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秋田(2)

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秋田市国民健康保険税条例事件
Y.M.記

 日本国憲法83条は、「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない」として、いわゆる「財政民主主義」(「財政法定主義」と呼ばれることもあります)を基本原則として定めています。そして、これは課税についても同様です(84条)(「租税法律主義」と呼ばれます)。
 かつてのイギリスによる植民地への恣意的な課税が、それへの不満を契機としたアメリカ合衆国の独立をめぐる戦いに発展していったことはよく知られていますが、このことからも明らかなように、財政に対する民主的コントロールの問題は、実は立憲政治の誕生とも非常に結びつきの深いものだったのです。
 つまり、国家を運営するための資金となる私たちの税金が公正に徴収され適正に支出されていることを監視していくためには、なによりも私たちの代表からなる国会が法律でもってその収支をしっかりとチェックすることが重要となってくるわけです。
 この点が、地方自治体の条例に基づく課税処分の税率算定基準の曖昧性という観点から争われたのが、秋田市国民健康保険税条例事件です。

 Xさんらは、秋田市の住民で、秋田市国民保険税条例に基づいて1975年度から1977年度にかけて保険税を徴収されました。ところが、同条例は税率を定率または定額という形で定めてはおらず、また税率算定の基礎となるはずの課税総額についても、それを確定する方法が極めて不明確なものとなっていました。そして、この結果、Xさんらは、市の自由裁量で算出された税率で保険税を徴収されるということになったのです。
 そこで、これを不服としたXさんらは、同条例が「租税法律主義」の要請する「課税要件法定主義」と「課税要件明確主義」に反して違憲無効であり本件課税処分も無効であるとして、処分の取り消しを求める訴えを起こしたのでした。

 1979年4月27日、第1審秋田地裁は、税率が定率または定額で定められていないだけでは「租税法律主義」違反とはならないけれども、しかし、本条例中の税率算定基準となる課税総額に関する規定は、そ「の認定を課税庁である被告の裁量に任せた趣旨と解するほかな」いので、これは「一義的明確を欠き、・・・課税額を予測することは全く不可能であるうえ、・・・法的安定性と予測可能性を付与することを目的とする租税法律主義の原則に反する」と述べ、Xさんらの訴えを認めました。
 そして、1982年7月23日、被告秋田市の控訴を受けた仙台高裁秋田支部も同様に、Xさんらの訴えを支持する判断を行ったのです。

 本件は、従来学説上において議論されていた「課税要件法定主義」と「課税要件明確主義」を判例において「租税法律主義」の構成要素として認めた上で、しかもそれが条例に基づく地方税ついても及ぶということを明らかにした点に意義があるといえます。
 しかしながら、しばしば指摘されるように、自ら納める税金がどのような使途に用いられているのかといった、財政に対する一般的な国民の関心はそう高いものとはいえなさそうです。立憲政治の出発点ともなった財政に対する民主的コントロールへの意識の覚醒が、この国の主権者意識を高めるひとつの契機となるのかもしれません。