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映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』(英題:A TAXI DRIVER)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 光州事件は1980年、韓国が長期にわたる軍事独裁政権を脱し、民主化を夢見た市民らを新たな新軍部が自らの権力を握るために自国民を暴圧した事件です。
 この映画の物語は。その1980年の光州に入ったドイツ人記者のピーターと彼を乗せてソウルから光州に向かったタクシー運転手マンソプがその光州で遭遇したことを劇映画として描いたものです。「事実に基づいて構成された」というタイトルが冒頭に示され、ラストには記者ピーターのモデルになったユルゲン・ヒンツペーター記者本人が登場しています。

 監督のチャン・フンは「映画のねらい」について次のように答えています。
 「このストーリーは真実にまつわる話であり、マスコミに対する話であり、一人の平凡な人間の小さな心の変化に対する話です」「マスコミが真実を伝えることがどれほど大切かという部分もこの映画で重要なのですが、私にとってよりフォーカスした部分は一人の人間の小さな心の変化です」(映画パンフレットより)

 実に、いろいろなことを考えさせられる映画です。軍による情報操作や隠蔽の怖さ、完全に封鎖・隔離された中で行われた武器を持たない市民の虐殺。それを覆い隠して真実がすぐは伝えられなかった年月。
 私にとって「光州事件」の記憶をたどると、その当時なんとなく聞いていたことは「韓国南部の都市で起きた学生運動に軍が出動して鎮圧した」程度のものでした。少し後になって大学構内で「光州事件」の文字がある立て看板を見たことがあったように思うのですが、その頃の私はそれを見に行こうとする学生ではありませんでした。

 今回、とくに今の私が、自衛隊や軍隊というものに関心をもっているからでしょうか。この映画を見て、国内で住民蜂起鎮圧に働くときの軍隊の暴力装置の怖さをイメージとしてとらえました。「はむかうものは『殺せ』」という命令ならば丸腰の市民とわかっていても銃弾を撃ち込む組織の怖さです。
 軍隊によって隔離された街の中で起こり、外部との交通も情報も完全に遮断された中で起こった事件の恐ろしさをあらためて感じました。そしてそれは国内で起きている事件であってもほとんどの国民が知らされていないで進められます。

 そして、そうした情報が遮断された中で行われる武力による暴力の連鎖は、戦争、紛争の中でいま現在も日常的に行われているということを想像しました。それが検証されたり、顧みられることもない例の方が多いということを思うと何か、暴力装置を持った権力組織のもっとも危険な部分が見えるような気がして怖さが広がりました。

 事実を知らせることによって、そうした権力による隔離、隠蔽の壁に穴を開けたのが、この映画の主人公ピーターのモデルであるユルゲン・ヒンツペーター記者です。彼とそれを支えた光州の人たちが危険を顧みず行動したことによって、私たちを含め世界中の人々が「光州事件の真実」を知ることができたのです。「そんなことが許されてはならない」という国際世論の圧力が作られていったのだろうと思います。こうしたその現場に居合わせていた外国人が命がけで撮った写真によって、私たちは「南京事件」の真実を知り、ジャーナリストの決死の報道によってシリアやイスラム国で行われていることを知ることができるのだろうと思います。)

 この映画の特筆すべきところは何より主人公をタクシー運転手、つまりごくどこにでもいる平凡な庶民としたところです。ビルの上からだけ客観的にとらえる報道記者の目ではなく、地面を這いつくばって、追いかけ回される住民の、当事者の視点から捉えていくことによって、権力の暴力の怖さを実感します。
 そうした彼の見たもの、感じたもの、そして考え、心の中で変わっていったことを追体験するかのように視聴者はこの事件を見ていくことになります。
 そのことによって。いま私たちはこの光州事件という(動員され虐殺に加わった兵士達も含めて)韓国の人々にとってつらい経験から、当事者として何を学ぶことができるのか、考えることができるのだと思います。

 ソ・ガンホは、何も知らないでいる、でも、遺された幼い娘と共に精いっぱい日々の暮らしに追われながら生きている「庶民」をみごとに演じています。はじめ大学生のデモに批判的で「大学まで行って勉強もしないで」と言っていた彼が、言わば巻き込まれていきます。記者のペーターや光州で闘う人々とぶつかりながら彼自身の感じ方を通して変わっていきます。彼が「そんなのないだろう」「そんなの許されっこない」という目覚めていく心の変化に、映画を見る私たちも気持ちを合わせてつきあっていくことになります。
 そうしたわかりやすさが、政治や社会の問題を自分のこととしてあまり考えないでいる多くの人たちに人たちにもまた考えていくきっかけを作ることになり、なかなか動かない層の人々の気持ちを動かすのだと思います。

 だからこそ韓国で昨年ヒットNo.1で1200万人を動員しているのでしょう。私が周辺都市の映画館でこの映画を見たときにも、相当の人が入っていました。

 映画を見た人が、韓国とその現代が歩んだ道や人々の願いを、わがことのように知りたくなる、いろいろなことを考え始めるきっかけになればと思います。

【スタッフ】
監督:チャン・フン
脚本:オム・ユナ
撮影:コ・ラクソン
美術:リック・カーター
衣装:アン・ロス
編集:キム・サンボク キム・ジェボム
音楽:チョ・ヨンスク
衣装:チョ・サンギョン チェ・ヨンサン
美術:チェ・ファソン チョン・イジン
エグゼクティブ・プロデューサー:ユ・ジョンフン
プロデューサー:パク・ウンギョン
共同プロデューサー:チェ・キソプ
協力プロデューサー:ソ・ガンホ

【キャスト】
ソ・ガンホ
トーマス・クレッチマン
ユ・ヘジン
リュ・ジュンヨル

2017年制作 137分 韓国映画
配給:クロックワークス
公式サイト:http://klockworx-asia.com/taxi-driver/
予告編:https://www.youtube.com/watch?time_continue=1&v=uDy9Bd08CH4
シネマート新宿 新宿ピカデリーほか全国上映中
上映の案内:http://klockworx-asia.com/taxi-driver/theater/



 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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