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映画『ゲッベルスと私』(原題:A German Life)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 103歳になるこの映画の主人公であり、唯一の登場人物であるブルンヒルデ・ポムゼルが初めて自分の映画を見たミュンヘン国際映画祭で語ったことが印象的です。
「誰かが鏡を持ってきてくれて自分を映し出してくれたようだ。この歳になり、自分の人生の間違いにもあらためて気づかさせてくれた。若い人に見てもらって、歴史を学んでほしい。自分が語ったことは、自分の過ちであり、未来への警告だから。この映画はすべての人が個人の責任とモラリティーについて考えるきっかけにしてほしい。」(映画パンフレットより転載)
 これまで戦争を経験した、あるいはそれに加担し、戦争をつくり出した多くの人が自分の姿を鏡に映し出すこともせずに、世を去って行ったことが、あるいは、それを語っていたとしても、次の世代の私たちはそれを知らず、知ろうとせず、また伝えようともせず、同じ間違いをおかし、重ねていることか。

 ブルンヒルデ・ポムゼルは、1942年から終戦までの3年間、ナチス政権の国民啓蒙・宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルスの秘書を務めました。終戦から69年の沈黙を破り、30時間に及ぶインタビューに答えます。それは戦争と全体主義のもとで抑圧された人々の人生を浮き彫りにします。
 私が彼女の話に最も興味をひかれるのは、客観的にみて、彼女はナチスの戦争の側にいて、戦争をつくり出す側の仕事をした人物の証言である点と「宣伝」省の仕事をしていた、おそらく有能なキャリアウーマンだったことです。政治的「宣伝」、プロパガンダ、教育も含めての国民の扇動、洗脳、そうしたものは、権力の行使に都合に良い方向に抵抗するものの声を抑え、排他的で差別を煽り、戦争への道を進ませることに向けられ、国民を狂喜させていく盲動がどのような「仕事」によって作られていったのかが知りたかったからです。
 客観的に「戦争犯罪に加担した」ということは分かっていながら、そこに巻き込まれるとか、仕方がなかったんだということとは別に、私たち自身が率先してそうしたものに向かって行ってしまうことへの警告が含まれているように思うのです。
 彼女の語り、それは30時間に及ぶものだったと言われますが、それを聞くことは正直苦痛でもありました。しかし彼女の話の間に差し挟まれる記録映像(宣伝映像)が話の中身、つまり彼女の「シゴト」がなんであったのかを具体的に示すものになる。それらこそ自己宣伝と戦争へ道への「宣伝」を目的につくられたものです。
 
 彼女の話の間に差し挟まれる記録映像(宣伝映像)が話の中身、つまり彼女の「シゴト」がなんであったのかを具体的に示すものです。それらこそ戦争への「宣伝」を目的につくられたものなのです。そしてそれは単に宣伝を使ったナチスによる犯罪というだけでなく、アメリカやフランス、あるいはポーランドなどでナチスに抵抗した人たちを宣伝するものも含まれています。それぞれに権力の意図が見られ、宣伝そのものを利用価値があるものとして意図をもってつくられたものです。

 ところがポムゼルは、そうした政治に加担する「シゴト」をしたという自覚は、いまでも持っていないようです。
 「強制収容所があるということは知っていた。しかしそれは国に逆らった人や喧嘩をした人が刑務所に入る前に入るところと思っていた。収容所の実体など知ろうともしなかった。誰も考えていなかった。」と彼女は語ります。
 もちろん彼女の言っていることが真実でないということを問題にするつもりはありません。誰でも自分のやってきたことを無意識であっても肯定的に捉えようとするし、都合の悪い事実は忘れることもあります。ただ問題はそうした「シゴト」をしてきた彼女を今の自分に引き比べどう考えるか、だと思います。
 ポムゼルはじめ、多くのドイツ人は、「見ようとしていなかった」「知ろうとしていなかった」「見たいものしか見ようとしなかった」ということが語られます。しかしそのことは日本の犯した戦争について、戦争を知っている世代が語ることも同じように思います。「私たちは何も知らされていなかった」「だまされていた」「そうした宣伝に疑問を抱いたり、反対することはできなかった」
 さらに今度は私たち自身、今の日本の政治、社会の状態に対してはどうなのでしょうか。民主主義や憲法は守られず、弱いものに対して人権は守られず、誰もがそう思っているのに、不正は不正のままが国会の頂点で放置されました。そしてそれらを報道しないメディア、耳を傾けようとしない多くの人々。そして私たちはまた同じことを言うのでしょうか。「私たちは何も知らされていなかった」「だまされていた」「そうした宣伝に疑問を抱いたり、反対することはできなかった」

映画のパンフレットでこの映画の監督たちが語っています。
 「この映画はけして歴史についてだけの映画ではありません。むしろ現代についての映画なのです。(中略)何故こうなってしまったのか。ほんとうの問題は何なのか答えは簡単ではありませんが、最も重要なことはつねに考えることです。一番恐いことは、私たちが政治や社会に無関心になってしまうことです。この映画は戦争における個人の責任についても語っています。邦題『ゲッベルスと私』の"私"とは、"あなた"のことでもあるのです。あなたが彼女の立場だったら、どうしていましたか?」

監督:クリスティアン・クレーネス フロリアン・ヴァイゲンザマー 
オーラフ・S・ミュラー ローラント・シュロットホーファー
脚本:フロリアン・ヴァイゲンザマー
出演:ブルンヒルデ・ポムゼル
配給:サニーフィルム
2016年制作/オーストラリア/113分

公式ホームページ:https://www.sunny-film.com/a-german-life
予告編:https://www.youtube.com/watch?time_continue=10&v=aqPr8uAuC-4

上映情報:公開中、以下順次、公開予定



 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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