちを理解して半魚人を救い出そうと協力し合うのかもしれません。あの時代の人と人との関係性、そして今も同じより深刻な問題を抱えているものは何なのか?

 異種生物との交情を描いたおとぎ話は他にもいくつもあります。「シザーハンズ」や「キングコング」「美女と野獣」。それらは異種、異形であることから、孤独であり、障害を持っているからこそ、精神的、感覚的にとぎすまされているものがあります。危機の状況にさらされていることもあって、人の気持ちに求める訴えるものに強いものがあります。
 しかしながら今のような異質なものを排除し受け入れていく余裕のない社会の中で、ますます孤立し、分断され、追いやられていくことが強まっていると言えるのではないでしょうか。
 そうした世間の隅っこに追いやられている人々に対する愛情は、作り手の演出の隅々ですべての登場人物の演技に生きています。
 このお話の中では憎まれ役、敵役ともいえるエリート軍人のストリックランドにしても、彼がどのような立場にあって、どのような思考をする人物であるかがていねいにフォローされています。彼は「半魚人と自分は相性が悪い」と言っているように、はじめから冷酷なサディストなわけではなく、好んで半魚人を生体解剖しようといるわけでもことがわかってきます。家庭では60年代初めの理想的な父親、夫、男として描かれます。善人であり普通の人なのです。
 だから「悪人は誰もいない、それでも悲劇が起ころうとしている」というストーリー展開の中で極めて重要な役割を演じています。彼が本来の、そして大多数の普通の人を演じて、そうした普通の人が「普通でない人」、異質なものを排除していくということなのかもしれません。

 半魚人を演じた俳優、ダグ・ジョーンズの話です。
「ギレルモの映画の素晴らしさは、弱者の視点から権威への反抗を描く点だ。社会的に弱いものが美しい花を咲かせる瞬間、多くの人が共感するんじゃないかな」
 1962年に何かを奪われ、それでも希望を持って生きた人たちからの、希望をなくしてさまよっている現在の私たちへのメッセージなのかもしれません。

【スタッフ】
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:ギレルモ・デル・トロ ヴァネッサ・テイラー
製作:ギレルモ・デル・トロ J・マイルズ・デイル
制作総指揮:リズ・セイアー
撮影:ダン・ロートセン
音楽:アレクサンドラ・デスプラ
編集:シドニー・ウォリンスキー

【キャスト】
サリー・ホーキンス(イライザ)
マイケル・シャノン(ストリックランド)
リチャード・ジェンキンス(ジャイルズ)
ダグ・ジョーンズ(不思議な生きもの)
マイケル・スタールバーグ(ホフステトラー博士)
オクタヴィア・スペンサー(ゼルダ)
ローレン・リー・スミス
デヴィッド・ヒューレット
ジョン・カペロス
ニック・サーシー

制作会社:Bull Productions
配給:フォックス・サーチライト・ピクチャーズ
2017年制作 123分 アメリカ映画

第74回ヴェネティア国際映画祭 金獅子賞
第75回ゴールデングローブ賞 監督賞 作曲賞
第90回アカデミー賞 作品賞 監督賞 作曲賞 美術賞
ハリウッド映画賞 編集賞

【公式ホームページ】http://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater/
【予告編】https://www.youtube.com/watch?v=FM7w71iTwBo
【上映情報】TOHOシネマズ系ほか、全国公開中



 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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