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映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』(原題:I, Daniel Blake)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 福祉国家と言われてきたイギリスでさえも、貧しくつらい立場にある人々に対して、役所はこんな対応なのかと愕然としました。

 イギリス北東部ニューカッスルで大工として働くダニエル・ブレイク。心臓に病を患ったダニエルは、医者から仕事を止められ、国からの援助を受けようとしたが、複雑な制度のため満足な援助を受けることができないでいた。シングルマザーのケイティと2人の子どもの家族を助けたことから、ケイティの家族と絆を深めていくダニエル。しかし、そんなダニエルとケイティたちは、厳しい現実によって追い詰められていく。(映画.com『わたしは、ダニエル・ブレイク』解説より引用)

 ケン・ローチ監督は、無口で実直な大工ダニエルの仕事を地で行くように、彼らの苦しいけれど何かを訴えようとしている生活をそのままに切り取って描いていきます。しかしそこには貧しい人々がこのような状況にさらされていることに対する熱く、強い怒りをひたひたと感じます。
 
 単に、これは福祉の状況に関わる行政の窓口だけの問題ではないでしょう。公務員、役人が、意識的、無意識にかかわらず、困っている人々の視点に立っての対応をしなくなっているのではないか、しかもそれはいま、どうも全世界的に同じ傾向にあるらしい。では彼らはいったいどこを向いて仕事をしているのだろうか?そんなことをまず考えさせます。
 彼ら公務員が、言葉自体は慇懃であっても、人が生きていくということに対して何の想像力も働かすことのない軍隊や兵士と同じようなものになってしまっていることを感じさせます。(そして今、私たちの国では、その軍隊の司令官が数の力で、誰のためのものともわからない法律づくりを強行し、福祉をはじめ人々の長い努力によって作り上げてきたものを次々と壊していっています)

 しかしこの映画の作り手、ケン・ローチ監督は、単にその窓口に立つ公務員やその代理人が悪いと決めつけているのではありません。彼らをそうさせているのは誰なのか、それは回り回って私たちなのではないか、と言おうとしているように思えるのです。
 虐げられている人の存在、かれらがどんな思いでいるかについて、何らかの想像力をもってとらえ、家族、身近な人の問題としてどうしたら良いかを、考えていけるようなものを求めているように思います。

 「若者の貧困」ということが言われて久しいのですが、「自分は彼らとは別だ」「そうでなくてよかった」とか「貧しい困難な状況に彼らがあるのは、彼らが悪い」「自分たちが今の(豊かなとは言わないまでも)そこそこ満ち足りている生活が、彼らによって脅かされては困る」といった気持ちから、そうした貧困の問題の本質を見ようとも、知ろうともしないのではないでしょうか。
 自分に関わりの無いことであれば考えない。
 それは、差別の問題でも、難民の問題でも、戦争をめぐる問題でも同じです。
 そしてそれは、日本国憲法がその保障を国家に対して義務としている人々の生存権、基本的人権そして平和の問題についても同じです。それが今ないがしろにされ、壊されていきつつあります。私たちはどのような社会をつくりたいと思ってきたのか、いま、身近なところから人々の置かれている状況に想像を働かせ、考えていかなくてはならないのではないでしょうか。

 よくこのような映画をていねいに、ていねいに作っていただいた、と感謝です。
 懸命に生きている人々の姿を描き、とくに弱く辛い立場に置かれている人々の姿を描き、共感を感じる映画にしています。そうして今の自分たちのこと、自分たちを含めた社会をどうしていくかを考えさせてくれるケン・ローチ監督に感謝します。
 ケン・ローチ監督は、これまでもこうした厳しい現実の中で、懸命に生きようとする人々を描く作品を作り続けてきたそうですが、それらひとつひとつをこれからていねいに見ていきたいと思います。

【スタッフ】
監督:ケン・ローチ
製作:レベッカ・オブライエン
製作総指揮:パスカル・コーシュトゥー グレゴワール・ソルラ バンサン・マラベル
脚本:ポール・ラバーティ 
撮影:ロビー・ライアン
美術:ファーガス・グレッグ リンダ・ウィルソン
衣装:ジョアンヌ・スレイター
編集:ジョナサン・モリス
音楽:ジョージ・フェントン

【キャスト】
デイブ・ジョーンズ(ダニエル・ブレイク)
ヘイリー・スクワイアーズ(ケイティ)
ディラン・フィリップ・マキアナン(ディラン)
ブリアナ・シャン(デイジー)
ケイト・ラッター(アン)
シャロン・パーシー(シェイラ)
ケマ・シカウズウェ(チャイナ)

第69回カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)
第69回ロカルノ国際映画祭 観客賞
第64回サン・セバスティアン国際映画祭 観客賞
第70回英国アカデミー賞 英国作品賞
第37回ロンドン映画批評家協会賞 英国/アイルランド映画賞

2016年制作/イギリス・フランス・ベルギー合作/100分
配給:ロングライド
公式サイト:http://www.longride.jp/danielblake/
予告編:https://www.youtube.com/watch?time_continue=8&v=MCGECdrGzPY



 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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