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群馬

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群馬司法書士会事件
Y.M.記

 団体とそこに所属する個人の関係は、時に厄介な問題を提起することがあります。その団体が、ある職業などについて、法律によって強制的な加入を義務づけられる性質のものである場合には、特にそうです。そこでは、団体が多数決で決めたことによって、その構成員である個人の様々な価値観や世界観が無視されてしまう場合が出てくることもありえます。群馬県司法書士会事件では、まさにこの点が争われました。

 事の発端は、強制加入団体である群馬県司法書士会が、1995年1月に発生した未曾有の大災害である阪神淡路大震災によって被災した兵庫県司法書士会に対し3000万円の拠出金を寄付すること、そして、それに伴い同会所属の会員から登記申請1件あたり50円の復興支援特別負担金を徴収することを決議したことでした。
 これに対し、同会所属の司法書士Xをはじめとする何人かの司法書士が、こうした寄付は会の目的の範囲外にあり、そのような決議は違法・無効であるとして、この決議に基づく債務の不存在確認を求める訴訟を起こしたのです。

 1996年12月3日、前橋地裁は、この寄付が会の目的の範囲外にあり、そのような決議は無効であるとして、Xらの訴えを認めました。これに対し群馬県司法書士会側が控訴した1999年3月10日の第2審東京高裁判決は、第1審前橋地裁判決を取り消し、Xらの訴えを棄却しました。
 Xらは上告。しかし、2002年4月25日、最高裁は、基本的に第2審東京高裁判決と同様の立場に立ちながら、やはりXらの訴えを棄却したのです。最高裁によれば、司法書士会の目的には、司法書士会法に規定される目的(旧14条2項)「を遂行する上で直接または間接に必要な範囲で、他の司法書士会との間で業務その他について提携、協力、援助等をすることもその活動範囲に含まれるというべき」であり、本件におけるような寄付行為もその範囲に含まれる。そして、そのような寄付金の調達方法については、「それが公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合を除き、多数決原理に基づき自ら決定することができるものというべき」であり、司法書士会が「いわゆる強制加入団体であることを考慮しても、本件負担金の徴収は、会員の政治的または宗教的立場や思想信条の自由を害するものではな」い。以上のように最高裁は述べて、Xらの訴えを退けたのでした。

 本判決については、事件の原因となった特別負担金の性質が、阪神淡路大震災の復興支援というものであったことから、憲法学の中では、こうした会員の協力義務を司法書士会の目的の範囲内に含めた判断を肯定的にみる向きも少なからずあるようです。実際、事案の性質に着目すれば、この判断は妥当であったといえるのかもしれません。
 しかしながら、それでもなお、この事件の教訓として注意しておかなければならないのは、強制加入制をとる団体がいわば会員を内部に封じ込めたまま、安易な多数決によって会員個々の思想・信条などを封殺してしまいかねない危険性は常にありうる、ということであるように思います。

<寄稿>強制加入団体における一般会費からの政治献金

吉岡周三(司法書士・行政書士、法学館憲法研究所賛助会員)

強制加入団体における構成員の思想・信条の自由の問題については、既に、南九州税理士会政治献金事件と群馬司法書士会震災復興支援金事件という2例の最高裁判決があります。同じく今私も、この問題について考えるもう一つの素材となる裁判に原告(控訴人)としてかかわっています。そこで、この裁判(「兵庫県行政書士会政治献金事件」)についてご報告させていただきます。

〈事実の概要〉

原告(控訴人)は、兵庫県司法書士会の会員であるとともに兵庫県行政書士会の会員でもある。そのどちらも強制加入団体である。
被告(被控訴人)、兵庫県行政書士会(以下、単に被告会という)は、平成11年より関係する政治団体、日本行政書士政治連盟兵庫県支部(以下、単に政治連盟という)に対し、定時総会決議に基づき一般会費を使って毎年寄付を行っていた。※1
平成17年の総会に出席した原告は、上記寄付の事実を知り、神戸地方裁判所尼崎支部に違法支出額に対する一人当たりの割合額を基準に算定した損害賠償請求及び平成17年総会決議一部無効確認請求の訴えを提起した。
※1(1)政治連盟の役員の大部分を被告会の会長以下、役員が兼務し、また、政治連盟の会費の徴収をはじめとした政治連盟の事務を、被告会側が行っている。事務所経費を初めとした政治連盟が本来負担すべき経費は被告会が肩代わり負担するという形で種々の特別利益供与(政治資金規正法上は寄付にあたる)がなされている。
  被告会は政治連盟とは別団体だとするが、現実には一体化した関係にあるといえる。
(2)平成17年の総会資料のなかの予算書(案)の中には支出科目として問題となった「規制緩和対策費」50万円、「法改正対策費」80万円との記載がある。しかし、この50万円及び80万円の合計130万円が政治連盟へ寄付されることの記載はない。
一方、政治連盟の平成17年の定期大会提出の決算書の収入科目には「寄付金」とあり、そこには130万円を本会から規制緩和対策費他として受けた旨記されている。
会員の多くはこの裁判が始まるまで、被告会が政治連盟に寄附していたことを認識していなかったようである。
(3)政治資金規正法第21条は、被告会等の団体が政治団体に寄付することを禁止している。被告会は「団体」として政治連盟へ寄付することは出来ない。
政治連盟は、被告会の総会での決議により受けた「団体寄附」を「個人」から受け取った寄付と偽った収支報告書を作成し、これを選挙管理委員会に提出していた。

〈原告の言い分〉

1 目的を明示して徴収する特別会費と異なり、支出目的を知らせず反対の機会を与えないまま一般会費から支出することを認めることは、容易に且つ、多額の金員を寄付することができる抜け道を与えることになり、後述参考例の南九州税理士会政治献金事件判決が生かされなくなる。
2 特別会費の徴収に限らず一般会費からの支出であっても、会員の意思に反して政治団体に寄付されることは、反対する会員の思想・信条の自由を侵害する。
3 会社法に定める代表訴訟のような制度が無いなかで会の財産的損失を救済する方法として無効確認訴訟も手段の一つとして適切な方法ではないのか。
  一般会費からの支出であっても違法な支出により会に財産的損害が生じたといえるのであり、ひいては会員個人に損害が発生していると評価できるのではないのか。

〈被告の言い分〉

(1) これまでも議員立法により行政書士法が改正され、これによる業務拡大は会員全員に等しく利益が及ぶ。政治連盟の財政的基盤の安定に寄与することは被告会の目的の範囲内である。
(2) 総会決議により支出されたもので問題は生じない。
(3) 予算は既に執行済みである。
(4) 原告に損害は発生していない。

〈地裁の判断〉(神戸地裁尼崎支部平成17年7月17日判決)

「県政治連盟は党派性を帯びた活動を含め、広範な政治活動を行なっているのであるから、本件寄付は、被告の目的の範囲外の行為といわざるを得ない。」と政治連盟への寄附を目的の範囲外の行為であるとした。
しかし、総会決議の無効確認を求める利益が原告には無いとし、総会決議無効確認を求める訴えを却下。
また、損害賠償請求についても「本件寄付は一般会費から寄付金を支出したものであり原告の思想・信条の自由を侵害するものとはいえない。損害賠償(慰謝料)請求権を発生させるような不法行為を構成するものとはいえない。」として請求棄却した。

〈裁判を行っての感想〉

この種の裁判は、「それはおかしいよ」と言うことに結構勇気がいるということ、またそれ以上に大変な根気が必要とされることがわかりました。そしてその根気が続くかは、裁判を起こしたその人を支える支援者の力によるところが大きいということを。
特定の業界の利益を口実に個々の構成員の人権尊重をないがしろにしてはいけない。特に法律を学ぶ者が憲法の精神を考え、これを発展させる立場に立たずして何を学んだといえるのか。法律家と称するものが法に違反することをして何故に法律家といえるのか。
憲法を学んだ初心に戻ってこの訴訟を支援者とともに闘っています。
今、大阪高等裁判所にかかっています。
第1回口頭弁論期日は
10月26日午前10時00分  大阪高裁第5民事部81号法定(別館8階)です。
何をどう主張立証していくべきか、どう活動していくべきか、共に考えていただければ幸いです。

〈過去の参考裁判例〉
1、南九州税理士会政治献金事件(最高裁平成8年3月19日判決) 
この事件は、政治献金するために一人当たり5000円の特別会費の徴収決議を行ったこと、これに反対して会費の納付を拒否した会員が一定の会員権の停止処分を受けたという点で今回の事件と少し異なる。
最高裁判所は、税理士会が政党など政治団体に金員の寄付を行うことは、たとい税理士にかかる法令の改廃に関する政治的要求を実現するためのものであっても、税理士会の目的の範囲外の行為であり、こうした寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の決議は無効であると判決した。
また、政治団体に対し寄付するかどうかは、選挙における投票の自由と表裏をなすものとして会員各人が自主的に決定すべき事柄であるというべきである、として団体の多数決原理によって会員にその協力を強制できないことを明らかにした。

2、群馬司法書士会震災復興支援金事件(最高裁平成14年4月25日判決)
この事件は、群馬県司法書士会が阪神・淡路大震災により被災した兵庫県司法書士会に対し復興支援拠出金を寄付することとし、その資金は一般会計からの繰入金と同会会員から登記申請1件当たり50円という特別負担金の徴収でまかなう内容の総会決議を行ったもので、その目的が倫理的、人道的見地から実施されたものであるという点で今回の事件と異なる。
最高裁判所は「本件寄付は同会の目的の範囲内の行為である」とし、「本件拠出金を調達するための負担金の徴収は、会員の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を侵害するものではない」と判決した。

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