法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp


 

岩手(2)

一覧表へ>>
岩教組学テ事件
Y.M.記

 労働者が、自らの労働条件の維持や改善を求めそれを実現していく上で重要となるのが、労働基本権と呼ばれる基本的人権です。日本国憲法28条も、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」とはっきり謳っています。
 ところが、こうした憲法上の規定があるにもかかわらず、公務員は、その職種に従ってこうした労働基本権が制約されるか、あるいはそれがまったく認められておりません。とりわけ、労働基本権の内でも争議権(スト権)は、現行法上、すべての公務員に対して一律に禁止されています。これに関して、地方公務員の争議権を禁じた地方公務員法37条1項とこれに基づく罰則を定めた同法61条4号の合憲性が争われたのが、岩教組学テ事件です。

 1961年10月26日、1961年度全国中学校一斉学力調査(学テ)が実施されることになりました。ところが、岩手県教員組合の執行委員であったYを始めとする7名は、これに反対し、同組合傘下にある市町村立中学校教員に対して、学テの担当者としての職務を返上させ、当日学テを実施させないようにする指示書を発します。同時に、同組合員である小中学校の校長に対しては、口頭で上記の争議行為の遂行を呼びかけ、さらには組合員約50名と共謀して、当日学テの立会人の来校を阻止するために人垣を作って道路に立ちふさがり交通の妨害を行ったのです。
 このことから、Yらは、上記の地方公務員法上の規定、道路交通法76条4項2号並びに120条1項9号に違反したとして起訴されたのでした。

 1966年7月22日、第1審盛岡地裁は、上記の事実を認定してYらを全員有罪としました。けれども、これに対して、1969年2月19日、第2審仙台高裁は、地方公務員法違反があったとされた部分については、これを憲法に合致するように解釈して(合憲限定解釈)その違反成立を否定し、また道路交通法違反があったとされた部分については、労働組合法1条2項の正当行為にあたるとしてその違法性が阻却されるとの判断を行い、全員を無罪とする逆転判決を下したのです。

 しかしながら、1976年5月21日、検察官の上告を受けた最高裁は、2審判決を破棄し、1審判決を支持する判決を下します。
 最高裁によれば、地方公務員も、憲法28条の労働基本権は保障される。しかし、その地位や職務は、「地方公共団体の住民全体の奉仕者」として「直接公共の利益のための活動の一環をなすという公共的性質」を有するのであって、さらにはその労働条件も、条例や税収といった「当該地方公共団体における政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮によって決定されるべきものである」ことから、私企業の労働者と同視して地方公務員に対し争議権を認めることは、「かえって議会における民主的な手続によってされるべき勤務条件の決定に対して不当な圧力を加え、これをゆがめるおそれがある」。また、地方公務員法61条4号が罰則の対象としている争議行為の共謀・そそのかし・あおりといった行為は、争議行為を成り立たしめる「原動力をなすもの」であって、「このような行為をした者に対して違法な争議行為防止のために特に処罰の必要性を認め、罰則を設けることには十分合理性があ」るので、これを憲法28条違反とすることはできない。
 最高裁は、大要以上のように判断して、Yらに有罪の判決を言い渡したのでした。

 確かに、公務員という地位や職務は公共性が強いことから、公務員が私企業の労働者に比べて労働基本権が制限される場面が出てくることは、ある意味やむをえないことなのかもしれません。けれども、憲法が保障する労働基本権の観点からすれば、公務員に対するものといえどもその制限は必要最小限であるべきです。公務員の中にも様々な職種があり、その公共性の強弱に応じて、公務員に対する労働基本権(あるいは政治活動の自由)の制約のあり方について考えていく必要があるでしょう。