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映画『沖縄スパイ戦史』


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           


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 映画を見る前、この映画は「子どもを巻き込んだ悲惨な沖縄戦」の話かと思っていました。しかしそれだけではありませんでした。現在の、これからの私達の戦争の問題でした。
 憲法9条に自衛隊を付け加えることによって、つまり自衛隊が正式に軍隊となり、軍隊として認められることによって、何がどう変わるのか、旧日本軍と同じようなことを繰り返すことになるのか、まざまざと考えさせる映画でした。

 ふたりのジャーナリストが追った沖縄戦の最も深い闇。
 少年ゲリラ兵、戦争マラリア、スパイ虐殺……
 そして、ついに明かされる陸軍中野学校の「秘密戦」とは?
 (映画『沖縄スパイ戦史』チラシ・キャッチコピーより)

 映画は、沖縄戦(特に米軍が上陸した前後の)日本軍がやった三つの戦術の話によって語られていきます。
(1) 少年兵を動員・編成しゲリラ戦を行わせた日本軍の戦略
(2) 島からの強制移住によって住民の三分の一が死んだ波照間島の「戦争マラリア地獄」
(3) スパイリストを作って行われた住民虐殺、の三つです。
 そしてこれら三つの沖縄戦の「裏の戦争」、つまり敵に向けた戦争ではなく、住民・国民に向けた戦争を指揮・指導し、軍隊に編入し、人々を死に追いやったのが、陸軍中野学校でスパイの教育を受けた若い将校達でした。それらに共通するのは「軍は民を守らない」「機密保持を理由にした虐殺」「作戦の支障になるものは殺す」といった軍の論理であり、方法論であり、考え方であり、システムです。
 そしてその方法論、考え方は今の自衛隊においても受け継がれていることを映画は明らかにし、問題提起します。「日本軍の『軍隊』というシステムにメスを入れない限り、沖縄戦はまた繰り返す」と痛切に指摘します。
 そこには「軍」というものは本質的にそういうものなのか、とあらためて考えさせます。
 憲法9条は、単に「戦争をしない」というだけでなく、むしろ積極的に「人間を戦争に追い込んでいく『軍』というシステムを完全になくすことをめざしたのではなかったのかとあらためて気づくのです。

 長いこと沖縄の北部で文化映画の撮影を行ったことがあるカメラマンの先輩に、こんなことを言われたことがあります。「沖縄の北部の人々は、今でも沖縄戦の話で口に出せないことがある。」そう言われたことをふと思い出しました。それがここでいう「沖縄戦の深い闇」だったのかと。

 「戦争の恐怖は武力攻撃だけではない。むしろ旧日本軍の圧倒的多数が敵と戦う以前に飢餓に倒れ、治る病で命を落とした。さらに非武装の民を殺し、軍部内部で殺し合い、果ては住民同士が刃を向け合う。その愚かさこそ最大の恐怖であり、沖縄戦から真っ先に学ぶべき教訓である。艦砲射撃の雨に打たれた南部の惨状だけでなく、北部の戦争を検証しなければ、なぜ日本軍は『住民を守らなかった』のかという闇に辿り着けない。戦争につきものの『秘密戦』の内実を知らずに、これからの国防も語れるはずがない。」
(映画『沖縄スパイ戦史』パンフレット・三上智恵「島の記憶を無力化するすべての企みを焼き尽くす映画に」より)

 米軍が南部に上陸した後も、日本軍の敗残部隊は先に徴用した少年兵達を引き連れて、米軍攻略の方法として使って、北部山中に逃げ込みます。そこで行われる敗残部隊による住民虐殺、ついて来ることができない者を次々と殺し、そして果ては住民同士に処刑、殺し合いをさせる。その理由は「軍の機密を知ったものを生かしてはおけない」という理由です。
 命に関わる軍の手伝いを住民にさせながら、その結果、軍の機密を知ってしまった「始末の悪い」住民を「始末のつく」状態にすること。それが「裏の戦争」を遂行した工作員達を養成した陸軍中野学校のマニュアルでした。
 そしてそれは、旧日本軍において、また自衛隊においても、軍というものが生来持っているマニュアルであり、指針であるのです。
 では彼らがそうしてまで守るものは何か、それは国民ではなく、国体であり、時の権力者なのです。それは、いま、戦前の軍機保護法に習った秘密保護法を強行し、治安維持法に準じた共謀罪法の制定を強行し、憲法を変えて、軍隊に思いのままに(支障になるものを弾圧しても)その働きをさせようとする準備に重なります。その体制づくりは着々と進められています。
 
 自衛隊が「軍」になると何がどう変わるのか。軍隊というものの持っているそうした構造的な欠陥、人命軽視、無視。その中でも日本軍は特に自分たちの兵士の人命も、住民や子どもの人命をも軽視した戦いばかりやってきました。
 だからこそ、「軍」という存在そのものが、憲法が守ろうとしている人権であったり、個人の自由の権利と矛盾するのです。憲法は第9条だけでなく、日本国憲法全体で戦争のもとになる「軍」を否定しているということをこの映画からあらためて考えました。今、その憲法が変えられようとしている中にあって、この映画は、これから私たちがどうなるか、どうしたいのかを考える映画と思います。

【スタッフ】
監督:三上智恵 大矢英代
撮影:平田守
編集:鈴尾啓太
音楽:勝井祐二
プロデューサー:橋本佳子
協力:琉球新報社、沖縄タイムス社
製作協力:沖縄記録映画製作を応援する会
製作:DOCUMENTARY JAPAN、東風、三上智恵、大矢英代
配給:東風
2018/日本/DCP/114分/ドキュメンタリー

公式サイト:http://www.spy-senshi.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=Tsk9ggz-BoY
上映案内:http://www.spy-senshi.com/theater/
都内ポレポレ東中野、渋谷アップリンク、シネマハウス大塚、横浜 シネマ・ジャック&ベティ
石川 シネモンド、名古屋シネマテーク、大阪第七藝術劇場、京都シネマ、広島 横川シネマ、沖縄 桜坂劇場などで公開中、以下全国上映



 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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