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宮城編(2)

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自衛隊市民監視違憲差し止め訴訟
Y.M.記

 2007年6月6日に日本共産党が公表した、陸上自衛隊の「情報保全隊」が幅広い市民活動を監視し続けていたという事実は、世間に衝撃を与えました。「情報保全隊」とは、自衛隊内部において、防衛秘密や防衛施設を外部の危険から防御するために必要とされる情報の収集や整理を任務とする部門のことをいいます。そもそも、日本国憲法の下でそうした組織が存在していることも疑問といわなくてはなりませんが、なによりもそれが日常的に市民の正当な表現活動を調査したりしていること自体、異常なことといわなくてはなりません。
 この事実が発覚した直後の6月11日、宮城県の梅原克彦・仙台市長は、これを当然としていち早く支持を表明しました。しかし他方で注目すべきことに、同じ仙台市内の市民らが、情報保全隊のこうした動きに対し、その差し止めと損害賠償を求めて訴訟を提起したのです。

 2007年10月5日に仙台地裁に起こされたこの裁判で原告となっているのは、仙台在住で写真家の後藤東陽さん、宮城学院大学元学長の山形孝夫さん、仙台YWCA元会長の戸枝慶さん、そして小野寺義象弁護士の4名です。
 後藤さんは、「戦争法反対宮城県民連絡会」という団体の代表を務め、また小野寺弁護士も同連絡会の運営を担う「宮城憲法会議」の事務局長としてこれに参加していました。一方、山形さんと戸枝さんは、2004年12月8日に後藤さんと共に、自衛隊のイラク派遣の差し止めや違憲確認を求める訴訟を仙台地裁に提起したことがあり、これは現在も仙台高裁で係争中です。
 ところが、今回明るみに出た陸自情報保全隊の内部資料をみたところ、後藤さんが代表を務めている同連絡会が監視の対象になっていたことが判明します。具体的には、2004年1月から2月にかけて、同連絡会が参加しあるいは主催したイラク派兵反対集会がしっかりと記録されていたのです。
 となると、時間的にはこれよりも後になる同年末に、このような監視を恒常的に受けていた後藤さんと共に自衛隊イラク派遣差し止め訴訟を起こした山形さんと戸枝さんも、情報保全隊から同様の監視を受けていたであろうことは、そもそも自衛隊にとってこの裁判がもつ重大性からいっても、容易に推定できるわけです。
 また、小野寺弁護士は、これまで後藤さんが代表を務める同連絡会の活動の企画立案や実施に積極的に携わってきており、今回内部資料に記録されていた集会でも統括的な役割を担っていました。さらに、小野寺弁護士は、山形さんと戸枝さんが後藤さんと共に提起した先の自衛隊イラク派遣差し止め訴訟の弁護人も務めています。
 以上のことから、この4名の原告は、陸自情報保全隊によって継続する自分たちへの監視活動が著しい精神的苦痛を与えているとして、憲法上の表現の自由、プライバシーの権利、思想良心の自由、平和的生存権に対する侵害などを訴え裁判に及んだのです。

 情報保全隊による市民への情報収集活動に対して訴訟が提起されたのは、この裁判が全国で初めてのことです。原告の後藤さんは、訴訟提起後の記者会見の中で、「監視されていることは不愉快であり不安だ。私は戦時中憲兵に殴られ、腰を悪くした。あの恐ろしい時代を繰り返してはいけない」と、この裁判にかける強い胸の内を語りました。
 この裁判は、昨年12月17日に第1回口頭弁論が開かれ、3月17日に第2回口頭弁論が仙台地裁で開かれました。今後の動向が注目されます。

なお、この裁判で原告側が提出した訴状と原告の小野寺弁護士による解説が、NPJのHPに掲載されておりますので、併せてご参照下さい。
訴状 
解説