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映画『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』(原題:The Post)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 「隠蔽」「捏造」「嘘」……、今ほどこれらの言葉が政治の場にあふれ、政治そのものの信用と信頼を失わせているときはなかったのではないでしょうか。それらは、じわじわとこの国の国民主権と民主主義の破壊に結びついているように思います。
 そして、そうした危機的な状況を映画の作家たちもそれぞれの国で強く感じているのでしょう。過去の政治事件を取り上げながら、今の自分たちの情況を考えようとする作品が多く作られているように思います。
 これはアメリカという国がそうした政治的危機から民主主義を取り戻した「報道の自由」の闘いの物語。それらは「どうすればよいのか?」と立ちつくす私たちに勇気と希望を与えてくれるものです。

 1971年、ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ国内には反戦の気運が高まっていた。
 国防総省はベトナム戦争について客観的に調査・分析する文書を作成していたが、戦争の長期化により、それは7000枚に及ぶ膨大な量に膨れあがっていた。
 ある日、その文書が流出し、「ニューヨーク・タイムズ」が内容の一部をスクープした。
 「ワシントン・ポスト」のトップの女性発行人キャサリン・グラハムと編集主幹ベン・ブラッドリーは、残りの文書を独自に入手し、全貌を公表しようと奔走する。真実を伝えたいという気持ちが彼らを駆り立てていた。
 しかし、ニクソン大統領があらゆる手段で記事を差し止めようとするのは明らかだった。政府を敵に回してまで、本当に記事にするのか…報道の自由、信念を懸けた"決断"の時は近づいていた。 (「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」公式サイト About the Movie より)

 「ペンタゴン文書」は、1945年から1966年までの、ベトナムにおけるアメリカの関与についての調査・分析した国防省の秘密文書です。そこには、4代にわたる政権が何十年も組織的にウソをつき続け、何百万人ものベトナム人と、何万人ものアメリカ人兵士の死者を出していることを含め壊滅的な結果をもたらしたことを明らかにしています。 
 ベトナムにおけるアメリカの軍事作戦について、「政府は平和を追求しているのだ」と言いながら、これら大統領全員が繰り返し国民を欺き、水面下で軍とCIAが秘かに戦争を拡大していたことを明らかにしています。しかもその理由の多くは、それぞれの政治家が「戦争の敗者という不名誉を避けるため」ということでした。

 この映画では、どのようにそれら機密文書を探し出し、それらを隠そうとする政権の圧力に負けず、公表に踏み切っていったか「ワシントン・ポスト」のほぼ社内の動きに限って描かれていきます。
 政治的な駆け引き、企業内の経営あるいはメディアの内幕といった中で、話は主に進みます。そうした中で、主人公のキャサリンやベンが当面している機密文書の公開ということが、その時も戦場で失われようとしている若者の生命やその家族の不安に直接結びついていることを感じさせるエピソードがあります。
 それはキャサリンが記事差し止めを巡る審理に最高裁に向かう前に映るベトナム反戦の若者のデモの数カット、そして最高裁内でキャサリンに「頑張ってください」と駆け寄る若い女性職員の短いカットです。「兄がベトナムの戦場にいるのです」そのインサートだけで、この機密文書の公開の意味が、そうした人々の多くの平和への願いの気持ちに直接結びついていることをわからせます。「そうだよなあ。今、向かっているのはこういう人たちの願いに応える仕事なんだ」とわかります。見事なインサートです。

 スピルバーグ監督の描き方は、ストーリーはシンプル、人物の位置関係は明確、表現は極めてわかりやすく親切です。それを巧みなシナリオとカメラ、スタッフ、そしてメリル・ストリープとトム・ハンクスをはじめとする出演者の、まさにそれぞれの人物になりきった演技が実現します。
 スタッフが文字通り一丸となって、この映画を作り上げていっている熱気は、ある意味、その時の「ワシントン・ポスト」が取り組んでいたスタッフの熱気に通じるものを感じさせます。それが画面に表れます。
 キャサリンの掲載決断のゴーサインが出て、紙面の版が組まれ、輪転機が回り、新聞の束が輸送トラックから放り出されるように配られるまでのテンポの良いカットの積み重ねは、「報道の自由」を守り続けるのは、新聞記者だけでなく活字工や運転手までが支えて、作り上げていくものだといった労働賛歌のようにも見えてきます。

 私たちが、今おかれている不信感に満ちた政治状況の中で、この映画から見たものをどうイメージしていくかを考えましょう。励まされるのは、そして私たちに勇気を与えてくれるのは、このペンタゴン文書の公表を「報道の自由」という合衆国憲法に基づいて認めたアメリカ合衆国最高裁判所の判決文です。これは、マスメディアという場に携わる人たちだけでなく、国民がそれを守っていかなければならないものとして今、かみしめたいものです。
 「合衆国建国の父は、憲法修正第1条をもって民主主義に必要不可欠である報道の自由を守った。報道機関は国民に仕えるものであって、政権や政治家に仕えるものではない。報道機関に対する政府の検閲は撤廃されており、それ故、報道機関が政府を批判する権利は永久に存続するものである。報道の自由が守られているため、政府の秘密事項を保有し、国民に公開することは可能である。制限を受けない自由な報道のみが、政府の偽りを効果的に暴くことができる。そして、報道の自由の義務を負うものは、政府の国民に対する欺きによって多くの若者が遠い外国へと派遣され、病気や戦闘で命を落とすという悲劇を避けるために責務を全うすべきである。」

【スタッフ】
監督:スティーブン・スピルバーグ
製作:エイミー・パスカル スティーブン・スピルバーグ クリスティ・マコスコ・クリーガー
脚本:リズ・ハンナ ジョシュ・シンガー
撮影:ヤヌス・カミンスキー
美術:リック・カーター
衣装:アン・ロス
編集:マイケル・カーン サラ・ブロシャー
音楽:ジョン・ウイリアムズ

【キャスト】
メリル・ストリープ(キャサリン・グラハム )
トム・ハンクス (ベン・ブラッドリー)
サラ・ポールソン(トニー・ブラッドリー)
ボブ・オデンカーク(ベン・バグディキアン)
トレイシー・レッツ(フリッツ・ビーブ )
ブラッドリー・ウィットフォード(アーサー・パーソンズ)
ブルース・グリーンウッド(ロバート・マクナマラ)
マシュー・リス(ダニエル・エルズバーグ )
アリソン・ブリー(ラリー・グラハム・ウェイマウス)
2017年制作  116分 アメリカ映画
公式サイト:http://pentagonpapers-movie.jp/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=q4wjL1QX6-k
上映の案内:http://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=cqeRjNRe
TOHOシネマズ各館 新宿ピカデリーほか全国上映中



 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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