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映画『国家主義の誘惑』(原題:Japon,La Tentation Nationaliste)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           


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 「どうして?どうして!とつぶやいている間に日本の政治は常軌を逸していきます。政治不信という形容を凌駕して、政治の破壊願望がどこかにあると思えてきます。」と、この映画の監督の渡辺謙一さんは〈作品の動機〉の冒頭で書いています。
 いまの政治状況に対し、同じように感じている人は多いと思います。それでいながら、その原因がどこにあるのかをつかめないでいる人もまた多いと思います。渡辺さんはその原因を政治家に向けるより、いまを生きる日本人の意識に向けて考えようとしています。

 渡辺監督は、前作『天皇と軍隊』(2009年)で、戦後の歩みと憲法9条を切り口として天皇制の護持と関連づけ戦後史をとらえようとしました。フランス映画として作られたそのドキュメンタリーは、日本の中で、日本国内の情報だけを聞き、日本人の中だけでの話をしている私たちにとっては新鮮でした。日本人の考え方について自分たちが意識していないでいる「日本人の考え方」を、はっきりさせられた思いがしました。
 その渡辺監督の新作は、まさにいまの日本人の政治に対する意識が「国益、国家の名の下に秘密裏に決裁、反対意見には耳を貸さず、新造語を連発し、嘘を通す」政治を支えていることをわからせてくれます。

 どうしてそのような曖昧な意識がこの日本を覆い尽くしまったのか、そして、どんどん深みにはまっていくのか、何人かの論客が語ります。
 今の日本人の意識の底層に、2011年の東日本大震災を経た日本人の不安、無力感と疑いがあること。難問、課題が山積して先がない情況の中で難問に簡単に単純に答えを出してくれる安易なナショナリズム、国家主義が世界的に受け入れられていること。そしてそれは1930年代半ば日中戦争前夜のこの国の国家主義、ナショナリズムの台頭に酷似していること。そうしたものを歴史学者や政治学者へのインタビューと当時の状況をとらえたフィルムなどの資料によってイメージとして明らかにしていきます。
 「例えば1930年代半ば。天皇機関説が議会で攻撃の的となり、呼応して国体明徴運動が起き、軍の行動派が天皇親政を求めて決起し、政党政治が弱体化する。立憲主義が終わりを告げ、天皇の統帥権を盾に軍人が主導する政治に変容し、文部省は「国体の本義」を編み出し教育目標に据える。日中戦争前夜の日本といま、どこか似ていないでしょうか。"政治"というよりむしろ"人々の政治に対する意識が醸し出す空気"です。これを国家主義の誘惑と読んでみました。」(映画『国家主義の誘惑』プレス資料「監督の言葉」より)
 たしかにそうした多くの人が漠然と感じていながら、それがはっきりと形に表れないため、「考えることを止めてしまった」「論理的に話し合うことをしない」状況が"いま"です。いつの間にかそうした状況にはまり込んで、他の人も同じような考えだと思い込んでいるだけ、そうして取り返しの付かない社会になってしまう。そのことは、私たちがかつて上映会を開いたナチスの台頭を描いたソ連のドキュメンタリー映画『ありふれたファシズム』の中にあった「人々が考えることを止めたときにファシズムが始まる」という言葉にも呼応するものがあります。

 映画の中では戦前同様、戦後の日本人の政治意識がたどった道についても考察されます。ひとつひとつ自分たちの問題としてとらえ、問題に向き合っていかない政治の姿が続けられてきたこと。それは政治・外交的にはそれは「日米関係」「安保体制」に表れています。戦後日本は独立国として独自の外交の独立性を剥奪され、アメリカの保護国、属国になりきって自ら考えない政治を続けてきた、それを密約や封印、隠蔽されてきた結果、特にそのヒズミがいまに至る戦後の沖縄の状態になっています。

 もうひとつこの映画で明らかにされているのは、2016年8月の平成天皇のビデオメッセージです。多くの報道などがその部分を積極的に報道していない中にあって、私もこのメッセージに込められた天皇の「憲法に対する思い」についてはあまり認識していませんでした。
 「日本国憲法下で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方を、日々模索しつつ過ごして来ました。伝統の継承者として、これを守り続ける責任に深く思いを致し、更に日々新たになる日本と世界の中にあって、日本の皇室が、いかに伝統を現代に生かし、いきいきとして社会に内在し、人々の期待に応えていくかを考えつつ、今日に至っています。」「憲法のもと、天皇は国政に関する権能を有しません。そうした中でこれからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私の気持ちをお話しいたしました。」
 この中にある天皇の憲法に対する認識、つまり天皇自身が憲法の言うところの「象徴」とは何かを考え、天皇は日本国憲法を国民と共に歩んで憲法を守っていくことに、自分の象徴としての役割と認識していることをこのメッセージは示しています。このメッセージによって、現政権の改憲プログラムを少なくとも1年遅らせたと言います。

 では私たちはいまのような時代情況の中で、またこの社会を包んでいる政治状況をどのようにとらえていったら良いのでしょうか。やはり個から発して考え続け、国としては独立国として生まれ変わって自分たちのものにしていかなければならない、ということでしょうか。「考えない」国家主義とナショナリズムがどのような結果になるか、歴史から学ぶことをこの映画は教えてくれます。

【スタッフ】
監督:渡辺謙一
プロデューサー:セルジュ・ゲズ クリスティーヌ・渡辺 
撮影:エマニュエル・バレット
編集:マチュー・オーギュスタン
録音:渡辺顕 岸本宗司  
音楽:ジェローム・クレ 
語り:ブリジット・ベルジュ
歴史監修:クリスチャン・ソテール

【出演者】
ピエール=フランソワ・スイリ(歴史学者)
バラク・クシュナー(歴史学者)
ミカエル・リュッケン(歴史学者)
白井聡(政治学者)
山本太郎(参議院議員)
山田宏(参議院議員)
金平茂紀(ジャーナリスト)
宋文州(経済評論家)
喜納昌吉 (ミュージシャン・元参議院議員)
喜納千代(喜納昌吉の母)
伊佐真次(沖縄県東村村議員)

2017年制作/フランス映画/54分
配給:きろくびと

【公式ホームページ】http://kiroku-bito.com/nationalism/

【上映予定】
2018年6月15日(金)19時 うらやすドキュメンタリー映画祭前夜祭にて上映
2018年7月28日(土)ポレポレ東中野ロードショー



 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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